あたし? わたし?

 キャラクターの一人称や語尾、癖には悩む。


 男の子なら「僕」「俺」ていどで済む。


 でも女性でリアルな一人称を表現をするなら「あたし」だ。

 かと言って、登場人物が「あたし」だらけだと、いくら地の文で区別してあげたとしても、なかなかに難しいものがある。

 ちなみに現実の職場は、私以外はみんな女性だ。

 と言ってもハーレムではない。既にオッサンである私が一番年下なのだから。

 だから、お察しというものだ。


 でも、年齢に関係なく女性の一人称は「あたし」だ。

 わざわざ「『わ』たし」と言うのはいったん口を丸める日本語の発音上、とても面倒くさいことらしい。



 では例えば作品の中で、女性キャラが同じ場面で同時にたくさん出る時はどうするべきか?

 だって、どっちも「あたし」っ子なんだから。

 なので、多少は創作である以上、読者には「このセリフを言ったのはこの子ですよ」となかば強引に示すしかない。

 それが地の文であり、そういう意味での三人称の地の文は慣れると楽だ。



 拙作『東洋の魔女』には、ヒロイン、ライバルの学級委員、魔女という女性キャラが複数出てくる。

 ヒロインは高校生らしく「あたし」、ライバルは学級委員なので「わたし」。

 サブヒロインの魔女は江戸生まれなので漢字の「私」。 

 金髪縦ロールの魔女は「わたくし」、友達の魔女は「あたし」。

 それでも『あたし』達が同時に出る時は、互いに姿が見えないとか、それぞれの発言の前後に地の文を挟むということで凌いだ。



 同じく、『あの娘に「すき」と言えないワケで』は現代ファンタジー。

 ヒロイン、その姉、同窓生、ご先祖の幽霊と一人称『あたし』達のオンパレード。

 だもんで、特定の文字を言えなくさせる祟りという展開で「あたし」「あっし」「あたい」と、それぞれの一人称を強引に変えていった。



 現在連載中の『神のまにまに』はもう大変だ。

 ヒロインは女子高だし、周囲も女の子だらけだ。

 何人か「わたくし」「わたし」「ワタシ」などという一人称のキャラを加えているが、細かく地の文を挟んだり、物語の視点を都度、変えていくしかない。



 では、なぜこんな茨の道を歩くのかというと、女の子キャラが好きだからだ。

 作中の彼女達が楽しそうにしていると、物語が映えるというか。

 男主人公や女性主人公の作品も両方書いたりしているが、男キャラは希薄で個性薄というのが私の作品の定説なのは、いつも下読みをしてくれている友人達の評。


 かと言って完全な女性向けの作品が書ける訳でも無い。

 今時の周囲がハーレム作品で、男主人公だけ自我と意識が欠如しているのに、無意識のうちに知らぬ間に勝手にモテていました、という訳でも無い。


 男主人公の目線であったとしても、周囲の女性キャラに翻弄されていく主人公を対比として淡々と描いていくことで、物語を進めていくからだろう。

 男キャラの主観だけではなく、あくまで対等な存在として描いた場合、男は女性のパワーに一歩引いてしまうもの。

 現実の職場や家庭も、そんな感じでしょう、きっと。


 その中で苦笑して、頭を掻いて、髪を掻き上げて、うんざりとした表情を湛えて、嫉妬に頬を膨らませて、笑みを浮かべて、瞳に涙を溜めるのは、時に男の子の方なのかもしれない。


 それが普通であり当然、とは言えないのが、やっぱり今の時代の流行との乖離なんですかね。

 

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