⑨恐怖
実隆の豹変に、信介は呆然とすることしかできなかった。
かつての禍々しい記憶が甦る。「トモダチ……」という言葉とともに近づいてきていたのは、異形の怪物たち。それに正気を失った知性ある人々。恐怖が繰り返されている。思考が止まっていた。
「おい!」
声が聞こえた。それは実隆に向けてのもので、泰彦の声だ。
泰彦は実隆の肩を掴み、どうにか正気を取り戻させようとしていた。それに実隆が反応する。
「あ、すまん。意識が朦朧としていた」
まるで、今の今まで気を失っていたかのような反応だった。
何事もないように、再び歩き始める。
それでも、信介は動けないでいた。また、いつ実隆が正気を失うかわからない。また、いつ奇怪な生物がその姿を現すかわからない。
繰り返される怪異に囚われ始めていた。
「信介、行くぞ」
実隆が出発を促してくる。それでも足がすくんで動かない。
その様子を後方で見ていた泰彦が大きな声を上げた。
「信介!!」
洞窟の中を泰彦の声が響き、山彦のようにその名前が何度も繰り返される。
「お前がリーダーだろ。俺は
それを聞いて、信介は苦々しく笑った。そして、生気を取り戻す。
「抜かしやがる、ポンコツのサブリーダーのくせによ。
まあ、声をかけてくれて助かったぜ。これからも、その調子で頼む」
その言葉と共にパーティは再出発した。
歩きながらも、実隆は不安を口にする。
「さっきも言ったと思うけど、これからこの大空洞は崩れ落ちるんだ。これを俺は確信している。
それがいつかはわからない。何年も先なのか、何十年何百年と先なのか。あるいは今日か明日起きることかもしれない。もっといえば、数分後、あるいは今すぐ起きることなのかも」
そのつぶやきに信介は苛立った声を上げた。
「それは何が言いたいんだ」
実隆は信介の不機嫌な様子には慣れたものである。平然と答えた。
「つまり、いつこの場に危険が迫るかわからないってこと。この場はできるだけ早く立ち去りたい」
実隆の言葉はあとの二人も共感するところだ。こんな場所はとっとと後にしたい。
しかし、それがすぐに叶う望みではないからこそ、慎重に道を調べ、一歩一歩を着実に進んでいるのだ。
「そんなこと言ってもなあ……」
信介が声を荒げようとした時、突如として地震が起きた。
揺れの大きさを確認しつつ、それぞれが自分の足元を確保する。思ったよりも揺れは大きく、長く続いた。
三人は恐怖で顔を引きつらせていた。
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