④未開拓地

 未開拓地への突入を前に信介は号令を発した。


「改めて言うが、俺がリーダーだ。俺が先頭を行く。二番目は泰彦。殿しんがりは実隆に任せた。いいな?」


 信介の言葉に対して、二人の同意の声が上がる。

 登山隊パーティにおいて、隊列は重要な意味を持つ。一般にリーダーは最後尾を歩き、全体を見渡して仲間たちの体調や状態を管理し、その上でルートに関する指示を出すのが役割だ。先頭を行くのはサブリーダーの役目で、これは実際にルートを選び、道を先導する役割である。

 ただ、これは厳密に守るべきものではなく、メンバーの実力や歩くコースによって変えていい。今回は未開拓地の走破に慣れた信介が先頭に立ってルートを模索し、集団行動に慣れた実隆が仲間の様子を見るという役割分担だ。

 先頭に立つ先導者には心掛けるべきことがある。それは最も足の遅いものにペースを合わせることだ。今回の場合は、泰彦のペースに合わせることであった。


 信介はロープを取り出すと、近くにあった岩に括り付ける。そして、ロープを持ったまま稜線を降りていった。

 そして、適当な木を見つけると、その木に先ほどと同様にロープを括った。


「泰彦、俺が通った道はわかるよな。そこを通って、ここまで来てくれ。ロープはあるけど、危ないと思った時だけ支えにするようにしろ。

 実隆はロープを回収しながら、降りてきてくれ」


 泰彦は言われたように信介の足跡を辿るが、すぐに足を滑らせ、ロープを掴んでどうにか体勢を立て直す。

 信介の怒号が飛ぶ。


「おい、ロープは危ない時だけにしろって言っただろ」


「いやいや、違うんだよ。今、危なかったんだ。それに、足元が滑るんだよ」


 泰彦の言い訳の言葉が並べ立てられる。実際、初心者にこの稜線をバランスを取って歩けというのが無理なことだった。

 それに対し、後方から実隆が言葉をかける。


「泰彦、ちゃんと足元を踏みしめて、滑らない場所か確認しながら歩くようにしてみ? それに滑りそうなら、ほかの木や岩を掴むんでもいい。ロープは急ごしらえだし、どれだけ耐久出来るもんか、わからんのよ。ロープを掴むのは最終手段と思ってくれ」


 その言葉に従い、泰彦は慎重に歩くようになり、どうにか信介のいる場所に辿り着いた。

 これに実隆は喝采を送り、「上手いじゃないか」と声をかけた。泰彦も満更でないように、ニヘラとした笑みを見せる。

 そして、実隆はロープを解き、回収しながら、信介と泰彦の場所へ辿り着いた。


 このまま、泰彦の面倒を見ながら、未開拓地を降りていくのか。

 うへー、という思いを抱えながらも、信介はロープを抱えながら、さらに奥地へと降りていった。

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