第21話 罪人達への処刑通達~復讐をはじめましょう~





 アザレアは「勇者一行」の居る監獄の通路を歩いていた。

 前にはエンレイ、そして後ろにはローブで全身を隠したストレリチアがいる。

「陛下、御后様。この独房にいるのがコーネリア王国の騎士、ルスロット・ナイツです」

「……ストレリチア、大丈夫か?」

「陛下、お気遣い感謝いたします」

 ストレリチアの落ち着いた様子に、少し安心しながらもアザレアは若干不安だった。


 アザレアが執行を何時にするか尋ねると、ストレリチアが「元仲間」の刑を執行する前に一度会うことを求めていた。

 そしてその後執行して欲しいと。


 幾ら、精神的に落ち着いたとは言え、アザレアは少し不安だった。

 だからアザレアは、ストレリチアの負担になっていると感じたらそこで会話を終わらせる、自分が傍にいるという条件付きで許可した。


 独房の扉をエンレイが開ける。

「何かございましたら――」

「余が対応する、案ずるな」

 アザレアはそう言って独房の中へと入った。

 魔術防壁で向こうはこちらに来れないようになっている場所で、睨みつけてくる罪人を見据える。

「貴様、ダチュラ様を開放しろ!! でなければコーネリア王国が黙っていないぞ!!」

「口を開けばそればかりだな、貴様とあの神官は」

 アザレアは呆れた声で罪人を見据える。

「――口を開けばダチュラ様、ダチュラ様。あの時も、そうよね」

 罪人が目を見開き、フードで顔を隠しているストレリチアを見る。

 ストレリチアはフードを脱いで冷たい眼差しを嘗ての仲間、自分を裏切った輩に向けていた。

「アウイナイト?! 何故お前が魔王と――まさか……」

「もう仲間じゃないんだからどうでもいいでしょう? 何? それとも貴方は私を仲間と思っていたと? あんなことをしておいて?」

 ストレリチアは冷たい表情のまま罪人を見つめる。

「随分と都合のいい頭ね」

「そうだな、そんなだからお前の婚約者はお前に見切りをつけたのだ」

「?! そ、そんなわけがない、テレーゼが私を見捨てるなどありえない!!」

 狼狽える罪人にアザレアに侮蔑の視線を向ける。

「お前の婚約者は王女と女王の本質を見抜いていたぞ。そして女王と王女に心酔するお前との婚約は心の底から嫌悪していた。故に見切りをつける機会をくれた事に感謝さえしてきたぞ」

 アザレアは続けた。

「お前の祖国の女王は罪人として処罰を待つ身、国は次期国王となる王子を王が支え、女王に排斥された善き者達が賢明に国の腐敗を糺している最中だ。次期国王である王子はお前達の処罰をこちらに任せると言った。あちらは国の方で忙しいようだからな」

 ストレリチアはふぅと息を吐いた。

「……今ならわかるわ、テレーゼ様が私に『気を付けて』と言った理由が……でも王女サマがあの男を寝取ってくれたおかげで、今の私があるのだから」

 ストレリチアは淡々を罪人を見て言う。

「じょ、女王陛下が?! 貴様ら――」

「お前の両親と兄弟は王子側で、そして誠実であった為罰は逃れた。それを幸福と思うがよい」

「よかったわね、ルスロット。貴方と違って、ご家族は真面目で誠実だから助かったそうよ」


「恋人を奪うような女を妄信して、不誠実を行った貴方と違って」


 ストレリチアは嗤った。

「この裏切者が……!!」

「それ、貴方が言う?」

 罪人の言葉に、ストレリチアの表情がさぁっと冷たくなった。

「他の国の騎士と問題を起こした時、解決したのは誰? ドラゴンの群れに襲われた時襲われる原因を作ったのは誰で、それを解決したのは誰?」

 ストレリチアは淡々と述べ始めた。

「エルフの里に入るときに騒動を起こしたのは誰? それを解決したのは誰? 狂暴化した魔物モンスターに襲われて半べその貴方を助けたのは誰? 食料がつきかけた時、探しに出て取ってきたのは誰?」

 ストレチアの言葉に、罪人は何も答えない。

「――問題を起こしたのは皆私以外の誰かで、解決したのは皆、私、よね」

 ストレリチアは嗤った。

「嗤っちゃうわね、こんなクズ共と一緒に過ごしたとか、私の生の汚点ね」

 ストレリチアは罪人に吐き捨てるように言う。

「――ああ、でも感謝するわ」


「私は貴方達のおかげで、あんな男と結婚しなくてすんだ」


「モルガナイト陛下という素晴らしくて、素敵で、お優しい方と巡り合うことができた」


「――貴方達の様な屑共に罰を与えることができる」

 ストレリチアは嗤った。

「アウイナイト、貴様魔族の手先になって迄私達に何かする気か?!?!」

「……本当、話を聞かないのね、貴方。分からないの? 貴方が言っている『魔族』に歯向かう国は種族は、もう何処にも存在しないのよ」

 罪人の言葉にストレリチアは呆れたように返した。

「そ、そんな馬鹿な!!」

「ストレリチアの言葉に嘘などない」

 アザレアは現実を受け止めようとしない罪人に冷たく言う。

「今、どの国も種族もあらゆるものが、余の情けを得ようと必死だ。余達を排斥し、神の言葉さえも聞こえないふりをしてきたのだ」

 アザレアはそう言ってストレリチアの肩を抱き寄せた。

「本当は、余が貴様らを見せしめに公開処刑をしようかと思ったのだが、運がよかったな。余の妻が慈悲深くて」

 そう言ってアザレアはストレリチアの黒い髪に口づけをする。

「アウイナイト……」

 何処か安堵したような罪人に、ストレリチアは微笑んだ。

 否、嗤いかけた。

「見せしめなんかにしないわ、その代わり――」


「己の尊厳を粉々に破壊され」


「騎士としての誇りを穢され」


「二度と普通の暮らしなどできない位に」


「犯されてしまえ」


「お前達、全員」


 最後まで言うと、ストレリチアはにこりと笑った。

 無邪気な子どものように。


 蒼白になり、絶望の表情に染まった罪人は体を震えさせている。

「アザレア、この罪人への言葉は他にあるか?」

「今はありません」

「経過を知りたいか?」

「気になった時、教えてくれださいますか?」

「よいとも。では――」


「余と妻が出たらこの罪人への刑の執行を開始せよ」


 アザレアはそう言ってストレリチアの肩をそっと抱きながら独房から出ようとした。

「待って、待ってくれアウイナイト!! 私の話を聞いてくれお願いだから!! 誰もお前の事を――」


 ガチャリ


 扉は閉ざされ、鍵が掛かる。

「……本当、救いのない連中……」

 ストレリチアは呆れたように呟いていた。

「本当、あいつ等と一緒にいた事は私のこれまでの歩みの中の汚点です……」

 自己嫌悪するように言うストレリチアの頬をアザレアは撫でた。

「確かにそうかもしれぬが、それがなければ余は其方と会うことができなかった」

「……そう、ですね」

 ストレリチアはアザレアを見てほほ笑んだ。

「陛下、私は貴方様に出会えて、貴方様に愛されて、本当に幸せです」

 最初に愛を囁いていたころとは違い、穏やかなストレリチアの表情にアザレアは満足げにほほ笑む。

「余もだ、ストレリチア」

 アザレアはそう言ってストレリチアの唇に口づけをする。

「――さて、今日会うと言った罪人は後二人いるが大丈夫か?」

「はい、陛下が御傍にいらっしゃいますから」

 ストレリチアは安心した様に微笑んだ。

「エンレイ、次の独房へと案内せよ」

「畏まりました、陛下、御后様」

「有難うございます、エンレイさん」

「勿体なきお言葉でございます」

 エンレイはストレリチアの言葉に丁寧に返しつつも、嬉しさが隠せないのか少しだけ足取りが弾んでいた。


――やれやれ、リチアの魅力の虜になる者が多いな、愛されすぎてて少し不安になる――


 アザレアは内心そう思っていると、ストレリチアがアザレアの手を握りほほ笑んで小さな声で言った。

「私が一番愛しているのはアザレア様、貴方様です」

 アザレアはストレリチアの言葉に、一瞬驚いたが、穏やかに笑み、手を握り返した。

「私もだ、リチア。其方を一番愛している」

 監獄にはふさわしくない雰囲気で手を握りあって歩き出す。


 今この通路はストレリチアがより幸せになるための道だった。



「お久しぶりです、神官様。流石あの王女サマの傍にいただけの事はありますね、自分が特別だと思い込んでて、本当バカみたいな方」



「お久しぶりです、エルフの魔術師様。流石エルフの里でも一番の魔術師であることを鼻にかけていただけのことはありますね。ご自慢の魔術が使えなくなってどうですか?」



 ストレリチアは嘗て「仲間」だった裏切者たちに、罪人達に声をかけ。

 そして自尊心をへし折り、無能だったことを確認させ、そしてわずかな希望を見せて――容赦なく絶望の其処へと堕とした。



 残る「元仲間」は「勇者」と「聖女」のみ。

 聖女擬きの女は、出産後、様子を見て判断すると言っていた。

 そして「勇者」は――


 ストレリチアを裏切った恋人には――


 式の前に、告げる事になった――






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