第20話エピローグ

 アルフとミリアが生きていた時代から、約千年ののち、学者たちがアイルの森についての研究をした記録が残されている。


 学者たちが疑問だったのは、なぜ森の王になった者は、木から離れられなくなるかということだった。


 森の王が丘を離れれば死ぬ。森の民以外の者が、聖木の領域に入れば死ぬと、言いわれていて、事実、そうなったという言い伝えが残っていた。


 しかし、アイルの森もナームの丘も、他の森や丘と変わらない。普通の自然であったし、聖木と言われた木も、樹齢は古かったが、どこにでもある樫の木に過ぎなかった。


それでも禁忌タブーに触れた者は、倒れてしまったと言う。


 そこで、学者たちは、ひとつの仮説を上げた。

 文明の未発達な時代、科学も未発達であったし、人々の心は今よりも素直で純粋だった。


 その彼らが、禁忌を破ると「こうなる」と、深く信じた結果、つまり「思い込み」によって、実際に体が反応してしまうのではないかと。


 それについての正誤は、まだ結論が出ていない。

しかし、「心の底からそう思えば、そうなる」ことは、あり得ることかもしれない。



 また、森の民についてだが、彼らが生きた頃より、二百年ほど後の時代。ネフェル国王室の庇護により、タウ神殿が勢力を強めた。


 その指揮のもとで、森の民への迫害が激しさを増し、異端狩り、魔女狩りの名目で、多くの森の民が命を落とした。


 アイルの森のカヴンもまた、散り散りになり、生き残ったわずかな者たちは市井しせいに紛れた。


 だが、その信仰や知恵は、誰も知られないところで、ひっそりと伝えられ続けた。


 千年の後、信仰や主義主張が、比較的自由になる時代が来たとき、国の片隅で、彼らの知恵が、芽吹き始めるはずだった。


(終)

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森の王と魔女 ~領主に蹂躙された恋人たち 仲津麻子 @kukiha

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