第49話 闇の森

俺達は蝙蝠エリア攻略の為、視界を塞いでの演習をしながら、狼エリアに到着した。


平行して狩りや素材集めも行い、俺の武器や防具の作成もはかどった。


ゴブサンの部隊のゴブリンには短剣と半球のマジックバックを配備し、ゴブゴロウの部隊のゴブリンには槍と半球のマジックバックを配備出来た。


副官兼、索敵などサポートのゴブリンにも短剣と半球のマジックバックを新たに配備。ローブにもプレートを仕込みマジックバックを使える様にした。


尚、全員がマジックバックの中に、果実の実と鹿の角で作った『火球』と適当に作った『投げ槍』を入れており、いつでも武器として使える様になっている。


よし!千里眼の景色にも慣れ、装備も一新いっしん出来た。

白狼の仇をうちに蝙蝠エリアに行こう。


ゴブイチを見るとコクリと頷き、蝙蝠エリアに向けて一団を進めた。


そう言えば、マシューの装備をどうしようかな?俺はマシューを見る。


マシューも当たり前の様にこちらを見ていた。妙にどこ見てるか謎な感じがするけど、感がいいところもあって、気が合う。いつもいて欲しい場所に何気なくいる。鹿なので、しゃべってくれないから、具体的な事は何も伝わらないし、伝えてもくれない。しかし、以心伝心で感覚的に分かる。結構人としては厄介で、言語化して考えるモノだから非言語で伝わると脳の言語回路を通さないので、白痴になってしまった感覚になる。時間がいつの間にかたっていたりして、慌てる事もあった。マシューを見ていると糠に釘と言うか、暖簾に腕押しと言うか、受け出せない闇の中に入ってしまう様に気になって、なんか怖い。


マシューは俺達のマスコット。立った俺の腰ほどの背丈しかなく、真っ白な美しい柔らかな毛並みに、どこ見てる?という愛らしい眼元をしており、それでも立ち姿は堂々としている。モグモグしている口も大好きだ。


俺はそんなマシューを見ていると、そのままでいいなと思った。


何事もなく、俺達は蝙蝠エリアの手前まで到着する事が出来た。


暫しの休憩。


ゴブイチが魔法の稽古をしてくれと言って来た。


そういえば、ゴブイチは『火玉ファイアボール』を撃ってたな、蝙蝠が飛び出してきた危機的状況で成功させたゴブイチの才能は見事だ。


しっかりと習ってモノにしたいのだろう。


俺は了解して、ゴブイチと魔法の練習をする。


適当な岩を見つけ的とする。


練習と言っても『火玉ファイアボール』何度も撃つしか無いけど、俺が最高の『火玉ファイアボール』に仕上げた感覚を再現させる。ゴブイチは何度も撃っては首を左右に振ったりして練習した。


仲間達もゴブイチの見せる魔法の景色を気に入ったのか?楽しいのか?よく見ていた。


ゴブイチは淡々と繰り返す事に苦わない様で、いつの間にか首は振らなくなっていた。俺は魔力を分け与え、ゴブイチの練習を支えた。


ゴブイチが慣れてきたので、俺はゴブイチの手を取り、杖の先端を的の座標に固定する。しっかりイメージ出来たら、杖を降ろし、的に簡単な魔法陣のしるしを刻み、『火玉ファイアボール』を撃つ。的から発射された『火玉ファイアボール』は真上に飛んで花火の様にぜた。


一同は暫し、その魔法の景色に見惚れていた。マシューもご機嫌でモグモグしながら、目をキラキラさせて見ていた。


マシューは俺とゴブイチのところまで歩いて来ると、眉間の間から魔力の角を生やし、空に向けて魔法を放つ、マシューの魔力が見せた景色は、土のエレメントと火のエレメントが混じり合い赤、青、緑、黄色の輝きを放ち、大空一面に広がった。それは一瞬の出来事だったが、忘れられない美しい光の景色だった。


俺はマシューを抱きしめてヨシヨシする。ゴブイチもマシューの頭を撫でていた。マシューはいつの間にかモグモグしていた。


俺達はマシューから大切な美しいナニかを受け取り、心に刻み付けた。


角白狼が遠吠えをする。


戦いの準備が整った。


ゴブイチは中心に軍団が動き出す。

蝙蝠のいる闇の森に足を踏み入れる。



そこは闇だった。


粘りつく粘度を持って皮膚を撫でる。

薄く感じる空気が足元を怪しくさせる。背に冷や汗が流れる。


全員で寄り添い、肩を組む。慣れるのだ。この空気に慣れる。あの美しい花火を思い出す。ここは闇だ。しかし心の中に光もちゃんとある。俺達は千里眼を発動した。濃密な闇が少しずつ、柔らかでいく。地面が見えて、広がる。木々が分かり、葉の揺れている景色が見えた。俺達は組んでいた肩をゆっくり放し、整列する。


キキキキキキキキキキキッ


何かの鳴き声が聞こえる。


茂みをかけ分ける音だけがする。


静寂。


シンとした中、一人取り残された気になる。何もいないのではないか?そんな気がする。


魔力が濃くなっていく、慣れてきた闇が更に深くなり、胸を締め付ける。


闇の中からポツリと魔力を感じる。闇から生まれたかの様に、ポツリとまた魔力を感じる。その魔力に誘われる様に俺達は進んでいく。


段々と魔力に近づいていく、まばららだった魔力が増えてゆく、その魔力が集まってゆく、何百と数え切れない程の魔力の数になる。


俺達は足を止めた。

その魔力の中にさらに強い魔力が、十、他にも色合いの異なる魔力が三、不規則な並んでいた。


蝙蝠達の出迎えだ。

戦いが始まる。


前の蝙蝠が動き出す。俺達を取り囲んで旋回する。音も無く、俺達の射程の外を嫌らしく周りはじめた。まだ後方にいる蝙蝠達に動きはない。戦力を残して様子見をするつもりだろう。


俺達は前にゴブゴロウ、真ん中にゴブイチ、後方をゴブサンの部隊に守らせ、なるべく死角の無いように構えた。


ゴブサンの部隊に倍はいる蝙蝠達が群がる。急降下して次々と蝙蝠達が突っ込んで来た。


ゴブサン達は落ち着いて、ギリギリまで待って、蝙蝠が避けようの無い距離まで近づくと『火球』を投げた十の『火球』が別々の蝙蝠にぶつかって、燃える。火だるまになって近くの蝙蝠をも巻き込み、燃え上がる。その隙間を縫って別の蝙蝠がゴブサン達に襲いかかった。ゴブサンは冷静に牙を剥く蝙蝠の喉を刺して始末する。他のゴブリン達も同じ様に始末した。低空から忍びよる蝙蝠は白狼達が噛み殺し、角白狼は土壁を角の様に突き出し、陣形を崩す事なく、全てを始末した。


その後は大乱戦になり、蝙蝠達の後方の部隊も徐々に参加して、いつ終わるかも知れないた戦いになる。


隙を見つけて忍びよる蝙蝠を俺達は迎撃していく、ゴブイチの部隊に近づく蝙蝠はゴブイチの『火玉ファイアボール』で的確に処理して、マシューが大きめの火の玉を真上に上げる。マシューの火の玉は土のエレメントが混じり、大爆発する。その火の玉は様々な温度で燃え、虹色の粒となり、蝙蝠達を貫いていく、副官のゴブリンと白狼達は落ちた蝙蝠の処理して、隙を塞いだ。それでも群がって来ようとする蝙蝠を、バババババババッと、俺の『魔弾』が撃ち落とした。


ゴブゴロウ達は前方に『土壁ウォール』を立て、左右の敵だけを槍で迎え討つ。ゴブゴロウは右側で、盾と槍を使い無類の強さを見せていた。


ゴブゴロウ達が蝙蝠を余裕を持って捌いていると、『土壁ウォール』で守っている前方から魔力の高まりを感知した。そして『土壁ウォール』に『風圧プレッシャー』が叩き付けられた。角白狼が踏ん張り、なんとか耐えるが、同時に三つの『風圧プレッシャー』が襲い『土壁ウォール』が崩壊した。至る所から風が巻き起こり竜巻の様にゴブリンの一匹を舞い上げた。ゴブリンはクルクルと回転して空を飛び、蝙蝠に捕まって攫われる。ゴブリンは蝙蝠にたかられバラバラに喰われた。


ゴブイチが指示して副官のゴブリンを向かわせた。二匹の角白狼が『土壁ウォール』を重ねて立てて、蝙蝠の『風圧プレッシャー』を消す。どうやら上位種の大蝙蝠が出て来た様だ。大蝙蝠の一匹にゴブリン達が投げ槍を放つ、しかし『風圧プレッシャー』を大蝙蝠が放つと投げ槍は勢いを失い、地面に落ちる。

ゴブゴロウは渾身の『魔槍』を撃つ。

『魔槍』は『風圧プレッシャー』を切り裂いて大蝙蝠の土手っ腹に突き刺さる。

また二匹の大蝙蝠が『風圧プレッシャー』を角白狼の『土壁ウォール』にぶち当たり、ゴブリン達は地面にしがみつき耐えている。


離れて見ていた俺は、一匹の大蝙蝠の顔に魔法陣を描き『魔弾』を暴走させる。更に『魔槍』を放ち『風圧プレッシャー』をモノともせず無傷の大蝙蝠の頭を貫いた。


なんとか落ち着いたゴブゴロウ達を見て安心する。


今後はゴブサンの後方で魔力が高まる。大蝙蝠の三匹が『風圧プレッシャー』放つ。ゴブイチは自分の角白狼を向かわせ、白狼に乗り換えた。


ゴブサン達の前に『土壁ウォール』が重ねてかけられ、なんとか混乱せずに耐えられたが、『魔球』を投げても当たる事は無かった。


大蝙蝠は位置を変えながらも『風圧プレッシャー』を出し続けると隙間から蝙蝠が現れ、ゴブリンに襲いかかる。その空いた穴から蝙蝠達が容赦無くたかる。


一匹の白狼とゴブリンが蝙蝠の牙の餌食になる。


慌てたゴブサンが両手に黒い短剣を持って躍り出た。蝙蝠達の口に目に眉間に刺さるところをめちゃくちゃに刺し、突き進む。


ゴブサンの真横から『風圧プレッシャー』迫った。肘を上げて耐えるが、ゴブサンの身体が浮き上がる。


「ローブを握れ!!」

俺は声の限り叫んだ。


白狼が飛び付き、ローブを噛んでゴブサンの集団の元へ後退あとずさる。浮き上がったままゴブサンは纏わりついた蝙蝠を蹴飛ばすが、足を噛まれる。ゴブサンはローブに首を絞められ、気を失った。

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