第35話 ボス戦

戦いがはじまる。


大狼達の遠吠えが彼方此方で木魂する。


ワラワラと湧き出す狼達を退けながら、一団となって俺達は走る。


足を止めたら狼達に飲み込まれてしまう。


ゴブシロウが先走り、狼の軍勢に穴を空ける。


ゴブゴロウとゴブニン、ゴブサンが穴を広げる。


俺達はその背を押す様についていき、岩のエリアの中ほどにたどり着いた。


石畳みのステージはもうすぐだ。


狼達の抵抗が強まる。大狼ばかりが群がって来る。


狼の特殊個体、ネイムドだろう三匹が現れ、戦闘に参加する。


俺達の足が止まり包囲された。


大狼の頭を踏み台にして、ゴブニンが飛び出し、派手に立ち回る。一匹のネイムドが後を必要に追いかけている。


ゴブニンは場所を変えながら、逃げ回り、戦場を掻き回してくれた。


気が逸れた大狼達が隙を見せると的確にゴブゴロウとゴブサンが仕留め、ゴブシロウが大剣を振り回し、大狼を寄せ付けない。


殿のゴブイチは、ゴブリン達を手足の様に操り、危なげなく大狼の数を減らしていた。


ネイムドは俺の獲物だ。予備の槍に魔力を込め、


『魔槍』


と叫び投げつける。


『魔槍』は一匹の大狼を巻き添えにネイムドの胸を貫いた。


俺は残りのネイムドを探していると、一際大きな遠吠えが響く、


そして!!


ドドドドドッ!


地響きが鳴り、俺達の足元を揺らす。

岩のエリア全体が波の様に唸り、狼達の軍勢も巻き込み揺らした。


ボスは魔法を使うのか⁉︎


立っていられず、両手をついて見上げると、


石畳みに真っ白な巨大な狼が、俺達を見下ろしていた。


とうとう狼王が参戦してきた。


千里眼で魔力の元を探ると狼王の真下から蜘蛛の巣の様に魔力が伝わり、岩で囲まれたエリア全体に地震を起こしていた。


地震が収まると腰を抜かしたゴブリン達が、大狼に取り囲まれて喰われそうになっていた。


殿に居たゴブリン達の危機を感じ、黒剣を鞘から抜いて振り返ろうとするとゴブイチに突き飛ばされた。


ゴブイチは大声で一喝し、俺や無事な仲間を石畳みに向かわせる。


ゴブリン達は喰われながらも槍で突き、抵抗した。時間稼ぎ、時間稼ぎしかならないが、懸命に役割を全うした。


ゴブリン達の気配が消える。


そして単身、大狼の群れに飛び込み、敵を撹乱していたゴブニンの気配が消える。


余りの事に気が動転する俺を、ゴブイチが必死に支え押してくる。


何が大将だ!馬鹿野郎!!


先頭のゴブシロウが命懸けで前に出る。ゴブゴロウとゴブサンがサポートして突き進む。


ゴブシロウの動きが止まる。ネイムドの牙で大剣を受けられた。俺はゴブシロウの脇を抜け、ネイムドに衝撃波を叩きつけた。順番が逆転して俺が先頭を走る。


しかしゴブシロウがついて来ない。守られてはゴブシロウは活きないのだ。


殿をゴブシロウが引き受けて奮戦する。


漸く、石畳みに到着し振り返るとゴブシロウの背中が見えた。その背後からネイムドの陰が忍びよる。「ゴブシロウ」と叫びぶと、振り向きざまネイムドを一刀両断するゴブシロウ。満足そうに微笑むと大狼の群れに飲まれてしまう。


石畳みは狼王のテリトリーなのか、囲まれる事は無かった。しかし俺達が入った侵入口に大狼が押し寄せ、プールを守る様に狼王が立ち塞がる。


一刻も早くボスである狼王を討たなければ!


背後にはゴブゴロウ、ゴブイチ、ゴブサンと横並び、大狼を食い止めている。


ここに来る目的の為に散っていった仲間達の為にも、俺がここで決着をつけねばならない。


左手の杖を上げ、


『魔弾』『魔弾』『魔弾』『魔弾』


『魔弾』を狼王に連発する。しかしと云うか、やはりと云うか、『魔弾』は狼王が出す石畳みからの壁で防がれてしまう。


魔法の打ち合いになるのか?近づいて衝撃波を叩き込みたいが、どうすればいいのかわからない。


俺の逡巡の隙に、狼王は魔法を放つ。


一瞬にして俺の足元に魔力が集まり、

石畳みが跳ね上がる。


ここは奴の庭の様なモノ、ステージ全てが武器になるのか⁉︎


慌てて飛び退くと、次々と足元から石壁が俺を突き飛ばそうと迫って来る。


見ていては間に合わなくなる。千里眼で魔力の起こりを先読みする。

そうだ。奴と同じ事をしてやる。


奴はステージ全てに魔力を巡らせ、離れた位置に石壁を出現させる。


俺は千里眼で位置を決める。魔力の最小の粒に意識を入れ、中に入ると膜を感じる。膜と俺の皮膚感覚を共有する。ゲートを開き、亜空間に繋がる俺の魔力で杖の先端を作り。


『魔弾』と叫んだ。


突然、狼王の足元が爆ぜる。動きながら、感覚を再現する。マジックバックで何度もやっている事だ。

見て入って、皮膚で亜空間ドン!

見て入って皮膚で亜空間ドン!

見て入って亜空間ドン!

見て亜空間ドン!


逃げ回りながら、千里眼で決めた場所から魔法を放つ。何度も繰り返しているうちに狼王の足元は傷ついていく。


一方的に痛めつけられ、苛立った狼王は、近づいてきた俺に噛み付く。千里眼で見ていた俺は、狼王の動きが丸分かりだった。


頭を下げて、喉元を潜り抜け、足を衝撃波で切り落とす。


前足を痛め、左足を失った狼王は横倒しになる。素早く後ろに回り込み、渾身の衝撃波を首に叩きつけた。


まもなく狼王は光の粒子になって消えた。

大きな魔石を残して。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る