第15話 魔球

今、俺は森に潜み、ホブゴブリン達の前哨基地をゴブリンの強化された目で見ている。


俺が来た道以外にも道があり、何度目かの往来を確認出来た。その道は下草など綺麗に取り除かれ、きちんと整備されている。

荷車の前後を二匹のホブゴブリンが護衛し、前四匹、後二匹のゴブリンが動かしている。大量の物資をどこかへ輸送している。


結構組織だった動きをするゴブリン達に、知能の高い上位種の存在を匂わせる。


ここは、今の俺では攻略は無理だな、

現状の確認をしてみる。


俺は最弱のゴブリン、槍が一本あるだけだ。アイテムバックには数枚のコインとゴブリンの魔石二個、赤い魔石が五個あった。

魔力は充分溜まっているが、回復と身体強化くらいしか出来ない。

ファイアーボールが使えれば遠距離から安全に攻撃出来るが、杖もないしやり方がわからん。

更に人間の時に着ていた装備と背負い袋の中身など、腰にはベルトと解体用のナイフがあった。


そう言えば、槍を飛ばす技は結構いいかもしれない。真っ直ぐに飛んでいく槍は扱いやすいしパワーがある。欠点は一本しかないし、魔力がすぐ尽きてしまう。魔力の問題はしっかりとしたイメージを名前を使って固めれば、何度か撃つことも可能だろう。


何か他に探さないとゴブリンの身体で肉弾戦をする羽目になる。


遠距離攻撃か?


コインでも投げるか?数えると30枚の銀貨がある。一応全て魔力込めて自由に取り出せる。


やはりコインを投げるのは気が引けるのでジャングルでいい物がないか?探してみよう。


前哨基地から距離を取り、森の中をかき分けながら進む。すると足元に木の実が沢山落ちている。痛んでいたり、食べられているので害は無さそうだ。見上げるほどに高い大木の先に木の実がなっているのが見えた。


腹も減っているし、登って食べてみよう。ゴブリンは軽量ながら握力が強くスルスルと登る事が出来た。枝の先には、子どもの頭ほどもある熟れた果実が鈴なりになっていた。


一つ取って食べてみる。口一杯に広がる甘味に疲れが癒される。うまい!!

ムシャムシャ夢中で食べると拳大の硬い種があった。齧るが歯がたたないほど硬く、真丸の形をしていた。


投げやすい形だし、武器になるかもしれない。沢山あるし、何よりお腹が膨れて一石二鳥。


回収だ!

意思をマジックバックの中のコインに向ける。適当なやつを選び、魔力でアンカーされた亜空間のコインを手の平表面の魔力の膜のゲートから覗き込むと、一瞬にしてコインが引き寄せられる。コインとゲートを魔力で包んでゆっくりとバイパスを広げていく、これでは入らないので、手の平を中心に魔力の球を半径30センチほどに大きくする。これでバイパスも広げ易くなり、準備完了だ。


鈴なりの果実を下から亜空間に入れ、ナイフで枝を切るとストンと消える。その作業を繰り返し、大木の上になっていた果実の粗方を回収する事が出来た。これだけ有れば暫く飢える心配はないだろう。


下に降りて、落ちた果実の残骸を漁ると真丸の種が無数に取れた。一つ一つ魔力を込め、亜空間に回収する。百個の種を入れると疲れたし、キリがいいのでやめて、練習をする。


左の手の平に亜空間ゲートを作り、右手を差し込んで種を掴む、振りかぶって投げる。名前を決めなくては同じミスをして魔力を込め過ぎてしまうので「魔球」としよう!


身体を魔力で強化して「魔球」に魔力を少し込める。投げると重さが無い様に真っ直ぐ進む。光る魔力のラインがカッコいい!!


バン!と音を立てて木の幹に当たると真丸の種の半分が幹に埋まっている。これはもしかして中々の威力があるのでは?試してみたい!


森を探索すること一時間くらい、鳥や猿など小型の動物達で練習がてら狩りをする。魔物の気配はなるべく避けている。


大体射程は30メートルくらい、頑張って50メートルくらいだな。風も無いし真っ直ぐ飛ぶし、目も強化されているので、慣れてくると簡単に当たる様になった。


威力は充分。獲物を吹っ飛ばしてくれるので、動物相手ならダウンさせる事ができる。後は解体してお肉になる。


問題点は、「魔球」は振りかぶって投げるので、予備動作がどうしても大きく、勘付かれたら逃がしてしまうことも多かった事。とりあえずはこれでやるしかないけど。


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