第10話

学校へ言ってまともな会話なんて少しもせずに帰宅する子供がどのくらいの人数いるんだろう。



私は下駄箱の前でぼんやりと立って意味もなく思考を巡らせる。



小学生とか中学生ならまだわかるけれど、私はもう高校生だ。



友達の1人も作ることができないなんて情けない。



私は自分に失望しながら下駄箱の中に手を突っ込んで白い運動靴を手にとった。



しかしそれは今朝とは違ってボロボロに切り刻まれていて、とても履けるような状態ではなくなっていた。



学校へ来てほんの数時間の間に変貌してしまったみたいだ。



何度も洗って何度も乾かして丁寧に使っていた靴だけれど、これじゃさすがに捨てるしかなさそうだ。



心はフィルターがかかったように鮮明でなくて、もしかしてこの靴は私のものじゃないのかも? なんて、楽天的な考え方まで浮かんできてしまい、ゴミ箱へ近づいたときに3人組が影から出てきたものだから、その楽天的な思考回路はすぐに閉ざされてしまった。



ゴミ箱に靴を投げ込むとガコンッと重たそうな音がした。



「私のことを笑ったからこうなったんだよ」



そういったのは夕里子だった。



夕里子は片手に大ぶりはハサミを持っていて、私に見せつけるようにジャキジャキと動かして見せた。



「笑ってなんて……」



言い訳をする暇もなく3人は笑いながら帰っていってしまった。



私の失望する姿を見るためだけに残っていたみたいだ。



私はまだ少しぼんやりとした気分で3人の後ろ姿を見送り、そして上履きのままで外へ出たのだった。


☆☆☆


「あら、靴はどうしたの?」



家に帰ったときお母さんがちょうど庭に出て花に水やりをしていたのでごまかすことができなかった。



とっさに「野犬に持っていかれた」というと、お母さんは目を白黒させた。



あのね、今日学校に野犬が入り込んできてね、それで持って行っちゃったの。



なんて幼稚な言い訳だろうとつくづく思う。



だけど途中で内容を変更することはできない。



言い始めた嘘は最後まで言わないといけない。



「あの変にも野犬っているのね。そういえば同級生の子が知らない男に殴られたって本当なの?」



野犬の話しから突然飛躍して私は一瞬頭が追いつかなかった。



由希のことを連絡網などで聞いたのだろう。



「うん、そうみたい」



私は玄関に入り、昔履いていた運動靴を取り出した。



色はパープルであまり可愛くないやつを、バーゲンで購入したのだ。



ほとんど履いていないそれは新品同様で、試しに足を突っ込んでみると以外にもしっくりきた。



その場で足踏みをして、玄関前の姿見で確認すると以外と似合っていることがわかって気分がよくなった。



なんだ、これも可愛いのかもしれない。



私のせいでずっと下駄箱に入れられていた運動靴はようやく活躍ができると喜んでいるようにも見える。



「ねぇ、聞いているの?」



お母さんはまだなにか話を続けていたようで、私は「うん。気をつける」と気のない返事をして家に上がったのだった。

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