美少女ギャルの好きな人が、どうやら同じクラスにいるらしい?

こりんさん@コミカライズ2巻5/9発売

美少女ギャルの好きな人が、どうやら同じクラスにいるらしい?

「私、実はこのクラスに好きな人がいるんだよねぇ」


 それは、一学期も終わりに近付いたある日のこと。

 所謂スクールカーストの頂点にいるような女子グループの中から、突然教室中に聞こえるような声で放たれたその一言。


 聞こえてしまったというより、敢えて聞こえるように話された気もするその一言に、教室内の空気は一変する。

 何故かと言えば、それは勿論クラスの男子達が、その一言を完全に意識してしまっているからだ。


 普通なら、ここまではならないだろう。

 たった一人がそんなカミングアウトをしたところで、みんな聞き流すか胸に留めておしまい。


 では、何故男子達がここまで反応してしまっているのかと言えば、それは言った人が特別な存在だからに他ならなかった。


 彼女の名前は、梅崎花音うめさきかのん

 同じ二年三組のクラスメイトにして、彼女は学年を飛び越え、学校で一番の美少女と言われているほどの美少女なのだ。

 元々派手めな顔立ちではあったが、髪色を明るくし更にあか抜けたように思う。

 色白で、スラリとモデルのようなプロポーションをした美少女ギャルというのが、彼女に対する俺の印象。


 近付けばいつも良い香りがして、その短いスカートからはスラリとした健康的な長い足が伸びる。

 そんな露出度の高さも相まって、クラスの男子達の視線をいつも集めてしまっているのは言うまでもないだろう。


 最初は「ギャルは好みじゃない」と言っていた奴でさえも、数日同じクラスで一緒に過ごしてしまえば、その意見が180度変わってしまってしまう。

 それほどまでに、同じクラスにいるだけで異性の気持ちを鷲掴みにしてしまう美少女ギャル。

 それこそが梅崎花音という特別な存在なのである。


 そして、そんな特別な彼女とたまたま同じクラスになった俺の名前は、上杉雄大うえすぎゆうだい

 俺がどんな人間なのかと言えば、花より団子って言葉を男に使っていいのかよく分からないが、まぁそういうタイプの人間だ。

 つまり俺という人間は、そんな特別な美少女の存在なんかより、頭の中は自分の趣味のことでいっぱいなのである。


 ちなみにその趣味とは、カードゲームだ。

 俺は小学生の頃から、兄の影響で始めたカードゲームにどっぷりとハマってしまい、高校生になった今でもそれは継続中なのだ。

 だから今も、どんなデッキを組もうかと脳内で構築を考えているだけでも、はっきり言ってめちゃくちゃ楽しいのだ。


 そんな俺にとって、彼女の好きな人がいる発言は正直どうでもよかった。

 そもそも、こんな俺なんかとは無縁の話なのだから――。



 ◇



 時は経って、二学期も終わりに近付いてきた頃。

 思い返せば、梅崎さんのあの一言によって、この教室の環境は大きく変わってしまったことを思い出す――。


 まず一つ大きな違いと言えば、あれからなんとクラスの男子達が、次から次へと梅崎さんへ告白をしだしたことだ。

 このクラスに好きな相手がいる――その本人の口から飛び出した情報に、僅かな望みを託してクラスのお調子者が告白したのが皮切りだった。

 そのあとは、もう本当に次から次へと男子達が梅崎さんに告白をしていくのだが、残念ながらその全てがごめんなさいされてしまっているのであった。


 その結果、最初は告白するつもりのなかった人達までもが、梅崎さんへ告白をし出す。

 告白していない男子の数が減っていくことに比例して、徐々に上がって行く成功の確率。

 母数が減れば減るほど、期待せずにはいられない男子達による告白の連鎖が生まれているのであった。


 いつしかクラスの男子達からは、「梅崎さんに告白するのはスポーツ」と言われるようになり、俺もさっさと告白して散ってこいと冷やかされたりもしたのだが、申し訳ないがインドアな俺はそんな謎のスポーツに興じるつもりなど微塵もなかった。


 こうして二学期の終わりにもなれば、このクラスで梅崎さんへ告白していないのは、まさかの俺を含めたったの二人だけになっていた。

 俺ともう一人、それはいつも物静かだけれど、王子様のようにカッコいいことで有名な石井明いしいあきらくんだ。


 石井くんと言えば、ハーフか何かなのだろうか?

 青みがかった瞳に、色白の肌。

 染めているのか地毛なのか分からないが、ふんわりと明るい髪色も相まって、日本人離れしたその容姿。

 そう、ハッキリ言って石井くんは、同性の俺から見ても普通にイケメンだった。


 でも石井くんは、所謂陽キャとか女の子に囲まれているような感じではなく、いつも教室では読書をしていて一人でいることが多い物静かな印象だ。

 だからと言って、話しかければ誰にでも笑って受け答えをしてくれるし、とても接しやすくて優しい印象もある。


 つまり、はっきり言ってしまえば石井くんは完璧だ。

 唯一彼の欠点があるとすれば、それはその見た目とギャップがあり過ぎる名前ぐらいなものだ。

 もっと貴族っぽい名前がついていれば、いよいよラノベとかに登場する異世界王子様の誕生だ。


 まぁそんな石井くんだから、当然女子達からの人気も高い。

 そして、梅崎さんチャレンジも残りは俺と石井くんの二人となった今、最早梅崎さんの想い人は確定的になっていた。


 梅崎さんの想い人は、やっぱり石井くんなのだろうと――。


 完全にお察し状態となった今、男子も女子もその現実に落胆しているのが分かった。

 結局世の中、美男美女がくっつくように出来ているのだと――。


 そんな、不公平なようで実は物凄く公平な結果に対して、みんなの興味はいつ二人がくっつくのかに変わっていた。


 まぁだから、俺に至っては告白するまでもなくフラれているようなものなのであった。

 俺自身、おかげでわざわざ告白なんてせずに済んだのだから丁度良かったけれど。


 それに俺は、あることにずっと気付いているのだ。

 梅崎さん自身、たまに石井くんのことをじっと見ているということに――。


 まるで早く言えよというように、じれったそうに石井くんを見つめる梅崎さんの視線。

 それはもう、完全に恋する乙女のそれに見えた。


 そしてついに、この梅崎さんチャレンジにも終わりの時がやってくる――。


 二学期も終わりに差し掛かったある日のこと。

 クラスのお調子者の鈴木くんが、石井くんへ話しかけたのだ。


「なぁ石井、もうすぐ二学期も終わるぞ?」

「え? ああ、うん。そうだね」

「そうだねって、いいのかよお前……」

「いいのかよって?」


 不思議そうに、首をかしげる石井くん。

 その様子から、本当に何を言われているのか分かっていない感じだった。

 そんな石井くんの反応に、お調子者の鈴木くんの我慢はいよいよ限界に達してしまう――。



「だぁー! もうっ! だーかーらー! 梅崎さんだよ梅崎さんっ!」


 その声に、教室中の視線が一斉に石井くんへ集まる。

 鈴木の奴が、ついに均衡を崩しにかかったと――。


 そしてその視線の中には、友達とお喋りを楽しんでいた梅崎さんの視線も含まれていた。

 梅崎さんのその表情には、誰がどう見ても焦りの色が表れてしまっていた……。


 その透き通るような白い頬を赤く染め、これから石井くんに言われる言葉にドキドキとしている様子が見て分かった。


「梅崎さんが、どうかした?」

「どうかしたって、お前はやんないのかよ? 梅崎さんチャレンジ!」

「梅崎さんチャレンジ? あぁ……ぷっ」


 鈴木くんの言葉に、石井くんは堪え切れずちょっと吹き出してしまう。

 こんな風に笑う石井くんは初めて見た。


「――えっと、ごめんね。僕は梅崎さんチャレンジはしないよ」


 そして石井くんは、煽る鈴木くんに対して笑いながらそうはっきりと返事をする。

 そのきっぱりとお断りする言葉に、クラスのみんな驚きを隠せなかった。

 絶対に二人は両想い、少なくとも梅崎さんの想い人は石井くんで間違いないのだ思っていたから――。


 そう、二人なら絶対にお似合いだと、このクラスの全員が認めていたのだ。

 だというのに、まさかの石井くんから簡単にはしごを外されてしまったのである。


「え、ちょ、お前! それでいいのか!? 梅崎さんはお前のこと――」


 驚いた鈴木くんは、そこまで口にして慌てて口を押える。

 いくらなんでも、それ以上は首を突っ込みすぎだと思ったのだろう。

 まぁ俺からしてみれば、もう既に十分首を突っ込みすぎている気しかしないが、たしかに人の気持ちまで他人が語るというのは筋違いだろう。


「えっと、鈴木くん?」

「な、なんだ?」

「その……言いにくいんだけどさ、僕は梅崎さんのこと、別に何も思ってないよ?」


 ダメ押しのように告げられたその言葉に、教室内の空気が一瞬にして凍り付いていく――。

 それはもう、石井くんからの梅崎さんへの完全なお断り発言だった――。


 そして当然のように、教室内の視線は石井くんから梅崎さんへと向けられる。

 すると梅崎さんは、いきなり振られたことが悲しいのか、恥ずかしいのか、その顔を真っ赤に染めながら石井くんのことをじっと睨みつけていた。

 その目尻には涙を溜め、抗議するような表情を浮かべる梅崎さんの姿は、こんな時に思う事ではないのだけれど、正直ちょっと可愛いと思えてしまった――。



「ちょっと! バカ明!!」



 そして梅崎さんは、耐え切れず立ち上がると、石井くんをじっと睨みつけながら不満の声をあげる。


 ――え、明?


 しかし俺は、ある違和感に気が付く。

 それは、梅崎さんが石井くんのことを下の名前で呼んだことだ。


 二人が話しているところなんてほとんど見たことが無かった俺は、二人って下の名前で呼ぶような仲だっけ? と単純な疑問が思い浮かぶ。


「――あー、ごめんね、花音ちゃん」


 そしてなんと、石井くんまでも梅崎さんのことを下の名前で呼んだのである。

 恐らくそれは、梅崎さんの方から下の名前で呼ばれたことで、石井くんもそれに引っ張られて自然と出てしまったという感じだった。


 だが、そうなるともう後には引けなくなる。

 クラスのみんなも、二人が突然下の名前で呼び合っていることに対して困惑している様子だった。


「ごめんじゃないし! どうすんのよっ!?」


 梅崎さんは、この収まりがつかなくなった状況に耐え切れず、石井くんへと詰め寄る。

 そして向き合う美男美女は、じっと顔を突き合わせる。


「――だったらさ、花音ちゃんもしたらいいんじゃない? チャレンジ」

「は、はぁ!?」

「悪いけど、頼まれたってやっぱり無理だよ」

「ちょ、それ! 今言うなしっ!」


 無理だと言う石井くんの口を、慌てて両手で塞ぐ梅崎さん。

 それはきっと、それ以上何か言われては困る言葉だったのだろう。


 つまりは、梅崎さんには何か石井くんに頼むような、秘密があるということだろうか――。


 だが、石井くんはそんな梅崎さんの手を掴んでそっと退かすと、真剣な顔付きで梅崎さんへ語りかける。



「――花音ちゃん。こういうのはさ、誰かに言わせるんじゃなくて、ちゃんと自分の気持ちは自分の言葉で伝えないと駄目だと思うよ」

「……」

「私に告白してって、そんなお願い聞けないよ」


 その一言で、まるで点と点が線に繋がったようだった。

 つまりは、梅崎さんから石井くんに告白してこいと言っていたというわけだ。

 たしかに、女の子の方から告白するのは勇気がいる事なのかもしれない。

 けれど、お願いされた石井くんの方はというと、どうやらそんなお願いに応じるつもりは全く無さそうだった。


 つまりそれは、好きなら相手に言わせるのではなく、自分からちゃんと言って欲しいという事なのだろう。


 俺はそんな、美男美女の中に生まれた主従関係を、ただぼーっと傍観する。

 なんていうか、ちょっと現実離れしているというか、いつも明るくてみんなの憧れの的である梅崎さんが、こんな風に誰かの下に回っていることがちょっと信じられなかった。


「……分かったわよ」


 すると梅崎さんは、そんな石井くんの言葉にぼそっと返事をする。


「うん、頑張って」


 そんな梅崎さんに対して、石井くんは背中を押すように優しく答える。

 その結果、ついにこのクラスで今日まで続いていた、梅崎さんチャレンジも終わりの時がやってくる――。


 梅崎さんは、一度大きく息を吸い込む。

 そして、覚悟を決めるように言葉を発する――。







「上杉くんっ! ずっと好きでしたぁ!!」






 え…………?


 その完全に予想外過ぎた言葉に、教室内の空気は再び凍り付く――。


 ――今、なんて言った?


 状況が全く掴めない俺は、困惑を通り越して最早混乱する。

 なんでここで俺の名前が出てくるのか、全く意味が分からなかった。


 ――一回、さっきまでの流れを整理しようか。


 えっと、鈴木くんが石井くんを煽って、その結果石井くんは梅崎さんが好きじゃないと答えた。

 それで怒った? 梅崎さんが、石井くんのもとへと詰め寄る。

 そして石井くんから、自分の気持ちは自分で伝えないと駄目だよと言われ、梅崎さんは勇気を出して自分から告白をすることになった。


 ――うん、そうだ。そうだったはずだし、そこまではおかしいところは特にない。


 じゃあ、やっぱり俺の聞き間違いじゃないだろうか。

 そう結論付けた俺は、そんな梅崎さんに向かって極力平静を装いつつ声をかける。


「――えっと、梅崎さん? 相手の名前、間違えてるよ」

「間違えてないしっ! そ、それでどうなのっ!?」


 しかし、何故か間違えてないと答える梅崎さんは、そう言って俺のところまでやってくると机にバンッと両手を付く。

 そして、ぐいっと近付けられる梅崎さんの顔を前に、俺の胸の鼓動はドキドキと加速していく――。



「いや、え? 何、ドッキリ!?」

「違うしっ!」

「え、ごめっ! じゃあ、その、ほ、本当に!?」

「そうだしっ!」

「そ、そっか……えっと、じゃあ……一つだけ確認させて頂いてもよろしいでしょうか?」

「言えしっ!」


 もう完全に自棄なのだろう。

 顔を真っ赤にしながら、梅崎さんは勢いだけで返事をしてくる。

 だから俺は、この場にいる全員が気になって仕方ないであろうことを、まずは確認させて貰う事にした。


「じゃあ、その……どうして、俺なの?」


 そう、どう考えてもおかしいのだ。

 梅崎さんが俺を好きになる理由なんて、ずっと俺を可愛い可愛いと育ててくれた両親ですらも理解に苦しむレベルに違いない。

 それぐらい、平凡でただのカードゲームオタクの俺には、全くと言って良いほど心当たりが無さ過ぎたのだ。

 だからこれは、絶対に罰ゲームか何かの類に違いないと思っているほどに――。


「そ、それは……」


 言い淀む梅崎さん。

 その様子に、俺はやっぱりかと確信する。

 ふと教室内を見回すと、さっきまで梅崎さんと一緒にいたギャル達は、こちらの様子を面白そうに見ていることに気が付いた。


 その様子から察するに、最早確定的だった。

 これは所謂、嘘告白ってやつなのだろうと――。


「私は、その……前に上杉くんに、助けて貰ったことがあるの……」

「お、俺が?」

「うん、去年の夏休み。街で助けてくれたっしょ……」


 その言葉で、俺はふとある出来事を思い出す。



 ◇



 去年の夏休み。

 新しく出たカードゲームのパックを買いに街を歩いていた時のことだった。


 ちょっと人目のつかないところで、男二人に囲まれている梅崎さんの姿を見つけてしまったのだ。

 それに気付いてしまった俺は、別に喧嘩が得意なわけでも何でもないくせに、変な正義感だけでその場に割って入ってしまったのだ。


「あの、梅崎さん?」

「あ? 誰だよお前?」


 俺が梅崎さんへ声をかけると、明らかに不良っぽい男二人がこっちを睨みつけてくる。

 その状況に、俺は内心かなりビクビクしながらも、こうなってしまってはもうあとには引けないと決心する。


「いや、すいません。その、梅崎さんとは今学校行事の最中でして」

「はぁ? 行事?」

「ええ、はい。というか、すぐ近くに先生もいるので、もうすぐこっちに来ると思うんですけど……」


 俺がそう言うと、不良二人は顔を見合わせる。

 そして、さすがに不味いと思ったのか、慌てて走り去って行ってしまったのであった。

 勿論、先生がいるというのも学校行事の最中というのも、たった今思いついた真っ赤な嘘だ。


「だ、大丈夫ですか?」

「ご、ごめん……ありがとう……」


 力なく微笑みながら、ほっとした様子で答える梅崎さん。

 その様子から、笑ってはいるものの怖かったといのが受け取れた。


 その整った容姿から派手に見えなくもないが、こうして初めて会話をしてみた印象は普通の女の子だった。

 だからこそ、恐らくナンパされて囲まれてしまったことが怖かったのだろう。


「え、えーっと、送ろうか?」

「ううん、大丈夫。ありがとう」


 何て声をかけて良いのか分からなかった俺は、あまりに下手くそな言い回しと共に手を差し出す。

 しかし梅崎さんは、恥ずかしかったのかその頬を赤く染めながら、大丈夫と言ってそのまま走り去って行ってしまったのであった。



 ◇




 それが、去年の夏休み。

 俺が唯一覚えている、梅崎さんとの記憶だ。


 ただ、あれから梅崎さんとは特に会話をした記憶が無ければ、こうして同じクラスメイトになったこと以外何も接点なんてなかったわけだが……。


「あれから私、上杉くんにお礼しようと思ってたんだけど、中々言えなくってさ……」

「あ、ああ、そうだったんだ」


 恥ずかしそうに話す梅崎さんの言葉に、俺まで恥ずかしくなってしまう。

 でも、なんでそんなに恥ずかしそうにするのかがよく分からなかった。

 普段の梅崎さんであれば、そんなことで困る人ではないと思えたからだ。

 すぐに「この間はありがとね!」ぐらい言えそうなものだと――。


「あれからさ、学校で上杉くんに会ったらすぐに言おうと思ってたんだ。――でも、なんかその、タイミングが掴めなくてさ……、それで、上杉くんの様子を窺うことが増えていって、何て言うか、その……」

「そ、その……?」


 やたらと歯切れの悪い梅崎さんの説明。

 俺が聞き返すと、梅崎さんはまた覚悟を決めるようにその口を開く――。


「良い人だなって、思うようになったの……!!」

「い、良い人?」

「そうっ! みんなやりたがらないことを率先してやってたり、わたし以外の子にも優しくしてるところとか凄く良いと思うし、あとは実は笑った顔がすごく可愛いとか、結構背が高くてスタイルもいいとか、そういうの全部含めて良いなって思ったの!」


 内に秘めていたものを、全て吐き出すように語られたその言葉。


 ――そ、そうだったのか……。


 俺は自分でも、困っている人がいればほっとけない性格をしているとは思っている。

 それこそ、梅崎さんの時だってそうで全て無自覚でやってることだった。

 だからこそ、そんな自分の行いを見て、俺のことを良いと言ってくれる梅崎さんの言葉は、素直に嬉しかった。

 笑った顔云々は、ただただ恥ずかしいのだけれど……。


「そ、それでどうなのっ!?」

「ど、どうと言いますと!?」

「す、すすす、好きって言ったことに対する返事っ!!」


 ああ、そうだった……。

 俺はたった今、梅崎さんに告白をされたのだった……。

 すっかりそんな重要なことが頭から抜け落ちてしまっていた俺は、再び無い頭をフル稼働させる。


 えっと、梅崎さんはあの日のことをお礼しようと思っていたものの、俺に話しかけるタイミングを見失っていた。

 それで俺の様子を窺っているうちに、俺の良いところに気付いてくれて、それで気付いたら好きになってくれたということ……だよな?


 ――いやいやいや! 相手はあの梅崎さんだぞ!?


 そう思い、俺はもう一度梅崎さんへ目を向ける。

 そこにはたしかに、学年一の美少女と名高いあの梅崎花音さんが立っている。

 そんな有り得ない状況を前に、ここはしっかりと応えるべき場面だと頭では分かっているにも関わらず、情けない俺はもうクラクラと目が回ってきてしまうのであった……。


 すると、そんな俺の背中にそっと手が添えられる。

 驚いて振り向くと、そこには石井くんの姿があった。


「もういいよね。実は花音と僕、従兄妹なんだ。それでこの間、自分に告白していないのは残り僕と上杉くんの二人だけだから、お願いだから上杉くんの前で私にフラれてってお願いしてきたんだ。――勿論、そんな恥ずかしいお願い、僕が受けるはずもないんだけどね」


 この行き場のない状況を見兼ねたのか、そう言って石井くんが割って入ってきてくれたのだ。

 そしてその語られた言葉は、全くもって予想外の真実なのであった。


 梅崎さんが石井くんのことをチラチラ見てたのも、さっきあんな反応を見せたのも、その全部が思っていた理由と全く違っていたことに驚きを隠せない――。


「――それにさ、こういうのはやっぱり本人の口からしっかり伝えるべきだと思うから」


 そう言って石井くんは、俺の背中をポンと優しく押してくれた。


 ――ああ、そっか。たしかに、石井くんの言う通りだ。


 石井くんの言葉に納得した俺は、おかげで初めて自分の気持ちと向き合えた。

 そして、俺はあるがままの気持ちとともに、恥ずかしそうに顔を真っ赤に染める梅崎さんに向かって返事をする。


「――えっと、正直に言えば、凄く嬉しいです。でも、やっぱりいきなり付き合うことは出来ません」


 俺の言葉を受けて、見る見るうちに青ざめていく梅崎さん――。

 しかし俺は、ここですぐに付き合おうだなんて都合の良い返事をしてしまうことは、何だか違うと思ったのだ――。


「……わ、分かった」

「待ってください、梅崎さん。だから僕と、まずは友達になりませんか?」

「ふぇ……? と、友達?」

「はい、そうです。まずはお互いのことをしっかり知りませんか? そこから始めていけるのであれば、その……こちらこそ、よろしくお願いします」


 そう、まずは友達から――。

 俺という人間は、インドアで、しかもカードゲームオタクで、梅崎さんの思い描いているような優れた人間じゃないかもしれない。


 だからこそ、まずは友達から――。

 こういうのは、しっかり順を追っていくべきだと思ったのだ。



「うん! なりゅぅ! 友達になりゅぅううう!!」


 すると梅崎さんは、一度フラれたと思っていただけに泣きじゃくりながら喜んでくれた。

 そんな泣きじゃくる梅崎さんのもとへ、友達のギャル達がハンカチを差し出しながら集まってくる。


「花音、やっと言えたじゃん」

「おめでとう、花音」

「う゛ん! ありがとうみんな゛ぁー!!」


 そんな風に、ただ泣きじゃくる梅崎さんを見ていると、この告白には嘘なんて微塵も含まれていないことがしっかりと伝わってくるのであった――。



 ◇



「おはよう! 雄大くん!」


 朝の通学途中。

 俺は待ち合わせ場所の公園へ向かうと、そこには今日も一人の女の子がベンチに腰掛けながら俺が来るのを待ってくれていた。

 彼女は俺に気付くと、その明るい髪色の長髪を靡かせながら、嬉しそうにこちらへ駆け寄ってきてくれる。


「おはよう、花音ちゃん」


 だから俺も、そんな彼女に向かって笑いかけながら挨拶をする。

 それから互いの手を取り合うと、一緒に学校へと向かって歩き出す。


 そう、俺を待っていてくれたのは梅崎さん。

 あれから俺達は、梅崎さんからの猛プッシュに押し切られる形で、程なくして付き合うことになったのである。

 結局付き合ったのかと言われればそれまでなのだが、それには一応ちゃんとした理由がある――。


「あっ! ねぇねぇ、この前教えて貰ったデッキの構築、これでいいかなぁ?」

「あー、うん! このコンボ強いしこの構築で良いと思うよ」


 嬉しそうに、自分のスマホの画面を見せてくれる梅崎さん。

 画面に映っているのは、スマホの人気カードゲームだった。


 実はあれから、俺の趣味を聞かされた梅崎さんはというと、なんと知ってるよと答えたのだ。

 そのうえ、実は既にこのカードゲームをプレイしていたのである。


 どうやら最初は、俺と少しでも話が合えばという思いで始めたらしいのだが、やっているうちに普通にハマってしまったのだそうだ。

 勿論俺もそのゲームはプレイしているため、結局趣味の面でも梅崎さんとは気が合ったことで、何も憂うことなんてなくなってしまったのであった。


「よしっ! じゃあこれで十連勝も夢じゃないかなぁー!」


 満足したのか、嬉しそうに微笑む花音の姿に、俺は思わず見惚れてしまう。


「ん? どうかした?」

「いや……今日も可愛いなって思って……」

「えへへー、知ってるぅー」


 俺の言葉に、嬉しそうにニッと微笑む花音。

 そして俺の前に回り込むと、前屈みになってもう一度ニッと微笑む。



「ね、雄大くん!」

「なに?」

「今日さ、学校帰りに、その……家に遊びに行っても、いいかな……?」


 少し頬を赤らめながら、花音は家に来たいとお願いしてくる。

 そんな花音の可愛らしいお願いを前に、俺も顔が熱くなるのを感じる――。



「――う、うん、いいよ」

「やった! ありがとっ」


 オーケーすると、嬉しそうに満面の笑みを浮かべる花音。

 その嬉しそうな笑顔を前にするだけで、俺も自然と笑みが零れてしまう――。


 こうして俺達は、ゆっくりだけれど恋人として一歩ずつ歩み出している。

 まだ右も左も分からないし、こんな自分で本当に良いのだろうかという不安は常にあるのだけれど、それでも俺は、この関係をこれからも大切にしたいと思っている。


 だって俺は、これからもずっと隣でこんな花音の笑顔を見ていたいと思っているから――。


 まぁそんなわけで、学校一の美少女ギャルの好きな人が、どうやらこのクラスにいるらしいと思ったら――それはまさかの俺のことでしたというお話でした。


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