青春の味

砂上楼閣

第1話〜冷や飯とミートボール

朝起きた時には親父はいない。


大工をしている親父は、家族が起きる前には家を出ていつも暗くなってから帰ってくる。


部活の朝練の為に早めに起きているのに、それよりも早く起きて仕事に行ってしまう。


母親も介護の仕事に忙しく、起きるのは俺が家を出た後だ。


朝はいつも冷蔵庫の中の晩飯の残りをレンジで温めて食べる。


時間がないからお茶で流し込むように食べて、昨晩に洗って乾かしておいた弁当箱を取る。


仕切りのない、一段の黒い弁当箱。


そこに4分の3くらい米を入れる。


しゃもじで押して、出来るだけ多く。


残ったスペースにはその日、冷蔵庫の中にある惣菜や多めに残った晩飯を詰める。


よく入れてたのがミートボールだ。


白米と、2パック分のミートボール。


育ち盛りの体は、とにかく腹を満たせる白米と肉を欲しがった。


まだ冷めきってないご飯の横にミートボールを流し込み、蓋をして、鞄に入れる。


着替えて靴を履いたら家を出て、黒いママチャリにまたがる。


学校までは遠くて、けど電車通学は金がかかるから片道50分かけて自転車をこぐ。


毎日ママチャリを全力でこぐから制服のズボンの股のあたりがよく裂けた。


土日も練習があって、ほぼ毎日自転車をこいでいた。


卒業までに三台は壊れて買い替えたし、パンクした数なんて両手の指じゃ足りないくらいだ。


一度雨の日にパンクした時なんか、まだまだ学校まで半分くらいもあって、自転車も置いていけないから抱えるようにして走って行ったこともある。


びしょびしょになりながら走って、なんとかチャイムと同時に滑り込んだのは今でも覚えている。


朝練を終えて、朝のホームルームが始まる頃にはもう腹が減っていた。


けれど昼までは我慢する。


バイトはしていなかったし、もらっている小遣いは携帯の支払いと、好きな本を買うのにほとんど消えていた。


待ちに待った昼休み。


白米とミートボールだけ詰まった弁当箱を取り出す。


冷たいご飯に染みたソース。


バラバラのミートボール。


べたべたになった弁当の容器とフタ。


今から思えば男飯というのも憚られるお弁当だった。


というかご飯だけ詰めて、ミートボールはパックで持っていけばよかったのに。


男子高校生の単純さ、というよりは己の馬鹿さ加減が恥ずかしい。


さておき。


ミートボールとご飯だけのお弁当でも、待ちに待った昼食だった。


ソースに混じってばらばらになった米粒を一粒一粒つまんで口に運んだ。


米粒一つでも残せば怒られて育ったから、食べ物を残した事はほとんどなかった。


もくもくとミートボールと白米を食べる。


誰かと話しながらなんて事もない。


友達がいない、訳じゃない。


食べ終えたらさっさと図書室に行きたいから黙々と食べた。


まぁ色とりどりなおかずの入った弁当と、自分の弁当を見比べたくなかったというのも理由の一つかもしれない。


机を並べて、弁当を突き合わせて食べるのは、なんとなく、嫌だった。


そんなこんなで、クラスの誰よりも早く弁当を食べ終え、図書室に向かう。


昼休みが終わって、午後の授業が終われば部活に出て、ゆったり自転車をこぎながら帰った。


思えば、いつも腹を空かせている学生時代だったかもしれない。


1日3食しっかり食べて、けれど食べ盛りにはそれだけだと全く足りなかった。


朝起きて、晩飯の残りを食べて、また弁当にミートボールを詰めて。


そんな青春だった。

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