第10話 新キャラ登場!?

 五日間の猶予を貰えたので、デザイン案をしっかり作り込んでも時間が残ってしまった私は、就職情報を漁っていた。

 就職先をあっせんしてもらえるとの話は有難いけど、やっぱり自分でも探しておかないと!という申し訳なさと、無職であるあせりがそうさせたのだ。

 出ている会社は変わり映えせず、掲載されているのはすでに落ちた企業や返答待ちの会社ばかりだ。

 まだ会社を辞めて一カ月も経過していないのに、そう簡単に求人情報が入れ替わるわけもない。

 息抜きでもしようと外へ出ると、急に神社にお礼を言いに行かないといけない気がした。

 電車に乗り、たしかこの辺りだったとビル街を歩くと、ぽっかりと緑で彩られた一角が現れる。

 あの神社だ。



 あの時は、本当にたまたまたどり着いたから気にしなかったけど、本当に神聖な空気がある場所だなあ。



 そんなことを思いながら、鳥居をくぐる。

 あの時とおなじ、凛とした空気と外界と切り離されたように喧騒が消える。

 心の中にあった焦りがすっと引いていく感覚がある。



 癒されてる感じがする。これが神様の力ってやつかな?



 ゆっくり大きな深呼吸をして、緑の香りを楽しむ。

 手水をし、神様に参拝する。

 二礼二拍手

 手順を踏んで賽銭箱にお賽銭を以前よりは多めに入れて、神様に感謝をする。



 この神社に来なければ、私は「あやかし街」にたどり着くこともなく、今も不安な毎日でした。

 ありがとうございました。

 まだ先行き不安な状態ではありますが、おかげで落ち着いて前に進むことができます。



 お祈りが済むと、最後に一礼をして踵を返す。

 すると、お社のほうから何かに呼ばれたような気がした。

 振り向くと、そこには綺麗なグレーの毛並みの犬が座っている。



 こんなところに、犬?しかも首輪もリードも付いていない……?



「綺麗なワンちゃん、どうしたの?」



 聞く間もなく、犬は変化した。

 栗栖によく似た、しかしもっと大人の男性がそこに現れる。端正な顔立ちは少し瞳に憂いがあり、栗栖よりもっと黒に近い紫がかったグレーの髪が風になびいている。

 まぶしくて見ることも出来ないくらい、美しい。見とれている私に近づいてきた男性は、開口一番こう言った。



「君が六狼ろくろうの言っていた、板狩杏美いたかりあずみですか?なるほど。普通とは少し違った空気を纏っている。何より私を怖がらない」


「あの、どなたですか? 六狼ろくろうって誰ですか?」



 流石に美青年とはいえ、知らない人に声をかけられるのは怖い。

 少し後ずさりながら答えた私の言葉を聞いて、美青年は困ったように首をかしげている。


六狼ろくろうを知らない? 栗栖六狼くりすろくろう。私の、下の弟なんですが」


「えっ!!?」



 栗栖くんは下の名前六狼ろくろうって言うのか!と、言われてはっとする。

 音だけしか聞いたことが無いので、私はてっきり<クリス>という下の名前だと思っていた。



 あれだけ日本人離れした───本性があやかしなんだから日本人かどうかも怪しいけれど───見た目なのに<ろくろう>って名前なのかあ。

 日本人みたいで親近感持つなあ。



 そんなことを考えながら、栗栖の兄を名乗る美青年の問いに返答する。



「はい、栗栖くんでしたら知っています。リーフ亭でお世話になっています。あなたは栗栖くんのお兄さんなんですね?」


「ええ」



 私の問いを肯定すると、さわやかな笑顔を浮かべた美青年は自分の名前を紫狼しろうと名乗った。

 どうやら、栗栖くんがリーフ亭であった出来事をお兄さん達に話したらしく、私に興味を持った紫狼しろうさんが見に来たそうだ。



「私は、ちょっとした会社を経営していましてね。今は外注に出してはいるが、丁度社内にデザイン担当が欲しいところだったんです。それで、あなたを勧誘できないかと思いまして。

 ただ、流石に人となりが分からなければ採用は難しい。だからこうして逢いに来たんですよ。」


「ええ!? それって、スカウトですか?」


「はい。六狼ろくろうの話では、すばらしく腕のいいデザイナーと聞いております」


「いえ、私はまだ駆け出しですから。そこまで凄いわけでは……」


「謙遜しなくていいのですよ。私もメニューを見せていただきましたが、狐の店には勿体ない出来でした。」



 !? 私のことを助けてくれた狐崎こざきさんを、狐呼ばわり?



 栗栖の兄ということで、少し解きかけていた警戒をもう一度締める。狐崎こざきのことを狐扱いする紫狼しろうに、少しカチンとしてしまったからだ。



狐崎こざきさんともお知り合いなのですね?」


「ええ、もちろん。私たちは神の眷属ですから、昔からずっと知っておりますよ。と言いますか、あの狐とは同じ年齢なので良く比べられました。六狼おとうとも随分懐いていて……」



 狐崎こざきの話になると、物腰が柔らかそうな紫狼しろうの顔が歪み、語尾も少し荒くなっているように感じる。なんだかこの人と話している事が、狐崎こざきを裏切っているような気持ちさえしてくる。

 私は少しずつ後ずさり、徐々に距離を取った。

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