15.限りなくにぎやかな未来

「ほんと……?」

 彩夏はそっと涼真から離れると、おびえるようにして涼真の目を見る。

「あぁ、本当だよ」

 涼真はニコッと笑って優しく彩夏のほおを撫でる。

「やっ、やったぁ!」

 彩夏は最高に幸そうな表情を浮かべ、涼真の胸に顔をうずめた。

 涼真はもう後戻りできない決断をしたことに少し怖気づきつつも、心のままにあることが正しいことだと思い直し、目を閉じて彩夏の体温を感じた。


 すると、うっうっうっ……という嗚咽が聞こえてくる。

「おいおい、どうしたんだ?」

「うれしいの……。うっうっうっ……」

 涼真は湧き上がってくる愛しい気持ちが押さえられず、ギュッと彩夏を抱きしめた。

「いつかは、涼ちゃん、どこか行っちゃうって思ってたから……」

「もうどこにもいかないよ」

「……。約束よ?」

「あぁ、約束だ」

 彩夏は大きく息をつくと、涼真のことをチラッと見あげる。

 そして、意を決すると背伸びをして涼真にキスをした。

 チロチロと可愛い舌が涼真のくちびるをなでる。

 一瞬焦った涼真だったが、想いを押さえられず、彩夏の舌に舌をからませた。

 しばらく熱い想いを確認する二人……。

 しかし、二人ともどこかぎこちなく、歯がぶつかってしまい、そっと離れた。


 えへへへ。

 彩夏は恥ずかしそうに涼真の胸に顔をうずめ真っ赤になった。

「これ、ファーストキス……よ。軽い女じゃないんだからね!」

「そ、そうか……。良かった」

「りょ、涼ちゃんは……?」

「ははは、俺だって初めてだよ。やり方も分からないくらい」

「ふふっ、良かった」

 そう言うと彩夏はチラッと涼真を見上げ、そして、もう一度くちびるを重ねてきた。


 涼真は妹とこんなあからさまな事をしてることに罪悪感を覚えつつも、どんどん心の奥から湧き出してくる抑えられない熱い想いに流されるまま舌を絡めた。


       ◇


 森がまばゆい光に包まれる――――。

 えっ? あれ?


「いやー、ゴメンゴメン!」

 シアンが光を纏いながら森の中に降りてきながら言った。

「頼みますよ、殺されるところだったんですよ?」

 涼真はさりげなく彩夏から離れ、文句を言う。

「でも、結果オーライでしょ?」

 ニヤッと笑うシアン。

「えっ!? もしかして……、見てました?」

 焦る涼真。

「見ることはできたんだけどこっちに来れなくてねぇ」

 ニヤニヤするシアン。

 真っ赤になって無言の二人。

「勇者と巫女の子供、どうなるかな? 楽しみだね!」

「こ、子供!? いや、ちょっと、それは気が早いですよ」

「でも、いつかは作るでしょ?」

「いや……、まぁ……」

 うつむく涼真。

「私は三人欲しいなぁ……」

 彩夏はうれしそうに言う。

「えっ!? そ、そんなの、母さんになんて言うんだよ?」

「あら、ママは応援してくれてるわよ。『孫はまだか』って毎日うるさいのよ」

「へ?」

 唖然とする涼真。もう外堀は埋まっていたのだ。

「ははは、結婚式は金星でやろうよ」

 シアンはうれしそうに言う。

「き、金星!?」

 涼真が焦っていると、

「金色の花が咲き乱れる丘の上に白いチャペルが建ってるんだ。素敵だよ」

 シアンはそう言って映像をパッと浮かべた。

「うわぁ、素敵!」

 彩夏はノリノリで答える。

「あぁ、まぁ、彩夏がしたいところで……って、結婚……本当にするの?」

「あら、涼ちゃん! 結婚しないでどうやって一緒にいるのよ?」

 ムッとする彩夏。

「いや、まぁ、そうなんだけど……、えぇ……?」

 さっきまで妹だった女の子が妻になる。その急激な変化に頭が追いついていかない。

「何? 嫌なの?」

 眉を寄せて口をとがらせる彩夏。

 この子と一生一緒……病める時も、健やかなる時も……。

 涼真はじっと彩夏を見つめる。

 小さなころからずっと一緒だった彩夏。あの幼かった幼女は今、立派な女の子となって美しさを身にまとい、まぶしいくらいに花開いている。


 ふぅ……。涼真は大きく息をつくとニコッと笑って言った。

「そうだな……。決めた!」

 そして、彩夏をお姫様抱っこすると一気に夕焼け空へと飛び上がる。

「きゃぁ!」

 目を丸くして驚く彩夏。

 真っ赤な夕陽が遠くの山の稜線に沈みかけ、辺りは鮮やかな紅色に染まっている。鳥の群れが編隊を組んで飛び、雲は茜色に光っていた。

「うわぁ、綺麗……」

 壮大な景色に思わず見とれる彩夏。

「彩夏……」

「な、何?」

 少し身構える彩夏。

 涼真は彩夏をまっすぐに見て言った。

「俺と結婚してください」

 彩夏はちょっと驚き、そして、目に涙をため、両手で顔を隠した。

「ほ、本当に私で……いいの? 無理……してない?」

「彩夏がいいんだ」

 すると、彩夏は大きく息をつき、ニコッと笑うと、

「はい……。お願いします」

 そう言ってポロリと涙をこぼした。

「ありがとう。大切にするよ」

「うん。大好き」

 そう言うと彩夏は涼真の首に抱き着き、くちびるを吸った。

 それを温かく受け入れる涼真。

 想いを確かめ合う二人を、深紅の夕陽が鮮やかに彩っていた。


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魔王退治には核兵器だね! お兄ちゃん 月城 友麻 (deep child) @DeepChild

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