それから、次の週の土曜日に、悟さんは紗希ちゃんと別れた。

 デートから帰った紗希ちゃんに怒られた。よけいなことをしないでって。

 でも、お礼も言われた。悟さんとデートできたのは、すごく嬉しかったって。

 これまでにつき合ってきた人たちとは、何かが違った。緊張したけど、あたし自身をしっかり見てくれていた気がする。紗希ちゃんは、そんなことを言っていた。


 その日の夜、悟さんに電話をした。

「今、大丈夫?」

「うん。よかった。このままフェードアウトされたら、どうしようかと思ってた」

「そんなこと、しないよ」

「どうかな」

「あの、ありがとう……。紗希ちゃんに、いろいろ言われた?」

「ううん。泣かれはしたけど。洗いざらい、全部話したよ」

「そっか……。そうだよね。わたし、まちがってた。ごめんなさい」

「いいよ。それより、次はいつ会えるの?」

「え、えー? 来週末、でいい?」

「うん」

「土曜日でいい? 悟さんの部屋で……」

「いいよ。出る時に、時間だけ教えて。バス停まで迎えに行く」

「わっ、わたし。その日は、お化粧……してみようと、思うんだけど」

「いいんじゃない? でも、無理しなくていいよ」

「……そ、そっか。うまく、できないかも」

「どんな顔でもいいよ。おかしくてもいい。その方が笑えるし。どっちかと言えば、見て笑いたい気分だ」

「ひっどい……」

「そのままでも、充分かわいいよ。だから、何も心配しないで来て」

「うん」

 また泣きそうになった。だから、泣くかわりに「だいすき」と言った。

 悟さんは、スマホの向こうで長いため息をついていた。なぜかはわからない。



 日曜日は、紗希ちゃんとずっと一緒に過ごした。

 どこにも行きたくないという紗希ちゃんは、かわいそうなくらいに、両目がはれ上がっていた。昨日の夜、わたしが見ていないところで、たくさん泣いたんだってことが、言われなくてもわかった。


「さきちゃーん。あついよー……」

 いくらエアコンがきいていても、こんなに、ぎゅうぎゅうにくっつかれていたら暑い。

「我慢してよね。失恋したんだから」

「紗希ちゃんなら、いつでも彼ができるよ。ちょっと前に、会社の人に告白されたって、言ってなかった?」

「されたけど。ぜんぜん、ぴんとこなかった」

「そう……」

「悟さんに双子のお兄さんとか、弟とか、いないの?」

「い、いない。たぶん」

「はーあー。もっと長く、つき合いたかったなー」

 紗希ちゃんは、本当にがっかりしているみたいだった。胸が痛んだ。

 わたしのひどさを一番知らないのは、もしかしたら、紗希ちゃんなのかもしれなかった。

「ごめんね。わたし、悟さんを試したかったのかもしれない」

「どういうこと?」

「今まで、いろんな人から頼みごとをされた。紗希ちゃんとつき合いたいからって、手紙を渡されたり、呼びだしてくれって言われたり……。

 紗希ちゃんとつき合ったら、紗希ちゃんを選ぶはずだって思ったの」

「そっか。でも、悟さんは違った。よかったじゃん」

「よかった……のかな」

「自信もちなって。あたしにも、問題があるんだと思う。ぜーんぜん、長続きしないんだもん。誰とつき合っても、だんだん、違和感の方が大きくなっちゃうんだ」

「そっか……」

「いらいらしてくんの。紗恵と一緒にいた方が、楽しいって思う」

「えっ?」

「ほんとに」

「そ、そう……」

「なに笑ってんの」

「うれしい、から」

「紗恵に似てる人を選んだつもりだったんだよ。すごいどんでん返しがあったけど」

 紗希ちゃんが笑う。


 わたしと完全に同じ遺伝子を持つ、わたしの妹は、わたしによく似ている。

 それでも、やっぱり、わたしたちはべつべつの人間だ。

 同じ日に生まれたわたしたちは、きっと、それぞれべつの日に命を終える。

 不思議だった。こんなに似ているのに。

 わたしの人生と紗希ちゃんの人生は、同じものではありえないのだった。


「双子に生まれてよかったって、思う?」

「思うよ。紗恵は?」

「思う……。紗希ちゃん、だいすき」

「はいはい」

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