第10話 合宿の成果
「午前の練習お疲れ様!会議の時間だ!」
大翔の声はゲーム室を響きわたる。
みんなの表情は憔悴し切った表情を浮かべながら各パソコンの前に座っている。
合宿5日目、あと二日で黄金の週、ゴールデンウィークが終わりを告げる。
「みんなどうした?結構疲れているなー」
「まあ、連続でゲームをしてここまで頭の回転するのは久しぶりじゃ。多少は疲れてしまうわ。みなもそうならないのかい?」
陸はがははと笑いしていた。
ポジションチェンジ、役割変更でタンクから、アタッカーをプレイしていたのだ。
最初はうまく操作できなかったが、3回目プレイスタイルを覚えた。「ワニ将軍」のキャラクターをうまく操作していた。
だが、タンクの癖が残っていたので、度々前へと出しすぎることもある。
ともあれ、チーム連携ができているので、うまく勝利を掴めている。
「大翔。今回は俺の苦手の英雄『森の精霊ヨーム』サポート英雄もやってるんだよ。結構頭を使う……ナンパよりひどい有様」
彰人は、ヘラヘラ、と笑い。顔の筋肉をたるみせながら、大スクリーンの前に大翔へと顔を向ける。
この中で一番苦戦しているのは彰人の方だった。
ポジションを『アタッカー』から『サポート』に変えたためだ。全く役割が違うものに変更された。普段は無鉄砲に前に出るキャラから回復しかできないキャラになっていた。
回復キャラのキャラの難しさは、三つ掟がある。
一つ目は死なないこと。何があっても死んではいけない。もし、チームファイト(乱戦)で先に死んでしまったら、回復ができない他の仲間たちがゾロゾロと死んでしまう。前に出ないこと。
二つ目は行動範囲を常に考慮すること。チームファイト(乱戦)の時は味方が体力を減っている。サポーターは味方回復範囲を考慮し、味方に回復する。その回復範囲を常に考慮しなければいけない。それも、前に出すぎずに。
どの範囲までに回復ができて、どの範囲で敵に攻撃されないのかを常に考えなければいけない。決して脳筋プレイはしてはいけないのだ。
三つ目は回復優先順位を常に考えること。回復する際には大抵味方を一人しか回復できない。そんな中。チームファイト(乱戦)の時には、味方は敵の攻撃を受けて体力が減っている。その際には誰を優先的に回復するのかを常に考えなければいけない。一般的には体力が一番消耗している味方に回復するのだが、もしも体力が消耗しているキャラが二人いたら、どちらを優先的に回復するかが、プレイヤーに問われる。
この三つの掟を維持するのは、かなり頭脳戦が問われる役割だ。
この「不滅の騎士」のメンバーでサポーターを操作できるのは、大翔、光、圭太しかいないのだ。
そんな圭太はふん、とメガネを上げてから、彰人に説教する。
「言いましたよね?サポートの気持ちを考えてくださいって。これが私のいつもやっていることです。でも、さすがに『アタッカー』連戦はキツイですねえ」
「……マジですまん。圭太がこんなにつらい役目だと思わなかったわ。でも、お前の方も『アタッカー』の難易度も理解しただろ?相手をついつい追いたくなっちゃうんだよ」
「ええ。その気落ちはわかります。ですが、和を乱さないことが重要です」
彰人と圭太の会話に、大翔はうんうん、と顔を頷かせて熱い友情を噛みしてから、宣言する。
「お前ら、へばるのはまだ早いぞ?今のポジションであと5回はプレイするからな!」
「へいへい」
と、低いテンションで返事をする彰人。
自分の苦手な役割をプレイするのは苦であった。
説明するまでもないが、二人はポジションを変わっている。
圭太の普段は『アタッカー』だがこの合宿では『サポート』に回される。
彰人の普段は『サポート』だがこの合宿では『アタッカー』へと回される。
正反対の英雄を回された二人は相当手惑い操作で特訓していたのだ。
「けど、さっきの試合はよくやった!みなも慣れてきたじゃないか?次の試合で完璧に使いこなせるだろう」
「まあ、10ゲームをやらされたら慣れなくても慣れるもんだよ。あと5回もプレイするばな」
彰人はパソコンの前にへばりつき、苦悶をあげる。
他のメンバーたちもどこか疲れている様子で目のくまが濃くしている。頭から湯気が出てきているのだ。
そんな様子をみた、マネージャーは大翔に声をあげる。
「うーん。みんなの顔色悪いよ?少し、休めたらどうかな?かな?」
「……そうだな、30分休憩をしようか!」
その合図に。みんなお緊張感は薄れていった。やっと解放されたという思いで倒れ込む。
光は「全くしょうがない奴らだ」と、吐き捨てて、仲間を見る。
翔も連戦で疲れ果てていたところだった。役割を『タンク』の『アイアン・ゴーレム』をプレイしていた。仲間を守る役目であった。
さっきのゲームでは守るプレイスタイルで維持しているため、0キル0デスで維持している。
仲間が受けるダメージを自分が肩代わりができる英雄であるため、仲間を守って行った翔だ。
仲間は死ぬことはなかったが、防御に転じた翔は相手へのダメージを与えなかった。結果、0キルという結果がスコアボードに乗る。
「おい翔。よく頑張ったな。0デスはすごいぞ、そしてよく勝てたな!」
「それは久遠さんがサポートしてくれましたから」
「勝利は勝利だ。このゲームは一人で戦える物じゃない。だから、喜べ!」
大翔はニット笑いながら、翔の肩を叩く。
だが、翔には顔色を優れない様子であった。
本当に喜ぶべきなのか?さっきのゲームは精一杯仲間を守っただけだ。
記念の最初の勝利とは言えやっと手慣れた英雄は少々時間がかかり過ぎのでは?
「ここは素直に喜びなさい。翔」
迷いが顔に現れたのか、声主、光は静かな声を上げる。
「一歩。あなたは成長した。まだまだ、改善点は多いけれど、よく頑張った。これは私が保証する」
「あ、ありがとうございます」
救われた気分で翔は感謝で返す。
さっき対戦した試合は勝利した。これは紛れもない事実だ。
連敗していた者がここで勝利をしたのは大きな一歩を踏み出したもの。
誇っていいはずだ、と言うようにリーダーと副リーダーは彼の背中を一歩推す。
「おめでとう!みんな拍手!」
パチパチパチと音が鳴り響く。
小さな祝いと勝利であるが、翔はうなずきその祝いを素直に受けた。
大会ではよりもっと歓声な声を受ける。
観客からの驚嘆の音。あの時、決勝戦で見た光景が身近なに感じる事を理解した翔だ。
「さて、祝いはここまでだ」
大翔は言葉を放つと、全員がまた彼に注目する。
「作戦会議だ。無論『K.T.大会』への事だ」
全員が息を飲む。
『K.T.大会』あと一週間と数日しか時間が残されていない。日本の関東eSport代表チームが集中する大会の一つだ。
いままでであれば難易度はある程度高かったが、この大会に置いてもっとも高い壁が目の前に登場した。
「久遠鈴子がチーム『GaGa』に入った」
「チーム『GaGa』って……」
「ああ、そうだ。お前の考えている通りだ、圭太。初戦で対戦する相手だ」
その言葉を聞くとより、緊張感が部屋を覆う。
なぜなら、
「久遠鈴子、ポジションは「タンク」しかし、プレイスタイルとしては前衛に駆け込み、敵を確実に一体倒す、「アタッカー」のような戦い方をするトップランクのプレイヤー。一撃必殺の得意なプレイヤー」
一撃必殺、この言葉でみんなは春の決勝戦の試合を思い出させる。
『光の神ルー』は『ゴーレム』の技を食らいそうになった出来事。あの時本来であれば『アタッカー』が落ちるはずであった。体力満タンな『光の神ルー』とは言え、最後のウルトを真正面から受けていたら絶対に落ちていたのだろう。
幸いあの時は『円卓の騎士王アーザー』がその攻撃を無効化したため、立場は逆転したのだ。
「と言うわけだ、相手は強敵だ。知っての通り俺は出ないぞ。まあ、初戦から負けるかも知れんぞ?」
「いいや。負けませんよ、兄さん」
翔は真っ直ぐな瞳で大翔を見つめる。
「お前があいつより強いというのか?」
「そんなわけないじゃないですか」
「ほう」
自嘲的に笑顔を送る大翔。
それもそうだ、先ほどまで弱気だった者がこうも勝利気取りをするのは何か自信があるから言った言葉だろうと、思う。
「一つだけ言えるのは、僕たち『不滅の騎士』はチームプレイですよ。決して一人ではありません。彼女は一人です。僕たちが協力すれば勝てますよ。一人で倒せなければ全員で協力して連携すれば勝てます」
翔はそんな考えに答えるよう口にする。
「ハハハ、流石俺の弟だ!」
表情を崩さず、翔の方を見つめる。
「ああ。そうだ。お前の言う通りだ、翔。このゲームは一人で勝利するものではない。相手が一人だ。俺たちはチームだ。その事を忘れるなよ?みんな!」
「「「「おお!」」」」」
大翔の言葉に返事するように、全員が声を上げる。
MOBAのゲームは一人では勝利する事は出来ない。駒は自からの意識を持ち、行動する。それがMOBAゲーム。
『G.O.F』であれば尚更だ。
役割が定められ、そのロールに従わなきゃ勝利の道は難しい。決勝戦の時だった、全員の力を合わせたから『ゴーレム』のウルトを防ぐことが出来た。決して一人で勝利することは出来ない。
(……一人はみんなのために。そして、みんなは一人のためにか)
翔は一人ぽつりと偉人が過去に放った言葉を思い出し、仲間の顔を見回す。
陸、彰人、圭太、光、そして翔。
次回の試合このメンバーで対戦を挑む。
足手まといにならないように頑張らないと、
自分自身に言い聞かせ、気合いを入れてから翔は大翔の顔色を見つめる。
大翔は今も変わらず気前よく、笑ってから大きくまだ宣伝する。
「明日は最後の模擬戦だ!練習した成果を見せてやれ!」
「はい!」
翔はその答えを返事するように気合いを入れる。
成長期の子供のように、大きく勢いよく応える。
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