第3話 始まりの一歩

 二月、飛び級で奨学金を受けていた翔はアメリカの大学を中退し、帰国した。

 家に戻ると、彼は引き籠りになってしまった。世界と遮断した。部屋から一歩も外出はしない。家族と一緒に食事するが、会話が続かないとまた部屋に戻りパソコンの前でプログラミングを行う。

 大学にいた二年間は人工機能の研究をしていたのだったが、研究に失敗した翔はそれに耐えられず大学を中退した。

 彼の心の傷が大きく翔が耐えられかった。理由を言わず、退職届を出し帰国を決意する。当時は研究員も驚いていたが、誰もが彼を止めることはできない。

 翔は我が家に帰国したら家族は何も問わず、責めることなく受け入れてくれた。

 ……自分は弱い人間だ、成功すら出せずにいた。

 何もしていないのに、このまま居候するのは本当にいいのか?

 そんな何も攻めないで受け入れてくれる家族が少し心地悪かった。いっそ、叱って楽になれると心底思う。

 罪滅ぼしにフリーランスのプログラミングの受託していた。報酬は父親の口座に回すようにしていた。プログラミングの規模は単純なものから大型仕様、コンビニ発注システム(POS)まで一人で構築していた。金の単位で言うと1万円弱の仕事から数1千万円まで登るプログラミングをやりこなしていた。

 小さな規模だと数時間で終わる、大型仕様では一カ月半もかかった事もあった。だが、この速度では一般人のプログラミングではありえない速度であった。それ以外にも質がいい。バグがなく順調にプログラムが構成されている。

 そんな天才頭脳を持ちながら、コツコツとプログラミング業務を受託していた。

 評判はSランクのプログラマー。IT業界を震わせた。しかし、本人は全く実感はない。ただただ当たり前のことを、当たり前にやっているだけだ。

 プログラムを構築するだけ。

 ……騒いでいる理由がわからない。

 採用スカウトは何通かのメールで来た。が、それらも全部断った。やる気がでなかったのではなく。ただ、失敗するのが怖かったのだ。

 ……また、僕は取りえない失敗をする。

 その恐怖が毎晩、翔を襲う。前へ進めない泥沼のようで翔を病んで行った。結果、うつ病になる。死に至る病へとかかる。

 精神科にも診断された。幻覚と幻惑が翔を襲う、恐怖に飲まれ泥に飲まれていくような気持ち悪い感触だった。

 ……いっそ死んだ方がマシだ。

 だが、自殺する勇気がない。

 人間の心は弱いものだ。死にたいのに、自殺勇気がないなはどう見ても滑稽な話でもある。

 毎晩、翔が苦しめているものには、やはり、研究で失敗したトラウマ。

 トラウマで度々夢の中で体験する。

 ……もう誰も傷つけたくない。失敗したくない。

 安全に人の触れることを拒絶する。人と会うのは最小限になる。なぜならば、自分が相手を傷つけるかも知れない。

 また、あの時にように失敗するかも知れない。

 ……ごめんなさい。

 その失敗にはこれだけしか言えなかった。

 精神科からは「好奇心があるものをやってみたらどうでしょうか?」

 と、お勧めされたことはあった。

 だが、それはなかった。

 翔好奇心があるものはなんなのか、わからなかった。

 心は伽藍堂と同様、何も感じない。

 凍りつけた心は何も感じることはない。


 そんなある日。一年後のできこと。外は桜がそろそろ咲こうとした頃の三月。まだ肌寒く、暖房をつけている部屋。

 いつもの日と同じく、翔はパソコンの前に座って受託したプログラム依頼を構築していると、扉は大きく開けられた。

 光が射し込む。一人の影が映る。

 翔はその影人に目を向ける。

 影人は自分とそっくりな顔だった。

 だが、違っているのは、彼は爽やかな姿をしていた。

 自分の双子の兄……大翔だ。

 大翔はこの暗い部屋の中へと入ってきた。

「なあ。お前なにしているんだ?」

「受託したプログラミング。今日は簡単な仕事を受けたからすぐに終わる予定……」

「すげえな。俺なんかは毎日ゲームしかやっていない。G.O.Fはすげー楽しいぜ。……とは言っても大会のために練習しているけどな」

 ははは、と大翔が苦笑いしながら肩を竦める。

 G.O.F?ゲーム?僕はゲームをやった事あるけどうまくはない。それよりさっき、大会と言わなかったか?ゲームにも大会があるのか?聞いたことがあるようなないような……まあ、考えても仕方がない。

 と、翔は目線をパソコンの前に戻そうとすると、部屋の外から女性の声が響く。

「そいつがお前の弟か?大翔?」

 彼女はそう言い、この部屋に踏み込んでくる。

 翔からだと暗くてよく見えないが、近付いてくるだけでわかる。

「あなたは?」

 今度こそカタカタとキーボードを打っている手をやめ、パソコンを閉じる。翔は完全に目を彼女の方へと目線を凝視する。

 そして、やっと光が射す場所へとやってくる彼女。

 黒く艶のある髪の持ち主。髪はつやつやな綺麗な髪だが、手入れしていないためぼさぼさにもなっている。美貌を台無しにする髪だった。

 客人はこの家にはめったに来ない。目の前にいる女性は珍しく思い、思わず凝視した。大翔の彼女だろうか、と翔はそう考えながら見つめる。

「私は久遠光。あなたが翔ね。噂で聞いているわ。天才プログラミングなのでしょう?」

「それは違う。僕は天才じゃない。プログラミングは当たり前のことをやっているだけだ。誰にでもできる……」

「そう……」

 光と名乗った少女は無関心な返事をし、座っている翔に見降ろした。

 何を考えているのだろうか?自分に何の用があるのだろうか?プログラミングの依頼だろうか?

 光の黒い瞳には翔のの顔が映りだしている。

 真っ黒で吸い込まれそうな双眸だけど、慈悲深い感情が流れて来る。

 鼓動が少し早くなる気がした、なぜこうにも初めて会った女性に好奇心がなるのだろうか?

 陶酔している翔に光は口を開かせる。

「あなた……世界と戦う気はない?」

 ……戦う?世界と?どうやって?核兵器を作るの?

 質問に意味があまりにも理解不能で、全く意図がわからない。一般人からすればそうなるだろう。

 翔に取っても例外ではない。別には世界への反抗心を持っているのでもない。

 一番大切で翔の渇望はたった小さなことそれは『世界の邪魔にならないように生きる』

「それだと語弊があるわ。こう、しましょう。あなたはもう一度羽ばたく気はない?」

「羽ばたく?」

「この囚われた世界ではなく、外の世界、このG.O.Fのゲームで」

 ゲーム?どういう意味だ?ますます、理解が追いつかない。

 羽ばたくのは何かの業界のことだろうけど、ゲーム業界はそんなものがあるのか?エンターテイメント業界を全く知らない翔は頭を傾げる。

 すると、大翔は助け舟を出す。

「困惑しているようだな、弟よ。まあいい。こうしようゲームで世界を制覇しようぜ」

 ぽん、と軽く手を叩く音で翔は意識を戻した。

 翔は視線を大翔に向ける。すると、彼は無敵な笑みを浮かべて、事態を説明する。

「明後日、俺たちはG.O.Fのゲーム試合がある。お前も会場に来い。自分の目で確かめて見ろ」

「でも、僕はゲームの経験はそんなになくて……」

「大丈夫!見るだけなら経験いらなくてもいい。スポーツのようなものだ」

「うん……」

「だから見に来い。お前の世界が少しだけ変わるかもしれない」

 正直に言うと、かなり不安だった。世界が変わるとはどのように変わっていくのかわからない未知の領域。悪い方に変わる可能性もある。

 ……また、人を傷つけるかも知れない。

 だが、翔は気になることが一つあった。

 それは二人が楽しそうに笑みを浮かべていることだ。

 二人がが楽しそうにやっているものはなんだろうか?ゲームとはなにか?試合とはなんだ?G.O.Fはそんなに楽しいものなのか?

「もし、興味が湧いてきたら。お前を俺たちのチームリーダーへと導かせてやる!」

 敬愛なように大翔が翔へ送った言葉だった。

 それと共に右手を差し出す。

 神が人間を救うために差しだしたような右手だった。

「いつかお前を導かせてやる。ゲームの大会に出て、有名人にもなれる。だからここから出ようぜ。翔」

 白い歯を見せる笑みで、輝く太陽みたいな眩しさとカリスマを大翔がこの目に前にある。

 チームリーダー、ゲーム大会、有名人、翔にとってそんなものはどうでもいいものだ。

 唯一理解できたものは一つだけ。

 それは大翔が勇気をくれたのだ。

 自分は臆病で世界の事を触れたくなくなってしまった。あの失敗から少し立ち上がれなくなっていた。甘えている事は自分でも理解している。

 でも、大翔は自分を救おうとしていた。それぐらいの事はわかる。

 だから、

「……うん」

 その救いである右手を翔は拒むことなく手を取る。

 返事はどう答えていいのかわからない。手短く、期待にそれず、それが適格に。

 大翔がやっているゲームに寄り添ってみたい。

 彼が人生楽しそうにしているゲームをやってみたい。 

 もしも、大翔がやっているゲームがつまらなくて、どうでもいいのであれば、またこの部屋にこもっていればいい。一回ぐらい兄を信じようと翔は思った。

 

 そして等々約束されていた大会日になった。

 空は桜の花びらで舞い上がり、香ばしい春の匂いがした日だった。

 大翔が用意したチケットを持ち、秋葉原の中央にある大きなビル、大会場へとたどり入っていく翔。そこには同じ年ぐらいの人並で、全員がこの決勝戦の鑑賞しに来たのだ。

 正直、人の群れは好きではない。

 自分が孤独するような気がしたからだ。

 入場し、案内通路を歩くと、やっと指定された席へと座る。

 席はステージの前の特等席だ。あと数十メートルにあるステージでステージだ。

 よく、見るとステージは大きく青と赤に双方に分かれていた。その分かれた先の片方、青側には大翔と4人の仲間が真剣な顔で目の前パソコンを操作している。

 また、もう片方の赤側にも同じく5人も大翔と同じく真剣な表情で目の前のパソコンを操作していた。ツインテールをした可愛い少女が真ん中に座っている、どうやらそのチームのリーダーらしき人物だ。

 ツインテールのチームは大翔の相手チームだと、このG.O.Fのゲーム経験がなくてもわかるものだった。なぜなら、これは大会だ。チーム大会だ。味方がいて、相手もいる。ゲームの常識の範囲にあるものだった。

 ステージの奥にはまた大きなスクリーンが飾られている。

 ゲームでの中で起きている事を映しているのはキャラクター、英雄たちがあった。

 翔が来たのは少し遅れてきたのか、試合は既に始まっていてそろそろ終わるころと周りがざわめき始めた。

 観客は最終決戦であることを理解している。

 双方とも熱い戦いを繰り広げ、消しかかっている。

 熱く盛り上がっている会場に一般人の翔にも伝わってくる熱意は翔の心を躍らせる。

 大翔のチーム『不滅の騎士』が熱い攻防戦をしていたのだ。

 一体何が起きているのか、翔は大型スクリーンへと目線を送る。


 スクリーンで映し出されているのは、大翔が操作している『光の神ルー』だった。

 細長い穂先に大きな刃、『光の神ルー』の武器伝説の槍が敵を素早い速度で攻撃をする。圧倒的に動きに敵の「ワニ将軍」英雄を追い込む。

 光輝く槍先で敵の英雄を襲う。「ワニ将軍」敵の行動は鈍り出す。血飛沫が発生したのだ。

 鈍ったところを追撃するように、『光の神ルー』は槍を「ワニ将軍」に刺した。

 そして、「ワニ将軍は」消滅した。

 「ワニ将軍」が消滅すると共に会場からは「おおお!」と驚愕をひねり上げる。

 ゲーム内の細かいエフェクトが大型スクリーンに反映される。ゲームで戦場の中から観賞しているような迫力だ。会場の観客全員がその光景に飲まれていく。


 『光の神ルー』が一人の英雄を倒すと、次に大型な泥の身体を持つ巨人。英雄『ゴーレム』が道を塞ぐ。『ゴーレム』、属性はタンク。防御力上昇の技を持っていながら攻撃力も高い。一発強力な攻撃が出来る英雄。初心者に優しい英雄であるため人気がある。

「敵のウルトが来るぞ!」

 叫びと共に、『光の神ルー』が一歩下がる。

 ウルト、と叫んでいるものは名称である。実名はアルティメット、英雄の必殺技。レベル10になると初めてこの技が使いるもの。このゲームに置いてはどの必殺技も強力でゲームの逆転を狙える広範囲で指定した敵を狙うこともあるしサポートで大回復する技も存在する。

 だから、『光の神ルー』が行った行動は妥当の判断だ。『ゴーレム』でウルトを使わせたら強力な攻撃を受けることになる。一気に体力がなくなる可能性が高い。

 ここでアタッカーの一体が消えるのは愚行だ。そうなるとさっきまでチャンスを作っていた、敵の本拠地まで進むことはできない。

 だが、大翔の判断は一歩遅かった。

「遅い!間に合わない!おまえはこのウルトの範囲の中だ!」

「ちぇ」

 ゾーン!

『ゴーレム』は巨大な腕を下に振る。広範囲の大きな打撃の一撃、マップ攻撃で粉砕しようとしたのだ。獣の血が滾ったように容赦なく、泥の塊が『光の神ルー』を襲い掛る。

 あれは絶対に当たってはいけない、当たったら終わる。誰が見てもわかることだった。

 明らかに『光の神ルー』は一歩後れていた。いいや、大翔の判断は正しが、遅かった。相当距離を置いているが、まだ『ゴーレム』の攻撃範囲だ!

 泥、が伸びてくる。通常『ゴーレム』のウルトではここまで届くことはない。だが、この『ゴーレム』は他とは違っていた。

 レベルに応じてステータスの上昇はもちろん、スキルポイントを使って、スキルのレベル上げをする。そして任意に振れるのだ。

 例えば、体力、パッシッフスキル、スキルにバランスよく振り分けるのが一般。  

 だが、この『ゴーレム』だけは特別だった、大技が好きなプレイヤーが好きなプレイスタイル。

 全てを大技に振った『ゴーレム』がここにある。

 実はこのステータスの振り方可笑しい戦法ではない。上級者になればなるほど自分に合った英雄とスキルを集中して振っていく。同じ英雄でもプレイスタイルが違うのが初心者と上級者の違いだった。

 迫ってくる『ゴーレム』の腕。あと一呼吸で『光の神ルー』に届く。絶対絶命とも言える場面だった。

 誰もがもう間に合わないと思った時、

「アヴァロン!」

 泥の腕と『光の神ルー』の間に光輝く。

 黄金の輝き、戦場の刹那が取り込まれる。

 あれは鞘だった。伝説の剣に置ける鞘。絶対防御の鞘。

 その鞘から放たれる黄金の光が『ゴーレム』の腕に当たるとキーン!と音が鳴り響く。

 風波が起き、圧倒される。

 すると『ゴーレム』は完全に動きを止まった。違う、跳ね返されたのだ。必殺技が中断された。

 ばねのように、ぼよん、と『ゴーレム』は体制を崩していく。頭上にはぴよぴよマークが浮かぶ。あれはスタン状態だ。短時間身動きできない状態になった。

「ば、ばかな!?ウルトを止めた?直前で?」

 おびえている『ゴーレム』

 そしてそこで現れたのは『円卓の騎士王アーザー』、光が操作している英雄。

「すげええええええ!アーザーだ!」

 観客がまたも驚愕の声を上げる。それも無理もない。

 誰もが絶体絶命の状況で完璧にウルトを放ったから、スーパープレイをここでやったのからだ。

 『円卓の騎士王アーザー』の二番目のウルト、『アヴァロン』。一度の攻撃を身代わりにし(マップ攻撃も含む)全ての攻撃を無効かすること。

 ただし、それは相手の攻撃と同じタイミングで発動しなければ、攻撃を無効化できないのだ。

『円卓の騎士王アーザー』は特殊な英雄、『マイティー』、『アタッカー』でも『タンク』でも。スキルやアルティメットを振り分けることでどちらにもなれるオンリーワンの英雄。

 ウルトも本来は二つ存在し、一つしか選べない。片方は攻撃に特化した『エクスカリバー』、広範囲で一撃を放つ光の剣波。そしてもう片方が『アヴァロン』絶対防御のウルトだった。

 そんな難しいプレイは久遠光しか使えないのだ。

 この試合では『円卓の騎士王アーザー』は完全に『タンク』になりきったのだ。あの『ゴーレム』がステータスをウルトに振ることを想定した上で『タンク』になりきったのだ

「全く、前出過ぎ」

「お前が来ると知ってたからな!」

「あ、そう。なら次は助けないからね?」

「次っていうものはない!ここで終わらせるんだよ!反撃の時間だ!全員ラッシュコアだ!使えるものは全部使え!」

 いくぜ!、と叫ぶ大翔の声が翔の方まで届く。

 合図のようにチームメンバーを集合させる。

「撤退だ!ネクサスを守れ!時間を稼ぐんだ!」

 敵も危険を感じたのか、『ゴーレム』と後方にいる敵の英雄たちは下がっていく。 

 人数不利になった、今は防御に転ずるしかない。

 ここを耐えれば、ワンチャン逆転の勝利もあり。「ワニ将軍」が復活すれば、総攻撃をかけて、相手のネクサスを攻め込むことができる、と考える相手チーム。

 だが、それはもう遅い。

「遅いだよ!もう勝利は決まっている!」

 『光の神ルー』の槍先から炎が集い、輝き始める。

 灼熱が舞いる共に『光の神ルー』は槍を構えた。

 槍を握った右手は頭の高さ、耳のところまで上げて、足のつま先に力を入れている。槍の穂先を敵に向ける。

 姿勢は美しく、戦士の如くの態勢であること。

 近距離攻撃の態勢では少し異なりこ長距離への構えである。

 炎が燃え上がると、次は槍の穂先から光を輝き始めた。銃弾は装填された、放つ寸前である。

「ブリューナク!」

「やばい!退避!」

 槍が飛ばされる、光輝く一線の槍が手から飛び、真っ直ぐに撤退している敵に向かう。

 光より早く、塞ぐのは不可能、たとえ敵側が『アヴァロン』を使えたとしても光の速度で対応しなければ防げない。

 人間では不可能であった。

 ドーン!

 綺麗に『ゴーレム』に集中する。退避する余裕はなかった。あの光の速さで反応することができる人間はない。

 そして、槍は勢いを止まる事なく後方にいる英雄二人にも直撃する。アタッカー『闇の戦士アドラー』とサポート『光の施ラファエル』にも届く。

 串刺しのように続いてと貫く。

 結果、三体の英雄は空へ舞い、吹っ飛び体力ゲージが0の数字を表す。串刺しのように、稲妻より早い一撃で三体の英雄が倒されていった。

 相手は復活するには60秒もかかる。だから、これは勝利も当然だった。あとは相手の本拠地にあるネクサスを倒しゲームが終了する。もう、ネクサスを防御するものはもういない。

 相手はこのゲームにて敗北を意味した。

 

「ああ……」

 その光景を見た翔は口を閉ざさず事なく呆然として眺める。会場は歓喜ので包まれているのに、声はそれしか出てこなかった。

 何を語るべきなのか、どう語るべきなのか、わからなかっただけだった。

 感情がないのではなく、逆に全ての感情抑えきれないほどで、溢れだす寸前に追い込まれていた。スクリーンの中で起こっている光景に圧倒されていた。

 そして、翔が言葉を漏らす。

「すごい……」

 大翔達が戦っているもの、ゲームであるが遊びではない。一人一人役割を持ち、連携してチームプレイで活躍している。一人では決して勝てないゲーム。仲間がいて、援護しつつ戦うみんなの姿が眩しく見えて。

 一番眩しく見えたのは、大翔の姿だった。

 カリスマで仲間を支え、勝利へと導く。

 兄の姿が自分の知らないところで活躍している。立ち止まっている自分とはまったく正反対で前に進もうとしている。かっこよかった。

 こんな前へ、前へ、進んでいる姿。自分がもう知らない世界へと進んでいき自律していく姿。

 なにより、活躍している姿はどうも楽しそうでプレイしていた。

 対戦で真剣の中、大翔はそんな状況を楽しんでいながらG.O.Fをプレイしていた。

 その姿が翔の心に刻まれる。

 いつか、兄のようみたいにかっこよく、楽しく、前へ進めるのだろうか?

 兄の隣に立てるのだろうか?


『いつかお前を導かせてやる。ゲームの大会に出て、有名人にもなれる。だからここから出ようぜ』


 数日前の大翔の言葉が自分の脳裏に響く。

 すると、そこで翔は気がついた。

 自分の兄が見せたかったこと。

(……そうか、兄さんはこれを見せたかった)

 周りの歓迎する声。絶叫する音。そして、盛り上がる会場と楽しんでいる大翔達。

 口での説明や文章でも語れない、この光景を見せたかったのだろう。

 大翔は部屋に閉じこもっている自分を連れ出して、新しい世界に連れてきたのだ。

 だから、

「G.O.F……やってみよう。兄さんみたいになりたい……」

 G.O.Fをやってみたい。

 ゲーム経験はないが大翔が居れば楽しく出来そう。

 それに翔はあの場所に立ってみたかった。勝利者が立つ場所に、あの場所に立ってみたいと好奇心に点火された。

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