#04 戦闘配置

 エウランド皇国帆船の左横に船体を付けると、暫く帆船の乗員らに槍を投げられた。多分、“鉄鯨”として見られているかららしい。


 その後、投げる物が無くなったのか静かになったので素早く発令所を出てすぐの所にある垂直梯子モンキーラッタルを登り乗船用ハッチを開けて外に出てきた9人を見た船員たちは驚愕していた。


 ノヴェラスは初めに「俺達は傭兵国の者ではないし、争い合う意思はない」と言った後で、「損傷している部分が無いかだけ見るだけだ、だから縄梯子なわばしごを降ろしてくれないか?」と説得するとカランコロンと音を立てて縄梯子が目の前にかかった。レイクッド達を先に登らせると、ノヴェラスも登って帆船内に乗船した。目に入って来たのは、火災の跡や生々しい血痕けっこんの付いた木甲板もくかんぱんなどだった。


 舷側に座り込み包帯巻きにされているのは多分、怪我人だろう。ざっと30人か。


「君達が“鉄鯨”の使者かね?私はこのエウランド皇国の輸送帆船ロワイヤル号の船長ベラス・フットマールだ」

「どうも。アディス級潜水艦艦長のノヴェラス・ディルスです、こっちは副艦長で俺の妹であるレイクッド・ディルスです」


  ○○〇


 艦長以下の全員が、一糸乱れない敬礼を披露した。その事だけで驚いた線長のベラスは拍手をしていた。3分後、襲撃された理由を聞いたノヴェラスは副艦長レイクッドに指揮を任せてベラス船長と一緒に談笑をしていた。


 倒れかけの帆柱と血痕けっこん嘔吐物おうとぶつで汚れた木甲板を修繕しゅうぜんや水を流して綺麗きれいにした後、怪我人の包帯替えや操舵系統の修理を始めた。徐々に元の形に戻って行く帆船を呆然ぼうぜんと見ていた船員たちは食事として提供されたカバルの実を頬張っていた。


 香茶を受け皿に置くと同時に突然、船体が上下に動いた。何事かと思いながら船長室の扉を開けてベラス船長と共に甲板に行くと、木甲板上に沢山たくさん着弾痕ちゃくだんこんがあった。


「副艦長!何事だ?」

「――わ、わからない。突然・・・、砲弾が降って来たよ‼」


 ノヴェラスは動物の直感で右の方向に眼をやり、凝視すると水平線上に黒煙が一瞬だけ上がったのが見えた。


「――て、敵弾!接近中‼」


 ベラスの上に覆うように突き飛ばして庇うと、先程まで居た位置に球状の砲弾が降って来て着弾した。


「レイクッド!乗員を艦内に避難させろ、総員。対水上戦闘‼」


 怪我人を庇う様にして咳込んでいたレイクッドに指示を飛ばして「ベラスさん、生きて帰りたいですか?」と聞くと深く頷き返した。


 10分後、ゆっくりと右に傾きだしたエウランド皇国船籍の輸送帆船ロワイヤル号の乗員23名をアディス級潜水艦内に救助という名目で引き入れた。


  ○○〇


 洋上用司令塔フィンにある浸水防止ハッチを閉めるとベラス船長に「副艦長のレイクッドが居住区画まで案内しますので、そこでお待ちください」と言い後の事をレイクッドに任せると発令所に通じる扉をロックした。


 ノヴェラスが艦長席に座ると、航海長エセスに「両舷微速、急速潜航」と指示を出した。


「――ッ!発砲音探知、4時方向!」

「潜航完了‼」

「取舵一杯、艦首魚雷――ぅてぇ‼」

「艦首魚雷、発射!」


 アラームが鳴り響く中、指示を飛ばして対水上戦闘を始めた。


「画像から推定するに・・・、ナームス傭兵国です!」

「報復かもしくは――」

「増援ね」

「ああ、ありえるな」


 ノヴェラスの考えを読んだかのようにいつの間にか隣に居たレイクッドが横から呟いたので俺はそれを肯定し、腕を組み考えていた。


「デゥーフ、数は?」

「今、レーダーに映っている数は3隻の砲船です」

博打ばくちをかけようか」

「まさか、浮上するの?」

「――ああ、そのまさかだ」


 1隻につき1つの砲塔で対処すれば良い、もし外した場合は魚雷や艦首艦尾に設置している特殊垂直発射管SPVLSがある。


 俺はにやつき、「全艦、仕掛けるぞ。両舷増速、浮上して砲戦用意!砲撃長、砲塔1基ずつで対処しろ」と指示を出すと、意図が読めたのか呆れたのかレイクッドが「はぁ・・・。了解、艦長」と返事を返した。

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