第5話

 彼女は元来、お風呂好きな性格をしており、それは猫化した現在も変わらない。


 露天風呂に入りたいと言い出した時なんて、わざわざペット可の温泉宿を探したものだ。

 宿からたらいを借りて、ニャンコ用の露天風呂をつくり、一緒に入浴したのは良い思い出である。


 ピクニックから帰ってきた俺は、さっそくお風呂に湯を溜めた。

 入浴剤はたくさん買い置きがあって、いずれも彼女が厳選したやつ。


 猫の体に入浴剤ってキツくない? とも思うのだが、彼女は色と匂いのついた湯が大好きなのである。


「お風呂が沸いたよ〜」

「にゃ〜お」


 まずはシャワーを浴びて、ペット用シャンプーで全身をモコモコにする。

 すべての泡を流すと、水を吸った毛が雑巾みたいになり、体の線もガリガリになった。

 見た目よりずっとスレンダーなのだ。


 俺が湯船でくつろいでいるあいだ、彼女はぐるぐると泳いでいる。

 平泳ぎしたり、背泳ぎになったり、犬かきならぬ猫かきを披露してみたり。

 もし猫だけが参加できるオリンピックがあったら、金メダルを20個くらい獲得して帰ってくるかもしれない。


「はいはい、上手だよ」

「にゃ! にゃ! にゃ!」


 俺が油断していると、ぷくぷくと気泡が弾けた。


 うわっ、臭い!

 思いっきり吸っちゃったじゃないか!


「おい、こら、以前よりもオナラが臭くなっているぞ」

「にゃ〜お、にゃ〜お」

「最近、食べ過ぎたって? キャットフードをアレンジする楽しさに目覚めたって? 成人病にかかっても知らないぞ」

「にゃ!」


 俺は洗面器を持ってきて、お湯ごと彼女をすくってあげる。

 これで即席のニャンコ風呂ができあがり。


 大人と猫1匹。

 こうして一緒に入浴するのが日常と化している。


 人間だった頃よりも距離が近いんじゃないかな。

 な〜んて死んでも口にしないけれども。


「外で遊んだ後のお風呂は気持ちいいな〜。これで俺も来週からがんばれるよ」

「にゃ〜にゃ」


 うっとりする彼女の額に、小さな布切れを置いてあげた。

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