第10話、よし、書くぞっ…!

 張り切ってますね!

 さて、何を書きますか?


 やはり『 流行りモノ 』ですかね? それも良いでしょう。

 初めて創作する作品なのですから、書きやすいカテゴリが一番です。


 では、どんな物語にしましょうか?


 …コレ、難しいですよね。

 皆、そこで悩みます。

 ちなみに、全く悩まずに書いたモノの多くが、今、巷に溢れている『 サクヒン 』です。


 拙作の創作評論『 異世界モノ、ちょっと斬ってみた件について 』では、異世界モノについて、かなり踏み込んだ意見を述べさせて頂きました。 まあ、異世界モノに限らず、他のカテゴリの創作においても同じ事なのだとは思いますが、「 テーマを持て 」だとか、「 他の作品と、同じような内容のモノを書くな 」だとか……

 ある程度の執筆歴をお持ちの方ならともかく、ビギナーの方に『 それ 』を要求するのは酷だと言うものです。

 まずは、楽しく書くのが一番でしょう。

 物語の世界観を設定し、あなたの書きたいように書き始めて下さい。


 では、創作の為の『 ヒント 』を申し上げましょう……

 物語の出だしですが、説明的にならないように注意して下さい。

 

 …よくあるファンタジーものを書くとしましょうか。

 その物語が展開する『 世界 』の設定を、最初から事細かく説明しない方が良いです。 なぜなら、その物語が展開する大体の世界観は、皆さん、大変に良くご存じですから。


「 ナニ言ってんだよ! 俺の処女作は、誰も書いた事が無い物語だぜ! 」


 そう豪語される方… う~ん… 頼もしいですね! 嬉しい事を言って下さるじゃありませんか。

 まあ、よくある物語を創作してみる方・斬新な物語を草稿される予定の方… どちらの方も同じなのですが、「 物語の出だしが、説明的にならない事 」、これは鉄則です。 そして、次に大切な要点は、出来れば『 他の作品とは違うキーワード 』を1つ、盛り込む事です。


「 あのね… ソレが出来れば、何も苦労しないよ 」


 …創作経験者辺りから、そんな愚痴が聞こえて来そうですが、希望論ですので、この限りではありません。 『 出来れば 』と申し上げたのは、その為です。(笑)


 キーワードは、何でも良いのです。

 成長する勇者の物語を書きたいのであれば、勇者に必要な『 設定 』の中に1つ、マイナス要素を入れるとか… その程度で良いのです。


「 そんな設定、誰だってしてるぜ? 」


 この愚痴も、よくありそうです。

 貧しい階級の生まれとか? 大人しい性格だとか? 視覚能力の欠落とか?

 …そうですね。

 幾多の『 溢れている 』作品群は、そうしているでしょう。


 でも、物語が進む中で、いつの間にかその設定は『 ないがしろ 』にされて行くのです。 『 成長 』が物語のメインだとするならば、そればかりに物語は展開されて行き、『 欠点 』は欠点と認知されなくなって行きます。

 欠点が克服された時、初めてそれは『 ラストシーン 』につながる訳で、そこに物語の『 感動 』は生まれるはずなのです。


 …しかし、多くの作品は、そのようなラストにはなっていません。


 別に『 マイナス要素 』でなくても良いのですが、分かりやすいかと思い、そう提案させて頂いた次第です。 勿論、『 プラス視点 』も良いのです。 しかし、設定のパンチ力に欠けてしまう場合が多いので、敢えてマイナス思考にさせて頂きました。


 この『 マイナス要素 』は、物語の設定的状況で言う『 伏線 』に当たります。 無くても勿論、作品は書けますが、間違いなく、溢れている『 その他の作品 』に埋もれてしまいます……

 まあ、処女作になる訳ですから、他の作品との差別化にあまり執着せずとも、とにかく『 書く事 』が大事なので、無視して頂いても構いません。 …ただ、出来れば、スパイス的要素があればベストなので、提案させて頂きました。


 お節介ながら、下記に物語の出だしを、例文として書いてみましょう。

 まずは、こんな出だし……

 ↓


 ここは、騎士たちに守られた法王の国『 リーティア公国 』……

 法王議会から追放された大臣『 ゴルデス 』が北方山岳に住み着き、法王への復讐を画策していた。

 法王議会は、騎士たちの中からゴルデスを討伐する勇者を選抜しようとしていた。


 貧しい騎士たちの村、アルテ。

 ルースは、そんな村に生まれた男子だった。 歳は15。



 ……う~ん、説明的でしょう?

 テキトーに書いた事も加味されているとは思いますが、何と言うか… プロットを細かくしたような… 箇条書きとも言えそうな出だしです。 物語の状況に関しては、分かりやすいかもしれませんが、ある程度の展開が想像出来、幾多のファンタジー作品を読まれて来た方には、新鮮さを見出す事は出来ないでしょう。 いかにも『 今から始まるよ~! 』ってカンジで、説明的な出だしの典型的な文面です。

 ただ、決して『 悪い 』と申し上げている訳ではありませんよ? 他に、もっと秀逸な手法が、幾つもあると言う事なのです。


 では、世界観・設定は、良いとして……

 その幾つかある手法の内の、1つを選択し、同じシチュエーションで、下記にリライトしてみましょう。


「 赤眼だよ、ミーサ……! 」


 生まれたばかりの赤子の瞼を、武骨な指先でわずかに押し開け、その小さな瞳の色を見た髭面の男は呟いた。

 ベッドに横たわる女性は、薄っすらと額に汗を滲ませながら、まだ幾分荒い息の中、消え入るような小声で答える。

「 ……神より授かった… 私たちの大切な子です…… 」

 赤子を女性の両腕に抱かせ、小さなため息をつくと、男は言った。

「 不吉とされる、赤眼( せきがん )の子…… か 」

 ミーサと呼ばれた女性は、抱いた赤子の頭を撫でながら言った。

「 例え、不吉な赤眼の子であっても… 法王を守る、騎士の家に生まれた男子…… 元気に育ち、立派な騎士になってもらいたいわ。 …あなたのように 」

 男は、その厳めしい風体に似合わない、優しい眼差しで女性を見つめながら言った。

「 名前は、ルース…… 法王を警護するラインハルト家に生まれた、赤眼の嫡男… ルース・ラインハルトだ 」


 月日は流れ、15年目の春……

 ルースは、精悍な顔つきの好青年になっていた。



 …いかがでしょうか?

 例え、例文であっても、ある程度は物語の展開を進めておきたかったので、状況描写のボリュームが簡素になってしまい、臨場感が薄らいでしまったのは申し訳ありません。 『 先急いだ感 』アリアリですね……

 しかし、作品としては、随分と趣が変わったかと思います。 手前味噌ながら、物語の冒頭としては「 ふ~ん… まあ、しばらく読んでみようかな 」と言う感覚になりませんか?


 改訂例文は、とりあえず幾分、ドラマチックな状況にしてみました。

 最近の作品は、このような『 シリアス路線 』が好まれるようなので、それに準じてみた次第ですが、文章的には一切、世界観の設定説明をしていません。 会話文にて、それ相当の設定に関与する状況が認知出来るようにしてみました。


 まだ、ゴルデスの『 ゴ 』の字も出て参りませんが、登場した男の『 独り言 』の様なセリフにて、その設定を知らしめる事は簡単です。 例文の為、そこは割愛させて頂きました。

 そうですね…… この後、物語の流れ的には「 ルース! 」とか言って、女の子の友人辺りが駆けて来そうですが、誰もが書きそうな『 アリアリ 』のシーンなので、まだ幼馴染は登場させないで下さい。(笑)

 とりあえず、現在のルースの近況を描写する方が先決でしょう。 イキナリ、教導騎士の先生から厳しい稽古を付けられているとか、赤眼をからかった同級生とガチの喧嘩をしているとか……

 まあ、その程度の事で喧嘩するような『 ヤワ 』な青年に育っていない事を期待したいところですが、『 最強 』はいけません。 あくまで、立志に純粋な青年で、発展途上的なところが好ましいですね。 最初から最強では、成長に対する期待がありませんから……

 妙に『 大人ぶった 』冷静な少年とか、「 俺ツエー 」みたいな『 抜き出た 』能力・センスを持ち合わせた主人公は、私的には要らない( 嫌い )と考えます。

 そんな作品、そこいら中にあります。


 この例文は、数ある改訂例の内の1つです。

 説明的にならないよう、努めてみた結果です。 ご参考までに……


 それでは、このまま、仮設定を進めてみましょう。

 この物語では、赤い瞳は不吉と言う設定をし、『 マイナス要素 』を加えてみました。 皆が、忌み嫌う赤眼( せきがん:造語です )…… 青年ルースが成長する過程において、何度も支障をきたすであろう先天的要因です。

 これを、いかに克服して、法王に仕える騎士として成長するか、が本編の主なプロットとなりましょう。 法王の信頼を得る『 きっかけ 』も、面白そうかもしれません。

 脇役としては、友人である同年の男子・女子辺りが必要ですね。 不吉な赤眼を気に掛けない、優しい性格の2人です。

 ルースの父親は、法王に仕える騎士。 それも、法王を警護する、側近的な地位の高い騎士で、母のミーサは、法王の血を引く王家の出身… なんて設定は、いかがでしょうか? ヒューマン的な設定も、物語の展開に面白い『 演出 』が期待出来そうです。


 私の拙作に、この辺りの『 似たような 』設定で書いた、最初で最後のファンタジー『 異世界のチャーリー 』があります。 お時間があれば、どうぞ。 ただし… もう、かなり以前に書いた拙作です。 お目汚しになるやもしれませんので、悪しからず……

 私的には、「 この程度の文章力でも、『 らしき 』ファンタジーは書ける 」と、安堵して頂きたく、僭越ながら、この場にて紹介させて頂きました。(笑)


 さて、次は『 悪役 』であるゴルデスを、どうするか… ですね。

 実は、ルースの父親とは旧友であった… もしくは、敬愛していた『 恩師 』とする設定は面白そうです。 物語の展開の中で、ルースが徐々に過去を知って行く様は、読み手にとっては感情移入となり、ルースに親近感を持たせる事が出来ます。

 最後は決闘する事になるのでしょうが、決着を付けるのか、和解するのか… その展開の結果は無数にあると思われますので、ここでも、しっかりとプロットを立てるべきでしょう。


 新たな新天地を目指し、旅立つルースと、共に成長して来た友人。

 認められ、次代の法王となったルース。

 立派な騎士団の長となり、諸国を併合して帝国を築くルース……

 どれも、成長する勇者としては、色々と出来そうですね。


 そして、ラストシーン。

 不吉の象徴とされて来た赤眼が、威風堂々と輝き、将来を見据えた眼差しで未来を語るラストが、いかにも相応しく思えます。 これは、よくあるラストシーンかもしれませんが、完璧なるハッピーエンドには、意外と、誰も文句を付けないもの……

 処女作としては、上出来だと思いますよ?

 あと、そのルースの横には、愛すべき伴侶が寄り添っていると、尚更に良いのですが、ある意味『 出来過ぎ 』かも。

 再び、赤眼の『 跡継ぎ 』が生まれ、不吉の象徴は、『 栄華の証し 』となった… とする結びも、一興かもしれませんね。 何か、ルースの息子による『 続編 』が想像出来ますが。(笑)


 このようにして、プロットが固まりましたら、あとは存分に書いて下さい。

 まずは、草稿ですので、文章のつながりや表現、描写の整合性等は置いておいて…… とにかく、書きまくって下さい。

 ワードで創作するとして、フォントサイズが11くらいなら、36ラインほどで次ページとなるはずです。 2~3ページほど草稿したら、読み返し、おかしな記述を修正します。

 それを繰り返し、約5ページほどが出来上がったら、私は、そこで『 1話 』としています。 平均、15分ほどで読めるボリュームになるはずですので、5ページが1話のボリューム目安として創作して行くと、物語全体のボリュームバランスが構成しやすく、どこで『 読み止めて 』も、次の『 読み始め 』に違和感がありません。

 これは、逆に『 読みだしたら、止めれない 』… もしくは『 止めたくない 』と言う読者心境にもつながります。 ご参考までに……



 いかがでしたでしょうか?

 最後に、即興ながら『 書き方 』ではなく、創作のヒントを語らせて頂きました。

 物語の組み方も、書き方と同じく、様々な『 やり方 』があります。 講義させて頂いた中でもご説明致しましたが、沢山の書き手さんの作品を拝読し、あなた自身の『 創り方 』を模索し、創作をしてみて下さいね。



 さて、迷えるビギナーの方たちの為に、基本と言われる『 暗黙のルール 』と、私なりの『 書き方 』&創作のヒントを、僭越ながらご紹介致しました。

 ただし、何度も発言させて頂きますが、この本拙作中での『 講義 』は、私の想うところの『 常識 』であり、個人的な範疇での解説となります。 すべてが正解とは言えないでしょうし、完璧ではありません。 悪しからず……

 本拙作が、お読み頂いた方の、これからの創作の『 ヒント 』となれば幸いです。


 尚、この『 講義 』では、『 質問 』も受付致します。

 ギモンが湧いた方、応援コメントとしてお寄せ下さい。 私なりに、お答えさせて頂きます。

 本説に加える必要性があると認知させて頂いた場合は、加筆致します。 失礼ながら、その際は、加筆と同時に、コメントを削除させて頂きますので、ご理解・ご了承願います。


 ある機会にて… または、ある縁にて、創作を始められた皆様におかれましては、末永く『 創作 』を趣味の一つとして、これからも継続されて行かれます事を、切に希望致します。

 最後に、一言。



 『 継続こそが、チカラ 』です。



                小説の書き方初歩 / 完   夏川 俊

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小説の書き方初歩 夏川 俊 @natukawa

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