『楽園の果実』

N(えぬ)

禁断の果実は三度もぎ取られる

はじめに創造された世界の楽園にアダムとイヴが暮らしていた。

二人は人の形をしていて、恥を知らなかったので何も着ていなかった。そして何の知識もなかったので、楽園をただ歩き回るだけの生活でも幸福を感じるよう仕向けられていた。


二人は空腹を覚えると、楽園に生える木々の果実を取って食べることを許された。

それで、そばにあった大きな木の果実を毎日食べていたが、やがて飽きて違う木に興味を持った。


「今日はこの木の実にしよう」少し歩いたところでアダムが言った。イヴも「そうしましょう」と同じものを食べた。


それから二人は毎日、違う木の果実を食べて歩いた。

木の果実はそれぞれ、同じように見えても少しずつ違う味なのだと知った。


何日も何日も、いくつもの木を食べ歩いた。

そしてある日、小さな丘の上に、ひときわ大きな木を見つけた。

木を見ると大きな果実がいくつも枝に付いていた。


アダムは丘の上で見つけた大きな木の付けた果実を取って食べようとした。

そこへ、灰色の細長い生き物が現れて二人に言った。


「君たち。その林檎の木の実を食べるのかい?」


「この木は、林檎というの?」アダムが聞いた。


「君たちに名前があるように何にでも名前がある。その木は林檎という。わたしは蛇という名の生き物で、固有の名前をスティーブという」


スティーブは、この林檎の木が付ける果実は特別おいしいから食べてみなさいという。だが、アダムとイヴの耳に、この楽園と二人を創った創造主の声がして、食べてはいけないと言った。


創造主の声で食べることをためらった二人にスティーブは言った。


「声を気にすることはない。この果実はとてもおいしいし、君たちにとって有意義になるだろう」と誘いかけて、とうとう二人は果実を食べることにした。


まずアダムが一個の果実を取って囓った。


「おいしい!こんなにおいしい果実は初めてだ!」


アダムがそう言うと、林檎の木の同じ場所に、すぐさままた果実が生まれた。それを見て今度はイヴがもぎ取って食べた。


「本当においしいわ。アダム!」


アダムはあっという間に最初にもいだ林檎を食べてしまい、それだけで満足せず、林檎の枝の同じ所に生まれた果実をまたもいで食べた。


合計三度、同じ所から果実がもがれた枝には四つ目の果実が生まれた。だがその果実は白くて四角く薄っぺらい板のようなものだった。


「それも、もいでごらん」と蛇は言った。

イヴは誘われるままにそれをもぎ取り手に取って見た。


「何かご質問は?」

板のような果実が話しかけて来た。

アダムとイヴは、それから時間を忘れてその果実に質問を続け、白い果実は二人の問いに答え続けた。二人はあれよという間に知識を得て賢くなった。


創造主の声が楽園に響いた。

「禁断の果実を手にしたな?もう、勝手に生きていくがいい!」

アダムとイヴは楽園を追い出された。それを蛇はペロペロッと舌を出して見ていた。



おわり

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『楽園の果実』 N(えぬ) @enu2020

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