第6話「やろうと思えば簡単にできる」
例えばスポーツ選手。
例えば漫画家やイラストレーター。
小説家、評論家。
シンガーソングライター。
アイドル。
動画配信者。
話題になり、ネットのニュースに掲載されるたびに彼女は言う。
「こんなのは簡単にできるんだよね。私はやらないだけで」
常にこの言葉を聞き続けているが、彼女も常に言う。
「私がやった方が儲かるし話題になるけど、面倒だからしないだけ。ハッキリ言って私が動画配信した方がコイツより百万倍はクオリティあるけどね」
彼女が動画を配信すれば瞬く間に世間の注目を浴びるのだそうだ。
自分の方が豊富な知識があり、システムの利用にあたっては最善を引き出して使用できるそうだ。
彼女は慎ましいのでできるけどしないのだそうだ。
簡単にできるけれど、わざわざしないでやってるのだそうだ。
今日も彼女は同じことを言う。
明日もきっと言うだろう。
明後日も言うだろう。
一週間後も言うだろう。
一ヶ月後も言うだろう。
一年後も言うだろう。
十年後も言うだろう。
死んでしまうまで、彼女は言い続けるだろう。
そこまで言う彼女は僕に電気代、ネット代、食費を無心する。
僕が取りたい資格の教科書を彼女に見つかったことがあるのだが、こんな検定は簡単に受かる、受からないのはお前の様な馬鹿だけだねと、鼻息荒く罵った。しかし彼女は検定試験全般をそもそも一度も受けたことがない。
そういえば退職した職場のパワハラ上司も同じことを毎日のように口にしていたなと思い出す。馬鹿は日曜に休んでる暇があると思ってる時点で間違っていると言われ、自らが学生の時に取得した資格を「参考書を一晩読んだだけで合格出来ない人間は存在価値が無い」と言っていた。
自分が専門学校で数年掛かってやっと取得した資格であるだろうに。
僕はその資格が哀れに思えた。
努力の積み重ねで皆が取得している資格なのに。
「やろうと思えば別に簡単にできるけど、あえてやらないだけで、ハッキリ言って、自分がやった方が完成率は高いね」
多分。
多分だけれど。
これを口にする人は、出来ないと思う。
僕はこれを言い続ける人があまり好きじゃない。
好きじゃないと言うより近くに居たくない。
自分に自信のあることは良いことなのだろうと思う。
でも僕は。
僕は上手くいかない人生をやっぱり毎秒毎秒、必死になって泣きながら一歩ずつ進む方がいい。
僕は彼女と同じにはなりたくない。
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