最終話  転生、再び

 気がつくと、莉乃は銀色の世界で横たわっていた。


『よく頑張ってくれましたね。リノ、礼を言います』


「その声は……女神様!?」


『そうです。もう魔族が、人を襲うことはないでしょう。』


「日本の女子高生に何してくれるのよ~また死んじゃったじゃない!!」


『それは悪かったと思ってるわ、だから今回はあなたの好きな世界に転生させてあげるわよ』


 女神も少し言い訳じみている。

 女神、イグニスも大変なのだ。

 天界での噂を鵜吞みにして、異世界の女の子を自分の世界に連れてきて、しかも人間以外の者にしたら、意外と早く死んでしまった。

 兄神のイリアスにはしこたま怒られたのである。


『命を代償させる者にするとは何か!』


 莉乃が精霊としての生を終えて以来、兄神は話してくれなくなった。

 兄神は人間が大好きなのだ。


『リノはどうしたいですか?地球世界に戻りたいですか?』


 莉乃はこの言葉を待っていた。

 これだけ酷い目に合ったのである。


「あなたの世界で良いわ!! アルともう一度会いたいの! 今度は人間としてよ! 記憶もそのままにしてね」


『まぁ……欲張りね……』


 イグニスはしばし、瓶の中の水を見て微笑んだ。


『そういう事なら……あなたを大陸西方のソルティ・オアシスの族長の娘とします。生まれて数年後にオアシスを訪ねてくる男性があなたのアルベールです』


 そう言うと、イグニスの言葉がだんだん消えて行って、最後に


『水の加護は付けておきますからね』


「も~要らないわよ!!」


『必要な場所なのよ』



 ♦



 莉乃は気が付くと泉の側に立っていた。


 手を見ると、自分で思っているよりも色白で見慣れない服を着ていた。

 泉で自分の姿を映すと、金髪巻き毛の10歳くらいの女の子が映っていた。


「リリエラ・ノラ様!!どちらですか!!」


「ここよ。フレデリシア。」


 勝手に声が出る。


「また、ここでしたか?このオアシスの水源は安泰だと婆様も申しておりましたのに」


「そうじゃないわ、私はここで待ってるだけ」


「いつもそのようにおっしゃいますけど、誰を待ってられるんですか!?リリエラ様」


「私のことは、リノと呼んでと言ってるのに」


「いくら、お名前がリリエラ・ノラ様でもそんな縮め方はありませんよ」


 莉乃の顔がプ~っと膨らんだ。


「そう言えば、婆様からの伝言です。得体の知れない流れ者が乾物状態でオアシスに着いたとか、人道的に癒しなさいと命令ですよ」


「また~?婆様もどうせ、砂漠に放り出すのに、手当をしろなんて」




 治療所には髭を生やしたボロボロの男が、横たわっていた。

 莉乃は一目見て分かった。

 熱中症である。

 莉乃は精霊の時を思い出して、その男を水の結界で包み、体温を下げることにした。

 一通りの処置が終わっって、まんじりとその男が本当は銀髪であると気づいた。


「アル!?」


 男が目を覚ますと水を所望したので、侍女のフレデリシアが差し出した。

 男も水を飲んでいる間、莉乃のことを見ていた。


「失礼ですよ!!命の恩人に向かって、!!こちらはソルティ・オアシスの族長の一人娘のリリエラ・ノラ様ですよ!」


「リリエラ・ノラってまさか……リ……ノ!?」


 莉乃は頷き、アルベールに抱きついて行った。


「やっぱり、アル!!でも……あれから10年くらいでしょ?なんかアル、老けてない?」


「お前は、砂漠のお姫様か~ちっこくてなって良いなあ~~」


 アルベールの見た目はどう見ても30代半ばだったのだ。

(実年齢は28歳だが、魔法使いは若く見られがち。アルベールの父、ベルナールでも20代後半くらい)


「命の取引ってのをやってな。人間としての寿命を削るか、魔力で精気を補充するか選べと言われてな。魔法があれば寿命はいくらでも伸ばせるから、人間の方の寿命から精気を補充したら、父上よりも老けてしまった」


 アルベールは笑いながら言った。

 莉乃も大笑いである。

 笑う所ではないが、


「おいおい、酷いな!!おかげで、おさの座はジルベールに渡して俺は、はぐれ魔法使いになってしまったんだぞ」


「このソルティに何しに来たの!?」


 莉乃は、ニッコリと笑ってアルベールに言った。


「西域のオアシスなら、仕事があるかもって言われてな」


「このソルティ・オアシスには水の姫と言われるリリエラ・ノラ様がいらっしゃいます。当オアシスには、魔法使いなど不要です。」


「そ……そんな!!」


 フレデリシアに言われてアルベールは顔がムンクになってしまった。


「ひょっとして、リノ。水の力が健在か?」


「まぁね」


 頷く莉乃。

 再びムンクのアルベール。


「でも、大丈夫よ。アルはここで私と結婚して、ここが第二の故郷になるわ。」


「リリエラ・ノラ様!!」


 莉乃の宣言ともいえる告白に、フレデリシアの怒った声が重なった。

 再びの再び、ムンクのアルベールである。



(完)

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夢で逢いましょう ~莉乃の願い~ 円香 @erisax

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