第22話  火竜 召喚

 莉乃は、リヒトの身体の周りを4度回った。それ以上は、莉乃の力では無理だったのである。


「四重の結界か、五重と言いたかったが、仕方ないな。それでも大したものだよ」


 <ごめんなさい、これくらいしか出来なくて。>


「いいや。十分だって言ったろ?危ないから、俺の後ろにいろよ」


 リヒトは優しく言ってくれた。

 こんなに優しい人だったなんて、知らなかった。


 リヒトは召喚の石を見つめた。

 異世界の女の子の召喚の力だ。

 2年前に、魔法に無縁な世界の子にそんな力は、無用だと師匠と取り上げて来たものだった。

 その時は、こんな所で役に立つとは思ってもいなかった。


『リヒャルト・シグレーが命ずる。いにしえの時代にイリアスに付き従った火竜、リューデュールよ!!我の召喚に従い、姿を現わせ』


 リヒトがそう言うと、途端に目の前に、火の乱舞が現れた。


 <きゃー!!きゃー!!きゃー!!>


「うるさいぞ、乙女。これからだぞ!」


 炎はやがて、竜の形をとり始め幾人かのディン族は、この時点で火竜の餌食となっており、王も次第に玉座を下りて、後退しつつあった。


 リヒトの三重までの結界はあっという間に吹っ飛び、最後の結界もジュウジュウと蒸発寸前であった。

 莉乃は最後の力を振り絞って、何とかもう一重の結界を張ることが出来た。


 ヘトヘトになってリヒトの背中に隠れていた。


 <やるじゃないか!!水の乙女>


 精霊の仲間に褒められたのは初めてである。

 リヒトの風の戦士だ。若いが、力はありそうだった。

 風は火を煽ってしまうので、リヒトの頭の上にチョコンとしていた。


 <ど……どうも……>


 火竜が完全に竜の姿を取ると、ベルナールが素早く光の縄で、リヒトを確保して味方の方に保護した。


『火竜だと!?こんな秘密兵器を持っていたのか』


 魔族の王のガーランドは歯ぎしりしながら言った。


「火竜さんには、この城を好きに暴れても良いと元の主に許可を頂いてます。

 さ~どうしますか~?」


 ベルナールはこの状況を楽しんでいるように見えたが、本気である。

 火竜はかなり、大きな竜だったし、火竜が一吹きするだけで、幾人かの魔族は倒れて行った。

 王城も、無残なものである。

 かつての壮麗さはない。


 遠く離れた、前線基地でこの国の王子、リヒャルトはそれを見ていた。


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