第18話  精霊の莉乃   

『水の乙女でここまで来れるとは、そなた中々の力の持ち主だな。

 他の精霊は、契約者が気を失えば、気配を隠すものだが?それもせぬとは面白い精霊だな……』


 魔族の王は笑う。

 莉乃は、アルベールとの契約が、だんだん薄れていくのを感じていた。

 この双子の魔族のせいだ。


『この人間との契約が切れそうだって顔してるな』


 話しかけてきたのは、良く見ると、もう一匹よりもやや背の高いオルフェの方だ。


『人間に我らに不利なアイテムがあるように、我らにも人間を懲らしめるアイテムは伝わってるんだよ。この、破妖の剣は魔法使いと、精霊の契約を切る剣だと言われてるのだ。この剣のせいで、お前とこの男の絆が薄くなっているのだろう』


『喋り過ぎよ。オルフェ』


『分かったよ!!その前に』


 オルフェは腰に差していた細くて小ぶりの剣で、倒れているアルベールと契約によって、アルベールの右肩にいた半透明の莉乃の間に剣を突き立てた。


 すると、スルスルッと莉乃は自由になってしまった。

 ただ、水が欲しい……

 そう思って、飛び込んだのは、掃除用の桶だった。


 <いや~ん!!汚い水!!>


『水も滴る良い女ってのこの事を言うんだな』


 <意味違うわよ!!それに男でしょ!?綺麗な水はないの~?>


 莉乃は床掃除で汚れた水の入った桶の中から叫んだ。


『用意してやってもいい。だが、オルガか、オルフェのどちらかと契約して我らと共に闘え』


 魔族の王が言ってきた。


 <それはムリ!!あなた達は敵です!!私は、女神様と約束してこの世界に来たのよ。あなた達がアルの敵なら、私にとっても敵だわ>


 莉乃はキッパリと言った。


『女神と約束だと!?』


 <そうよ~私はホントはこの世界の人間じゃないの!イグニスって言う女神に頼まれて、ここにいるのよ。イグニスって光の神様でしょ?あなた達の敵じゃない!>


『確かに変わった精霊だと思っていたが、神と約束して異世界から来たか……笑わせるものだな!安心しろ。オルフェやオルガの母は人間だ。光の魔法使い一族のな……あの二人もかなり魔法の使い手なのだが、下位の精霊としか契約が出来なくて、力を持て余している。お前が力を貸してくれれば、我らは、人間並み魔法使いの力を手に入れることが出来る』


 王はニヤリと笑って言った。


『そなたに選択の余地はない』


 莉乃は必死だった。


 <それより、綺麗な水~!!>


『勇ましい精霊だな。気に入った、俺がもらう。オルガ、良いだろ?』


『構わないわよ、兄さん。飽きたら、貰うから』


 二人の間では話が付いたようである。


 莉乃のために、王座の前に綺麗な水が木桶に入れられて、運ばれてきた。

 莉乃はまた、髪を引っ張られるのが嫌だったので、自分で綺麗な水の木桶の方に移動した。

 こうして、綺麗な水の中にいると落ち着く。

 つくづく、人間から離れてしまったんだと思う莉乃だった。

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