第21話

 〜???side〜


 「さぁ僕のペット達。憎きソルジャーの卵達をこらしめておいで。」


 クリスタルから黒い光が溢れ、そこから魔物が次々と現れる。


 ゲートを守っていたソルジャーが隣で血の海に沈んでいる中、フードを深く被ったその男は、最初は大演習の観客席から観戦していたが、頃合いと判断し誰もいない所で多数の魔物を召喚し、演習場の中へ送り込んでいた。

 今回の作戦で使用する魔物を全て送り込むと、いつの間にかフードの男の後ろに片膝を着いていた人物が、


 「ジーニアス卿。全ての準備は完了したぜ。」

 「そうか。では我々は先に退散するとしよう。」

 「俺は少し遊んでいっても?」

 「構わん。全ては星の導きのままに。」


 誰にも見られることなく、1人はゲートを潜った。

 残ったジーニアス卿と呼ばれた男は、


 「仕方のない奴だ。援軍が来ないよう少しだけ手助けしてやるか。」


 そう言い、再びクリスタルが黒く光りだした。

 そこに現れたのは、全身が黒い甲冑で覆われた人型と首のない人型だった。


 「暗黒騎士、デュラハン、このゲートを死守せよ。」


 そう言い残し、ジーニアス卿は消えていった。



 〜アレクside〜


 「グルルルゥ。」

 「こいつって説明であった召喚獣なのか? それにしちゃあ弱そうだな。」


 森の中を歩いていると、急に目の前が光りだし、その中から狼が現れた。

 俺の姿を見た途端、戦闘態勢に入っていたので恐らく召喚獣なんだろう。


 「敵なんだから倒すか!」


 俺は剣を抜き、狼に向かって構える。

 俺が戦うつもりなのがわかったのか、狼は口を開けて俺に襲いかかってきた。

 横に飛び避けると、再び構えて作戦を考える。


 フェイントも何も無いただの突進か。これくらいなら作戦なんかいらないな。

 真正面からぶった斬る!

 再び狼が突進してくると、それに合わせて俺は剣を振るった。


 「飛斬!」

 

 大演習ギリギリで師匠から合格をもらった飛斬を使った。

 飛ぶ斬撃を考えていなかったのか、狼は回避する事が出来ず真っ二つに切り裂かれた。


 召喚獣なので消えるかと思ったら、血と臓物を撒き散らしているままの状態から変わらない。


 最近の召喚獣は妙な所でリアルなんだな。

 不思議に思いながらも、召喚獣には詳しくない為無理矢理納得した。


 次の場所へと移動しようとした時、血の匂いを嗅ぎつけたのか10頭程の狼の群れがやって来た。

 仲間を殺されたのが嫌だったのだろう。かなり興奮している。

 襲われたから反撃しただけなのに。

 お前ら召喚獣だろ? それくらいで怒るなよ。

 ため息をつきながら剣を構えると、


 「異常事態発生。異常事態発生。現在、演習場内にて魔物の出現を確認。応援を送ろうとしているが、ゲート前の敵を片付けてからになるので遅れます。現場のソルジャーは各自殲滅せよ。繰り返す。魔物を発見次第ソルジャーは殲滅せよ。」


 魔物が現れただと? それに応援が来ないのか。


 俺は今しがた倒した狼の方を見て、もしかしてこいつら召喚獣じゃなくて魔物なのか? と、自問自答する。

 そうこうしている内に狼達は吠え、一斉に襲ってくる。


 「くそっ! 物理攻撃じゃ俺の魔法は使えねえ。どうする?」


 少し焦っている時に、ふと師匠の言葉を思い出した。


 「ピンチの時こそ冷静になれ。慌てていたら無様に死んでいくだけだぞ。状況をよく見ろ。生き残る為の最善を尽くせ。」


 その言葉を思い出した時、俺の身体は自然と動いていた。

 前方から襲ってくる3体の狼の足元に滑り込み、中央の1体を縦に両断した。

 続けて左から2体が襲ってきており、俺は反対側へ転がり避ける。

 タイミングをずらし着地した所を接近し2体を切り裂く。

 残り7体!

 順調に3体を倒したが、まだ数は多い。

 油断せず周囲を警戒すると、両側から2体ずつ襲いかかってくる。

 俺は右側の狼に剣を向け、


 「飛斬!」


 斬撃を飛ばし1体を葬る。しかし、


 「いてぇ!」


 反対側から襲ってきた狼の1体に足を噛まれる。


 「痛いじゃねえかよ!」


 俺は噛み付かれた方の足を振り回し、狼達を近付かせない。

 少し怯んだ所で、噛み付いている狼に剣を刺し倒すと、怯んだ狼の1体に向けて剣を投げた。

 見事に刺さり、残りは4体。

 武器を持っていないのを感じ取ったのか、狼達は連携して再び襲いかかってくる。

 俺は走って剣を取りに行き、狼から剣を抜いたと同時に後ろに向かって剣を横薙ぎに振るう。

 後ろから飛び付いてきていた2体を切り倒すと、残りの狼は勝てないと悟ったのか逃げていった。


 気配が完全になくなったのを確認すると、俺は座り込んでから一息つき、


 「ふぅ〜。疲れたぁ。」


 ふと考えると、1人で魔物と戦闘したのって生まれて初めてか?

 ボーッと狼の死骸を見て考えていると、何やら光っている所がある。

 痛む足を引き摺りながら近付くとそこには、小さめのサイズだがクリスタルがあった。

 もしかして、クリスタルって魔物の死体から出てくるの?

 俺は取り出したクリスタルと、以前にクリスタルを付与してもらった腕輪を見比べる。

 これも魔物から取れたのかな?

 今度誰かに聞いてみようと結論が出ると、クリスタルをポケットに入れ歩き出した。

 まずは誰かと合流しよう。そこからだ。


 再び歩き出そうとすると、前方から誰かの気配がした。

 剣を構え、魔物が襲ってきても対応できるようにしていると、


 「なんだお前かクズ。」


 森の奥からやって来たのは、大きな槍を持ったフレイだった。


 「フレイか。無事で良かった。今は魔物が出るらしいから気を付けないといけないぞ。」

 「もう何体も殺している。あんな雑魚で私を止められる訳がないだろうが。お前は……ふっ、怪我してるじゃないか雑魚め。」


 鼻で笑ったフレイに反論したかったが、向こうは無傷で俺は負傷している。

 悔しいが今は何も言い返せなかった。

 フレイが少し視線を外しながら、


 「まぁなんだ。1人より2人の方が安全だろう。私が守ってやってもいいぞ?」

 「それ知ってるぞ。前にマルスから聞いた。ツンデレってやつだろ?」


 俺がツンデレと言うと、フレイが槍で突きを放ってきた。


 「うおっ! 危ねぇな!」

 「そのくだらない事ばかり言う口を黙らせてやるから動くな。」

 「すいませんでした!」


 恐怖を感じた俺は、頭を直角に曲げ謝った。

 ふんっ。と言ったが何もしてこないのでどうやら許してくれたようだ。

 とりあえずこれからの動きを相談しないと。


 「今からどうする?」

 「まずは動ける生徒を探す。」

 「じゃあ探すか。俺は向こうで気配を探るからフレイは反対側な。」

 「……お前が全部やれ。」


 はぁ? 今の俺は変な顔をしているだろう。

 頭を傾けながら、


 「なんでそんな無駄な事すんだよ。2人でやった方が早いだろうが。」

 「う、うるさい! さっさとやれ!」

 「お前……。もしかして気配探れないのか?」


 顔を赤くしたフレイから何やらオーラが見えるような気がする。

 あ、これは言ったらダメなやつだ。


 「わ、わかった! 俺が気配を探るからフレイはしなくていい! だから怒るな!」


 ふぅ〜っと息を吐いたフレイは俺を睨み、


 「じゃあさっさとやれ。」


 はいはいわかりましたよ。

 俺はため息をつきながら気配を探った。すると、


 「フレイ。こっちの方向に誰かいるかもしれない。」

 「よし。それじゃあ行くぞ。」

 「お、おい! 俺も正確じゃないから、もしかしたら魔物かもしれないぞ。」

 「魔物なら蹴散らすまでだ。」


 なんて頼もしいんでしょうね。

 槍を構えながら勇ましく歩いていくフレイの後ろ姿を見ながら、俺はもう一度ため息をついた。

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