第20話

 〜セレスティアside〜


 「この景色を見ていると暑くないはずなのに暑く感じるわね。」


 演習場に転移した私がまず思ったのはこれだった。

 それよりもまずは敵を見つけないと。

 同級生には負けられないわ。特にあいつには。

 

 「ここでフレアドラゴンを出すのは得策ではないわね。シルフ出てきて!」

 

 クリスタルを握りシルフの名を叫ぶと光りだし、シルフが召喚された。

 シルフは私の周りを飛び回り、とても楽しそうにしている。

 ふふっ。可愛いんだから。

 このままシルフと遊んでいたいけど、今日はそんな暇はないのよね。

 私はシルフの方を向き、


 「まずは索敵をお願いねシルフ。」


 私の声を聞いたシルフが何やら魔法を唱え、周囲にそよ風を送った。

 シルフはそよ風を使い索敵をする事が出来る。

 戦いも出来るけれどあくまで偵察に向いている子だわ。

 しばらくシルフの索敵をしていると、少し離れた位置で反応があった。

 シルフはそちらに向かって飛んでいくと、私の方に振り向き手招きをした。


 シルフに案内されると、生徒ではなく誰かが召喚したであろう召喚獣がそこにはいた。

 

 「オオォォォ!」


 少し小さめのサイズだけれど、これは土属性のサンドワームね。

 魔物みたいな見た目なのに召喚獣なのだから不思議だわ。

 世の中には魔物使いというジョブの人もいるが、とても希少で滅多にいないらしい。

 と、そんな事よりもサンドワームを倒さないと!

 私は、サンドワームを指差しシルフに命令した。


 「シルフ! サンドワームを切り裂いて!」

 

 私の言葉を聞いたシルフが魔法を唱え、サンドワームに鎌鼬を浴びせる。

 切り裂かれたサンドワームはそのまま消えていった。

 土属性はシルフの得意属性だからかもしれないけれど、手応えがないわね。

 再び敵を探す為にシルフに索敵をお願いして探していると、


 「ただいま4名の生徒が脱落しました。残り20名です。」


 残り人数を知らせるアナウンスが聞こえた。

 なるほど、こうやって残り人数を知らせるのね。

 脱落した生徒は全員1年なのかしら?

 まさかあいつって事は……ないわね。

 あいつはしぶとそうですもの。

 一度頭を振りあいつの事を頭から追い出している

 さぁ次は誰が相手なのかしら。


 再びシルフに索敵をお願いし、森の中を歩いていると敵を発見したようだ。

 シルフの手招きに着いていくとそこにいたのは、


 「私達がこんなに早く出会ったらダメだと思わないかしらネクロスくん?」

 「それも運命でしょうエリスさん。」


 なんとそこにいたのは、先程あいつとマルスくんと話していたネクロス先輩と、エリスさんだった。


 「どうしようかしら? 今やり合っても構わないのだけれど、あなたと戦った後にここを勝ち残るのは少し骨が折れますわね。」

 「俺に勝てるとでも?」

 「あなたこそわたくしに勝てると思っているのかしら?」


 2人の会話を聞いていると突然ネクロス先輩からとてつもない威圧感が出た。


 「俺に負けるのは恥ずかしくないですよ。俺に勝てるのは運命の女神に愛された者だけだ。」

 「本当にあなたは運命という言葉が好きね。運命は自分の手で切り開くものではありませんこと?」

 「それは違う。運命とは既に決まっているのですよ。エリスさんの言っている事は弱者の言い訳だ。それよりも早く始めましょう。あなたと会話を楽しみに来たのではありません。」

 「あら、私は会話を続けてもよろしくてよ? ですが、可愛い後輩もいてる事ですし話を続けるだけでは申し訳ないですわね。」

 「えぇ。先に邪魔者には退場してもらいましょう。」


 気がつくと2人は私の方を向いていた。

 まずい! ここにいる事がバレてる!

 咄嗟に茂みから飛び出し、シルフと構える。

 ネクロス先輩が腰に差している長刀を抜きこちらに向かって来た。

 は、早い!

 ネクロス先輩のスピードに反応する事が出来ず、気がつくと私の後ろで刀を振り上げていた。

 ここまでかと思ったら、1発の銃弾がネクロス先輩に向かって飛んでいった。

 刀で弾きながら後退したネクロス先輩は、


 「邪魔者を先に消そうとしただけなのですがね。」


 前を向くと、両手に2丁の銃を持ったエリス先輩がいた。


 「可愛い後輩に負ける姿は見せられないのかしら?」

 「その言葉そっくりそのまま返しますよ。」


 ネクロス先輩は私から離れ、エリス先輩に突撃していった。

 エリス先輩が銃を構えながら、


 「セレスティアちゃん。そこは戦闘範囲ですわよ。離れておきなさい。」


 そう言い、ネクロス先輩に向け連射する。

 先程と同じように刀で銃弾を弾きながらどんどん接近していく。

 その時、エリス先輩の足元が光り、


 「あなたへの対策はしっかり考えておりますわよ。風属性上級魔法エアロガ!」


 エリス先輩が風属性上級魔法エアロガを唱えると、巨大な竜巻が発生した。

 全てを巻き込み吹き飛ばそうとする竜巻の正面に向かって走ったネクロス先輩は、


 「無駄だ。斬魔剣。」


 何かを呟くと、刀で竜巻を真っ二つに切り裂いた。

 なんで刀で魔法が斬れるのよ!

 これではエリス先輩が不利かと思ったが、予想出来ていたのか切り裂いた先で新たな魔法を唱えていた。


 「足元がお留守ですわよ。水属性上級魔法ブリザガ!」


 あの人はいくつ上級魔法のクリスタルを持っているのだろう?

 次は水属性の上級魔法を唱え、広範囲の地面を凍らせた。


 「これでお得意の接近戦は出来ないでしょう?」


 確かに、地面が凍っていたら先程のような爆発的な速さで移動は不可能だろう。

 エリス先輩は次々と銃を連射していく。

 恐らくあれは魔力を使って使用する銃でしょうね。

 そうじゃなきゃあそこまでの連射は出来ないわ。

 ネクロス先輩は弾を避けつつ刀から炎を出した。


 「ふん。」


 ネクロス先輩の声が聞こえたと思うと、炎の斬撃を飛ばした。

 エリス先輩までは距離があったので、軽く避けれたみたいだけれど、凍っていた地面は元に戻っていた。


 「この程度で俺を止められるとでも?」

 「本当にあなたは万能だから対戦相手として見たらとても困りますわ。」


 凄い戦いだわ。

 何よりも気になるのは、ネクロス先輩もエリス先輩もクリスタルをどこに持っているのだろう?

 あんなに色んな種類の魔法を使ったら、クリスタルが目立つはずなのだけれど。

 私の疑問をよそに2人の戦いは激しさを増していく。

 ネクロス先輩とエリス先輩は自分の武器を構え直し、


 「上級雷撃剣サンダガ剣。」

 「上級氷結弾ブリザガショット。」


 2人の詠唱が終わると、エリス先輩の銃からは、冷気のようなものが出ているのか周囲が凍っていき、ネクロス先輩の刀からは、雷が走っている。


 「そろそろ準備運動は終わりで良いですか?」

 「その生意気な態度を更生させてあげますわ。」

 「「速度強化ヘイスト。」」


 2人は更に加速の魔法を唱えた。

 そして、2人の姿が消え銃声と雷が鳴る音だけが聞こえる。

 次元が違いすぎる……。

 一体どれだけの鍛錬をしたらここまでの実力が身に付くのだろう。

 私の心が折れそうになったその時、


 「ただいま6名の生徒が脱落しました。残り18名です。」


 アナウンスを聞き、意識を集中させる。

 こんな事で挫けたらダメ。私はまだここから実力をつけていくのだから。

 学園上位の戦いを見る機会などないのだから、しっかり見させてもらうわ。

 私の決意とは関係なく、戦闘は続く。


 「なかなか粘りますねエリスさん。」

 「そんな簡単に負けるような女ではありませんよ?」

 「ふふっ。少しは楽しくなってきましたよ。」

 「先程アナウンスが流れましたわ。楽しい時間もそろそろ終わりにしませんこと?」

 「えぇ。いいでしょう。」


 2人が同時に後ろに下がり、足元に魔法陣が広がる。

 これで決まるわ……。

 私はなんとなくだが、そんな予感がしていた。

 2人が魔法を唱えようとしたその時、急に魔法を解除し周囲を見渡した。


 「残念ですがここまでのようですね。」

 「そうですわね。神聖な大演習を汚す不届き者をこらしめなければいけませんわ。」

 「あなたとの決着は後日という事ですね。」

 「いつでも待ってますわよ。」


 2人が何回か会話をすると、ネクロス先輩がこの場から立ち去っていった。

 何事かと思い、エリス先輩の方を見ると、


 「さて。トラブル発生ですわよセレスティアちゃん。迅速に対応しなければいけませんわ。本当に、この大演習を汚すとは許せません。そもそも大演習とは、新入生の歓迎と実力を見るための大事な舞台であって、それを邪魔するという事は……。」

 「あ、あの先輩。」

 「おっといけませんわ。もう少しお喋りをしたい所ですけど、まずはトラブルを解決致しましょう。」

 「そのトラブルというのは?」

 「よく感じ取りなさい。本来いるはずのない魔物が召喚されていますわ。一体誰の仕業かしら?」


 プンプンと可愛く怒っている先輩を横目に、シルフに索敵をお願いすると、確かに先程まではなかった反応がいくつか現れている。

 これが魔物か。

 実際に対峙するのは初めてだけど、話だけ聞いていたらある程度の敵は私でもなんとかなりそう。

 エリス先輩の方を見ると、先輩は頷き、


 「では魔物退治といきますわよ。」

 「はい。わかりました!」


 私は、エリス先輩と共に行動する事にした。

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