第24話 王都へ

「決意が固いのはいいことですが、本格的に魔界攻略に乗り出すならば情報収集が欠かせません。王都に向かいますよ」


 アヴァロンは衝撃的な言葉を口にした。


「王都になんか向かったら、袋叩きにされますよ?」


「身を隠して行くんです。そうしてまで会わなければならない人物がいます」


 そこまでして会う必要のある人物となると、一人しか思い浮かばない。


 勇者ジーグ一行の唯一の生き残り。


「弓聖ホーンブレアです」


 アヴァロンは誰もが知る名を告げた。

               ◇

 王都カルネシアの王城は、荘厳としか言いようがないほど、巨大で美しかった。陽光に照らされ、白亜の塔が燦然と輝いている。千年も前に建造されたらしいが、時代を感じさせない。


 だからこそ、不気味でもある。


 時の流れから、そこだけ取り残されているかのような不気味さを感じる。


 王城の手前には、初代国王にして建国者、カルネス1世の陵墓がある。大理石でできた簡素な碑だ。


 カルネス1世は、もともと東方から渡ってきた戦士らしい。その圧倒的な強さとカリスマ性で、この土地の諸民族をまとめ上げたそうだ。


「観光に来たんじゃないですからね、さっさと行きますよ」


 アヴァロンは陵墓に目もくれず、先を急ごうとする。確かに。人目につくと厄介だしな。


 俺は、碑に刻まれた東方の文字から目を離し、アヴァロンの後を追った。


『和泉閑厳ノ墓』


 読み方は分からないが、そう刻まれていた。


 郊外の森を抜けると、泉のある広大な庭園が見えた。ホーンブレア邸のものだ。


 門から屋敷の入り口までが、やけに遠かった。


 ホーンブレアの屋敷は、冒険者個人が所有するものとしては最大級の広さを誇ることで知られている。


 勇者ジーグ一行の功績は、地上に出てきた魔族の討伐だけにとどまらない。魔界から数多の資源を持ち帰ってもいる。当然ギルドからは報酬を受け取っているし、王室からも破格の報奨金を受け取っている。


 これだけの屋敷になるはずだ。


 それに引き換えエレナはどうだ。


 三年前の時点で、エレナの実力は冒険者としては一流だった。親孝行したいと常日頃から言っていたエレナのことだ。もし生還していれば、家族に楽をさせてやっていただろう。


 なのに、なぜそうならない?


 俺は悔しさがこみ上げ、歯噛みした。

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