第18話 異常事態

「すぐにギルドへ知らせましょう」


「いえ、ここで私が処理します」


 アヴァロンは頼もしく宣言し、合掌する。


「武技【百の手】」


 アヴァロンが唱えた瞬間、黒鳥の動きが止まった。次いで、巨大な腕で払いのけられたかのように、放射状に吹き飛ばされていった。どの鳥も意識を失い、次々と地面に墜落していく。


「これが、法力の力か」


 使いこなせれば相当な威力を発揮するわけか。


 もちろん、魔力についても同じことが言える。結局は本人の技量と努力次第だ。


「何だったんでしょう? 魔王軍は統制が取れていて、意味のない行動はとらないはず。意味があるとは思えな……」


 次いで、強大な魔力の塊が迫っていることに気付き、俺は口をつぐんだ。


 ドラゴンロードのように、人間形態に化けて気配を隠そうともしていない。おそらくは【ロード】級の魔王軍幹部だ。


「来ますね。法力凝結【金剛杵】」


 身の丈ほどはある鉄棍を召喚したアヴァロンは、戦闘態勢に入る。すると、上空に巨大な鳥が現れた。


 真っ黒な鳥だが、カラスなどではない。形状自体は不死鳥に似ている。


「黒雷よ」


 鳥は人語を話した。詠唱とともに、漆黒の柱が天から降り注ぐ。アヴァロンは危なげなく回避した。だが、


「遅い。所詮は人間か」


 アヴァロンは黒鳥の爪で頭を鷲掴みにされ、黒い電流を流し込まれていた。


「あぐっ、」


 アヴァロンは力なく地面に倒れ込む。全身が痺れて動けないのか。


「炎魔法【フレアバースト】」


 俺は反射的に最大火力の魔法を放っていた。


 あのアヴァロンが負けた? とんでもない異常事態だ。相手はドラゴンロードよりも格上。戦って勝てる相手ではない。アヴァロンを抱えて逃げるしかない。


【フレアバースト】程度では攪乱にもならないが、俺はアヴァロンを背負って全速力で駆け出した。


「逃げられると思うな。ロッソ・アルデバラン。貴様はエレナ様の夫となるのだ。これはエレナ様の決められたこと。すなわち、誰であろうと服従すべき絶対条件だ」


 随分と過激な忠誠心だ。もちろん従うわけにはいかない。


 黒鳥は、一瞬で距離を詰めてきた。俺が苦労して稼いだ距離も、奴にとっては一回羽ばたくだけで済む程度の間合いなのか。


 逃げ切れない。


 どうする?


 黒鳥の爪が迫り、万事休すかと思った時、白刃が光り、黒鳥の爪は削がれた。

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