第8話 魔王の遺志
「エレナ、俺はお前と行くことはできない。お前が虐殺を行おうとしているなら、止めなければならないからな」
「知ってたんだ。そう。私は亡き魔王ペイヴァルアスプの遺志を継いで、この世界の人間どもを根絶やしにするの。もちろん、ロッソは例外よ」
うっとりとした目でエレナは野望を語る。
「お前が魔王の遺志なんか継ぐ必要ないだろ。魔王は、お前が倒したんじゃないのか?」
「そう。私が倒した。よく分かったね。私が昔語ってた夢、ちゃんと覚えててくれたんだね。でもね、今の私は人間どもを殺したくて仕方ないの」
なぜだ。なぜそんな思想に至った?
「でもまぁ、人類の存亡なんてどうでもいいじゃない。私は、ロッソと一緒にいたいだけ。でも私はコキュートスから動けない。だからロッソが来てよ。たったそれだけのことだよ?」
「分かった。行こう。行くよ、エレナの居るところに」
俺は意を決して言う。心中は無理だ。ならば、失敗に終わるかもしれなくとも、エレナの説得を試さずにはいられなかった。
「ロッソ・アルデバラン。貴様、エレナ様を謀るつもりだな?」
突如として現れた黒ずくめの男が、怒りを滲ませて問うてくる。こいつは確か、皇竜ドラゴンロードか。
バレたか。ならば仕方ない。こいつと一戦交えるまでだ。
「俺はコキュートスまで行って、エレナを連れ戻す!」
「逆だよロッソ・アルデバラン! 貴様がエレナ様の夫となりエレナ様をお支えするのだ! エレナ様を連れ戻そうなどと、おこがましいことを口にするな!」
ドラゴンロードの身体は徐々に肥大化し、鱗に覆われた外皮が露わになった。まさに竜人といった容貌だ。
「へぇ。連れ戻す? あなたの入れ知恵かしら? アヴァなんとかさん?」
「アヴァロンだ。私は殺生をしないと誓っているゆえ、殺すのではなく連れ戻すことになる」
アヴァロンは毅然とした態度を崩さない。だが、エレナの方は怒り心頭だ。
「私と! ロッソの! 邪魔をするな!」
高密度の魔力により、凄まじい衝撃波が吹き荒れる。たちまち俺の自宅は半壊した。が、アヴァロンは直立不動のままだ。その態度が火に油を注いだのか、エレナはすかさず突進し、アヴァロンに殴りかかった。
アヴァロンはエレナの分身と交戦中。
ならばやるしかない。俺一人で。俺は地面に転がっていた、予備の剣の柄に手をかける。
「剣技【グローム】」
オリジナルの剣技でドラゴンロードの首を狙う。だが、鱗片が飛び散っただけだった。
俺の最も得意とする剣技でも通らないか。だが、目的は果たした。
「ぐっ、」
ドラゴンロードは膝をつく。
稲妻を意味するこの剣技の衝撃は、身体の内部にまで伝播する。外皮がいくら硬かろうと関係ない。相手が怯んだこの好機を、逃すわけにはいかない。
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