第7話 急襲

 夢を見た。


 俺もエレナも、まだ幼い頃の夢。


 俺はエレナに花輪を作って、エレナは俺に木のナイフを作ってくれたっけ。

 あの頃は良かった。


 どうして、あの頃のままでいられないのだろう。あの頃のように、笑い合えないのだろう。


『ロッソを殺して魔界に持ち帰って、蘇生させちゃいそう』


 エレナのあのおぞましい言葉が響き、俺は目覚めた。


「だいぶうなされていたようですね」


 携帯食料を差し出しながら、アヴァロンが語りかけてくる。 幸い、夜中の襲撃はなかったようだ。だが、俺は全身に汗をかいていた。


「えぇ、エレナの変貌ぶりに、気持ちの方が追い付いていないみたいです」


「そうでしょうね。ただ何度も言いますが、『俺が元に戻してやる』だの、『あの頃のエレナじゃないから殺す』だのと考えるのは止めることです。魔界の恐ろしさは、冒険者ギルドのマスターたるあなたがよく知っているでしょう? あれは人を、人ではないものに変えてしまうもの。そしてそれもまた、自然の摂理の一部なのです」


「分かっています。ですが、自分の幼馴染みのこととなると、どうしても! どうしても理屈では割り切れないんです!」


 俺はいつの間にか叫んでいた。ギルドマスターたる者が取り乱すなんて、情けない。


「それでも感情の炎を鎮めなければなりません。そうしなければあなたは、全てを失います」


「全て? 全てってなんですか? 王国民のことですか? 国民の安全が保たれたとして! エレナのいない世界に、一体何の意味があるっていうんですか!」


「あなたは何か、勘違いをしているようですね。」


「何を?」


「世界に意味などありません。いつの間にか生成され、いずれは消滅するだけのもの。世界に意味を求めてはいけません」


「じゃあ何を頼りに……」


「ただ、自分と他者が、より善い行いができるように。幼馴染にこれ以上罪を重ねさせないために。そう考えて行動するしかないのです」


 アヴァロンは相変わらず無感情に指摘した。


「それなら……」


「おはよう、ロッソ」


 突然、空間が歪むような魔力の圧を感じた。間違いない。エレナの分身だ。


 俺たちは一斉に飛び退いた。


「そんなに怖がることないじゃない。さっさとその女から離れて、私のところへ来て」


 まるで気配を感じなかった。どうやって分身を送り込んでいるんだ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る