第2話:傀儡回廊

【※大切なご連絡!】

なんと今日、本作のコミカライズが始まりました!

詳しくは近況ノート→https://kakuyomu.jp/users/Tsukishima/news/16818023213042552788に書いてありますので、チラッとでも見ていただけると嬉しいです……!

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「レックスが……死んだ……?」


 号外の記事に載っていたのは、大切な友達の訃報だった。


「そ、そんなことあるわけないでしょ! 適当なこと書いちゃって、ほんっとに困った新聞ね!」


「そ、そうですよ! あのレックスさんが死んだだなんて、信じられません!」


 ステラとルーンはそう言って、記事の誤りを指摘した。


「……とにかく、冒険者ギルドに行ってみよう。あそこなら、確かな情報がわかるはずだ」


「えぇ、そうね!」


「はい!」


 早足で冒険者ギルドに向かい、バッと扉を開けるとそこには――悲惨な光景が広がっていた。


「うぅ、痛ぇ……痛ぇよ……ッ」


「腕、腕あるか……? なぁ俺の腕、ちゃんとついている、か?」


「あぁ、来る……奴が来る……奴等が……あぁ、すまない、違うんだ、俺じゃない……こんなことやりたくなぃ……嗚呼、ごめん、なさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……ッ」


 おそらくは傀儡回廊の攻略に挑んだ、十の冒険者パーティによる討伐隊だろう。

 ギルドの床には、おびただしい数の冒険者たちが寝かされていた。


「ねぇ、受け入れ可能な病院は本当にもうどこもないの!? ここじゃ処置し切れないわよ!」


「非番の回復術師をすぐに叩き起こしてきてちょうだい……!」


「ポーションの追加はまだ来ないの!? この人、もう持たない……ッ」


 血と消毒液とポーションのにおいが充満する中、ギルドの受付嬢たちが、馬車車のように働いていた。


 レックスの安否を一秒でも早く知りたいところだが、さすがにこの状況を放置しておくわけにはいかない。


「あの、もしよかったらこれ・・を使ってください。――現象召喚・英癒えいゆの泉」


 次の瞬間、ギルドの中央部に淡い光を放つ泉が出現した。


「えっと、これは……?」


聖山ひじりやまの最奥にある特殊な泉を召喚しました。ここの水は上位ポーション並みの回復効果があり、決して枯れることがありません。しばらくの間、召喚を続けますので、どうぞご自由に使ってください」


 俺がそう言うと、受付嬢たちの目に希望の光が宿る。


「こ、これだけのポーションがあれば……!」


「ちょっとこのポーション、とんでもない回復量よ!?」


「どなたか知りませんが、ありがとうございます!」


「いえ、どうかお気になさらず」


 俺が軽くそう言って、ギルドの奥へ進もうとしたそのとき、ステラが「あっ」と声をあげた。


「見てアルト、あそこにいる二人。確かレックスのパーティ『龍の財宝』の一員だったはずよ!」


 ステラが指さす先には、包帯を巻いた二人組の剣士が、沈痛な面持ちで座っていた。


 しかし、彼らの近くにレックスの姿はない。


 否応なしに最悪のパターンを想像させられてしまう。


「……とりあえず、話を聞いてみよう」


 俺がそう言うと、ステラとルーンは無言のままコクリと頷いた。


「すみません、ちょっといいですか?」


 俺が声を掛けると、レックスと同じパーティの二人組はゆっくりと振り返る。

 彼らの顔は土色に染まっており、瞳はどんよりとくらく濁っていた。


「実は二人にお聞きしたいことが――」


「――あ、あんたもしかして……アルトさん、か?」


「えっ、はい、そうですが」


 俺がコクリと頷くと同時、


「す、すまねぇ……本当に、すまねぇ……っ」


「俺たちのせいで、俺たちのせいで……ッ」


 二人は大粒の涙を流しながら、何度も何度も額を床に打ち付けた。

 皮膚が裂け血がにじむ中、何度も何度も土下座した。


「ちょっ、何をしているんですか!?」


「や、やめてください!」


「そんな無茶したら、死んじゃいますよ!?」


 俺たちが無理矢理に止めると、


「レックスさん、俺たちを庇って……っ」


「ここは俺に任せて先に帰れって……っ。俺たち、あの化物が怖くて、体、全然動かなくて……それで……それで……ッ」


 彼らの声は尻すぼみに小さくなっていき、やがて悲痛に満ちた嗚咽に変わった。


「……そう、ですか。つらいことを思い出させてしまい、申し訳ございません。教えて頂き、ありがとうございました」


 二人に感謝を告げた俺は――回れ右をして、ギルドの出口へ向かう。


「アルト、どこへ行くつもりなの?」


「アルトさん、もしかして……!?」


「傀儡回廊に行ってくる、レックスが待っているんだ」


 俺がそう言うと、二人は血相を変えて止めに入った。


「き、危険過ぎるわ!」


「傀儡回廊は本当に危険なダンジョンなんです!」


「大丈夫。いざとなったら……ダンジョンごと全部潰してやるから」


「「……ッ」」


 そうして俺が再び歩みを進めた瞬間、目の間に青白い閃光が走る。


「――待てぃ!」


「……校長先生」


 冒険者学院の校長であり、元特級冒険者――『神速のエルム』こと、エルム・トリゲラスが立ち塞がった。



「アルトよ、どこへ行くつもりじゃ?」


「傀儡回廊へ」


「ならぬ。この儂が許さん」


「友達を助けに行くのに許可が必要なんですか?」


「無論。これは冒険者協会特別顧問による命令じゃからな。このまま儂のげんを無視するというのならば、お主の冒険者資格を停止せねばならん」


「どうぞご自由に」


 俺と校長先生、両者の視線が交錯する。


「はぁ……友の危機に焦る気持ちはわかる。じゃが、少し冷静になれ。情報によれば、傀儡回廊の最上層には、『復魔十使ふくまじゅうし』がおるらしい」


「復魔十使……」


「奴等は幻想魔術を手繰たぐる、極めて危険な魔術師じゃ。えて言うまでもないが、幻想には幻想でしか勝てぬ。そして……お主はまだ幻想魔術を使えぬ。このまま行っても、無駄に殺されるだけのこと。悔しいじゃろうが、今は力を蓄え――」


「――かかっ、何を言うか。我が主様は幻想魔術を使えるぞ?」


 俺の頭の上で寝ていたはずのイリスは、いつの間にか目を覚ましていたようで、自信満々にそう言い放った。


「なんじゃお主、は……っ」


 校長先生は手乗りサイズとなった彼女を見て、驚愕に瞳を揺らす。


「ま、まさか……『神代の魔女』か!?」


「左様。まぁいろいろとあって、今はアルトの召喚獣となっておる。……あぁ、心配せずともよいぞ。今の儂は脆く弱い、路傍に咲く花の如き、儚い存在じゃ」


 イリスはそう言って、鷹揚おうように頷く。


「アルトが幻想魔術を使えるというのは……そういうこと・・・・・・か」


「うむ。儂は幻想魔術を修めておるゆえ、魔力さえ供給されれば、いつでも幻想魔術を使用できる。逆説的に言えばこれは、主様が幻想魔術を使えるも同然のこと。――違うか?」


「ぐっ、ぬぅ……」


 校長先生は難しい表情で黙り込んだ。


「イリス、お前……」


「かかっ、勘違いするでないぞ、主様? 儂はただ『面白そうな方』に乗っただけじゃからな」


「そうか……ありがとう」


 まったく素直じゃない魔女様にお礼を言った俺は、改めて校長先生と向き合う。


「――お願いします。傀儡回廊へ行かせてください」


「……」


 しばしの間、熟考した彼は――やがて大きなため息をつく。


「……はぁ、何故こやつはここまで頑固なのじゃ……」


「すみません」


「やむを得まい。今回に限って特別に、傀儡回廊への遠征を認めよう」


「ありがとうございます」


「――但し、条件が二つある」


 校長先生はそう言って、鋭く目を光らせた。


「なんでしょうか?」


「一つ、儂の愛弟子を同行させること。あやつは弱くこそなってしもうたが、冒険者としての知識はトップクラス。きっと助けになるであろう」


「わかりました」


 校長先生が推薦する冒険者、断る理由がない。


「それからもう一つ、これは確認なのじゃが……。『卒業時の約束』は、忘れておらぬな?」


「……はい、もちろんです」


 冒険者学院を卒業するとき、校長先生と交わした約束。


【極々限られた特定の条件下を除いて、アレ・・を召喚することを此処に禁ずる。――よいな?】


 アレは文字通りの『禁じ手』。

 俺だって、もう二度と召喚するつもりはない。


「ふむ、ならばよかろう。我が弟子には、三十分以内にギルドへ集まるよう連絡をしておく。それまでの間、しばしここで待つように」


 校長先生はそう言うと、まるで霧のように消えたのだった。

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【※大切なご連絡!】

重ね重ねになりますが、なんと今日、本作のコミカライズが始まりました!

詳しくは近況ノート→https://kakuyomu.jp/users/Tsukishima/news/16818023213042552788に書いてありますので、どうか是非一度でもいいので、見ていただけると嬉しいです……!

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追放されたギルド職員は、世界最強の召喚士~今更戻って来いと言ってももう遅い。旧友とパーティを組んで最強の冒険者を目指します~ 月島秀一 @Tsukishima

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