第2話:傀儡回廊
【※大切なご連絡!】
なんと今日、本作のコミカライズが始まりました!
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「レックスが……死んだ……?」
号外の記事に載っていたのは、大切な友達の訃報だった。
「そ、そんなことあるわけないでしょ! 適当なこと書いちゃって、ほんっとに困った新聞ね!」
「そ、そうですよ! あのレックスさんが死んだだなんて、信じられません!」
ステラとルーンはそう言って、記事の誤りを指摘した。
「……とにかく、冒険者ギルドに行ってみよう。あそこなら、確かな情報がわかるはずだ」
「えぇ、そうね!」
「はい!」
早足で冒険者ギルドに向かい、バッと扉を開けるとそこには――悲惨な光景が広がっていた。
「うぅ、痛ぇ……痛ぇよ……ッ」
「腕、腕あるか……? なぁ俺の腕、ちゃんとついている、か?」
「あぁ、来る……奴が来る……奴等が……あぁ、すまない、違うんだ、俺じゃない……こんなことやりたくなぃ……嗚呼、ごめん、なさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……ッ」
おそらくは傀儡回廊の攻略に挑んだ、十の冒険者パーティによる討伐隊だろう。
ギルドの床には、おびただしい数の冒険者たちが寝かされていた。
「ねぇ、受け入れ可能な病院は本当にもうどこもないの!? ここじゃ処置し切れないわよ!」
「非番の回復術師をすぐに叩き起こしてきてちょうだい……!」
「ポーションの追加はまだ来ないの!? この人、もう持たない……ッ」
血と消毒液とポーションのにおいが充満する中、ギルドの受付嬢たちが、馬車車のように働いていた。
レックスの安否を一秒でも早く知りたいところだが、さすがにこの状況を放置しておくわけにはいかない。
「あの、もしよかったら
次の瞬間、ギルドの中央部に淡い光を放つ泉が出現した。
「えっと、これは……?」
「
俺がそう言うと、受付嬢たちの目に希望の光が宿る。
「こ、これだけのポーションがあれば……!」
「ちょっとこのポーション、とんでもない回復量よ!?」
「どなたか知りませんが、ありがとうございます!」
「いえ、どうかお気になさらず」
俺が軽くそう言って、ギルドの奥へ進もうとしたそのとき、ステラが「あっ」と声をあげた。
「見てアルト、あそこにいる二人。確かレックスのパーティ『龍の財宝』の一員だったはずよ!」
ステラが指さす先には、包帯を巻いた二人組の剣士が、沈痛な面持ちで座っていた。
しかし、彼らの近くにレックスの姿はない。
否応なしに最悪のパターンを想像させられてしまう。
「……とりあえず、話を聞いてみよう」
俺がそう言うと、ステラとルーンは無言のままコクリと頷いた。
「すみません、ちょっといいですか?」
俺が声を掛けると、レックスと同じパーティの二人組はゆっくりと振り返る。
彼らの顔は土色に染まっており、瞳はどんよりと
「実は二人にお聞きしたいことが――」
「――あ、あんたもしかして……アルトさん、か?」
「えっ、はい、そうですが」
俺がコクリと頷くと同時、
「す、すまねぇ……本当に、すまねぇ……っ」
「俺たちのせいで、俺たちのせいで……ッ」
二人は大粒の涙を流しながら、何度も何度も額を床に打ち付けた。
皮膚が裂け血が
「ちょっ、何をしているんですか!?」
「や、やめてください!」
「そんな無茶したら、死んじゃいますよ!?」
俺たちが無理矢理に止めると、
「レックスさん、俺たちを庇って……っ」
「ここは俺に任せて先に帰れって……っ。俺たち、あの化物が怖くて、体、全然動かなくて……それで……それで……ッ」
彼らの声は尻すぼみに小さくなっていき、やがて悲痛に満ちた嗚咽に変わった。
「……そう、ですか。つらいことを思い出させてしまい、申し訳ございません。教えて頂き、ありがとうございました」
二人に感謝を告げた俺は――回れ右をして、ギルドの出口へ向かう。
「アルト、どこへ行くつもりなの?」
「アルトさん、もしかして……!?」
「傀儡回廊に行ってくる、レックスが待っているんだ」
俺がそう言うと、二人は血相を変えて止めに入った。
「き、危険過ぎるわ!」
「傀儡回廊は本当に危険なダンジョンなんです!」
「大丈夫。いざとなったら……ダンジョンごと全部潰してやるから」
「「……ッ」」
そうして俺が再び歩みを進めた瞬間、目の間に青白い閃光が走る。
「――待てぃ!」
「……校長先生」
冒険者学院の校長であり、元特級冒険者――『神速のエルム』こと、エルム・トリゲラスが立ち塞がった。
「アルトよ、どこへ行くつもりじゃ?」
「傀儡回廊へ」
「ならぬ。この儂が許さん」
「友達を助けに行くのに許可が必要なんですか?」
「無論。これは冒険者協会特別顧問による命令じゃからな。このまま儂の
「どうぞご自由に」
俺と校長先生、両者の視線が交錯する。
「はぁ……友の危機に焦る気持ちはわかる。じゃが、少し冷静になれ。情報によれば、傀儡回廊の最上層には、『
「復魔十使……」
「奴等は幻想魔術を
「――かかっ、何を言うか。我が主様は幻想魔術を使えるぞ?」
俺の頭の上で寝ていたはずのイリスは、いつの間にか目を覚ましていたようで、自信満々にそう言い放った。
「なんじゃお主、は……っ」
校長先生は手乗りサイズとなった彼女を見て、驚愕に瞳を揺らす。
「ま、まさか……『神代の魔女』か!?」
「左様。まぁいろいろとあって、今はアルトの召喚獣となっておる。……あぁ、心配せずともよいぞ。今の儂は脆く弱い、路傍に咲く花の如き、儚い存在じゃ」
イリスはそう言って、
「アルトが幻想魔術を使えるというのは……
「うむ。儂は幻想魔術を修めておるゆえ、魔力さえ供給されれば、いつでも幻想魔術を使用できる。逆説的に言えばこれは、主様が幻想魔術を使えるも同然のこと。――違うか?」
「ぐっ、ぬぅ……」
校長先生は難しい表情で黙り込んだ。
「イリス、お前……」
「かかっ、勘違いするでないぞ、主様? 儂はただ『面白そうな方』に乗っただけじゃからな」
「そうか……ありがとう」
まったく素直じゃない魔女様にお礼を言った俺は、改めて校長先生と向き合う。
「――お願いします。傀儡回廊へ行かせてください」
「……」
しばしの間、熟考した彼は――やがて大きなため息をつく。
「……はぁ、何故こやつはここまで頑固なのじゃ……」
「すみません」
「やむを得まい。今回に限って特別に、傀儡回廊への遠征を認めよう」
「ありがとうございます」
「――但し、条件が二つある」
校長先生はそう言って、鋭く目を光らせた。
「なんでしょうか?」
「一つ、儂の愛弟子を同行させること。あやつは弱くこそなってしもうたが、冒険者としての知識はトップクラス。きっと助けになるであろう」
「わかりました」
校長先生が推薦する冒険者、断る理由がない。
「それからもう一つ、これは確認なのじゃが……。『卒業時の約束』は、忘れておらぬな?」
「……はい、もちろんです」
冒険者学院を卒業するとき、校長先生と交わした約束。
【極々限られた特定の条件下を除いて、
アレは文字通りの『禁じ手』。
俺だって、もう二度と召喚するつもりはない。
「ふむ、ならばよかろう。我が弟子には、三十分以内にギルドへ集まるよう連絡をしておく。それまでの間、しばしここで待つように」
校長先生はそう言うと、まるで霧のように消えたのだった。
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【※大切なご連絡!】
重ね重ねになりますが、なんと今日、本作のコミカライズが始まりました!
詳しくは近況ノート→https://kakuyomu.jp/users/Tsukishima/news/16818023213042552788に書いてありますので、どうか是非一度でもいいので、見ていただけると嬉しいです……!
追放されたギルド職員は、世界最強の召喚士~今更戻って来いと言ってももう遅い。旧友とパーティを組んで最強の冒険者を目指します~ 月島秀一 @Tsukishima
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