2 イサク

 村の周辺は木々で覆われていた。


「まあ、上がってくださいよ」


 ドアを開けて、中へ招く長老。中に入ると、囲炉裏が部屋を明るくしていた。寒い中歩いていたのでランタオの手は凍えていた。キィという音が鳴り響いてドアが閉まる。猫の鳴き声がどこかで聞こえた。囲炉裏の薪の燃える音とは別にグツグツと音がしている。見ると大きな土鍋が紫の液体を沸かしている。


「ああ、それはですね。なんせ私は魔法を嗜んでおりまして」

「そうだったんですね」


 ランタオはその紫の液体をかき混ぜて見せる長老を見た。何を作っているのだろうかと怪しげに見た。


「これですか、ポーションですよ。毒消しですね」

「ポーション」

「ええ、ポーション」


 

 二人は囲炉裏の周りにいくつか置いてある藁でできた座布団に案内された。


「ようこそ、石守り村へ。改めまして、わたくし長老のイサクと申します」

「はじめまして、ランタオ・ラアパです」

「レオナ・トコールだ」


 存じております、と長老は恭しくイオナに向かって頭を下げた。


「先ほどは無礼をお許しください」


 ね、とついでにランタオの方を見る。ランタオは微笑み返した。


「少々、ここの最近村で可笑しいことが起きてまして。様子を伺わせて頂いていました」

「そうでしたか、あの。可笑しいことというのは? 」

「そうですね」


 イサクは考えながら事の成り行きを話し出した。なにやらここひと月の間で何人かの村人が何かにとり憑かれたり、人の好かったものが盗みを働いたりすることが起きているらしい。


「なるほど、それは村としては放っておけない事件ですね」

「そうなんですよ、それでここ最近村の周りの様子を見守っていたんです」

「関係ないが、この村は人間のほか獣人も住んでいるのだな」


 割って入るようにしてレオナが言った。


「はい、いますとも。それは私を見ておっしゃったんですよね」

「ああ、かなり驚いた」

「そうですよねぇ、レオナ様は生まれた時からあの祠を守っていてくださっていたのですから」


 レオナは気にも留めなかったが、ランタオはその物言いが引っかかった。


「祠? 」

「ええ」

「そうだ、ランタオ。あの洞窟は我ら石守り族の神を祀っている祠だ」


 ランタオは嘆息して見せて、器のもろこしスープを啜った。


「ランタオさんは、レオナ様。例の勇者様で? 」

「ああ、そうだな。少々勇者というにはどこか物足りないが」

「レオナさん」

 

 それ以上はやめてくれと言わんばかりにランタオは遮った。


「すまんすまん、それでここに私たちを連れてきた本当の理由は? 」


 ことの本題に入ると、イサクはためらいながらも結論を述べた。


「村の問題、解決していただけませんかねぇ」


 そのまなざし、有無を言わせない。



 

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