1. 黄色い目

 ランタオは洞窟から出ると周囲を見渡した。遠くに村の明かりがあるだけでそれ以外は闇に溶け込んでいる。ランタオは隣で空を見上げて気後れしているレオナを見て首を傾げた。


「どうしたんですか、レオナさん」

「ああ、外になれなくてな。それにあの空、まるで吸い込まれてしまいそうだ」

「ああ、わかります。僕も初めて見たときはそうでしたから」


 レオナは首をかしげた。


「ああ、そういえばお前は孤島にいる前はどこにいたんだ?」

「都会にいました。だから孤島で初めて夜空を見上げた時は、怖かったです」

「そうそう、孤独になる」


 二人は歩き始めた。二人は落ち着いて話ができるようにと、一晩泊まる宿を石守り村で探すことにした。村までの道はランタオが持っている地図に頼ることにした。



 村までの距離を二人の幼き思い出を語りながら歩いた。


「タンタンっていうのか、その先生ってやつは」

「はい。とても優しくて物知りな先生です」

「叱られたことはないのか」

「一度だけあります。僕が先生の言いつけを破って一人で森を探検して怪我をして帰った時です」

「ずいぶん過保護な奴だな」

「いいえ、その時僕はたったの5歳でしたから」

「ふうん、そうか。私は生まれたころから洞窟に暮らしていたからわからないが」


 そうなんですね。とだけランタオは言った。ランタオは人を選んで物を話す。レオナの生い立ちは壮絶そうだが本人は何とも思っていないことを勘づいたのだ。


 ランタオは初めて歩く道だった。初めて歩いた道故の警戒心からか、不審な気配を感じていた。だがレオナは特に何も言わずに歩いている。気のせいだと、そこでは思うようにした。


 だが歩くたびに、周囲で草が掠れる音がする。


「レオナさん、何か聞こえませんか」


 レオナはランタオの方を振り向きもしなかった。


「ああ、聞こえるな。それがなんだ」

「危ない気がして」

「どうせ村の連中だろう。安心しろ、何かあったら仕留めるだけだ」


 それでもランタオの警戒は解けなかった。ランタオは向こうに気づかれないように息を止めて音のする方に耳を澄ませて歩いた。段々と距離が狭まってくる。ランタオは振り向いた。


 黄色い尖った目。正確には目に見える何かがランタオを見ていた。


「誰だ、そこにいるものは。小賢しい真似を」


 レオナが間髪入れずに声を発する。その黄色い目は怪しい光を帯びた。細い声が二人の耳に入る。


「どなたかと思えば、”神に譲られし石の守護者”じゃないですか」

「私を知っているのか」


 レオナは驚いて足を一歩後ろに引く。嫌にねっとりとした笑い方で細い声が言う。


「知ってるも何も、私は石の守り族の長老ですよ」


 細い声が身動きして、パサリと音がすると狐がそこには立っていた。


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