第10話 責任の所在

 アレクサンダーは、ミリスに詰め寄った。

「聖女だろう。何とかならないのか」

 ミリスは唇を尖らせて、アレクサンダーを上目遣いで見上げた。

「無理を言わないでください、殿下。御存知でしょう?結婚を認めさせるために、お金で聖女の称号を買っただけって」

 アレクサンダーは

「そうだった」

と唸った。

 結婚を認めさせるために、カミヨと同等の何かが必要だと、その誘いに乗ったのだ。ミリスに聖女の力なんてない事は承知している。

 そもそも、聖女というのが何かもわからない。

「じゃあ、教会で何とかしろ。そのための国教だし、そのために便宜も図って来ただろう?」

 アレクサンダーに言われ、大司教は冷や汗を拭った。

「そう言われましても……天候はどうしようもないでしょうに」

「護符をありったけ積んだらどうだ。願いが叶うんだろう?」

 大司教は言葉に詰まる。

 今更金儲けのインチキ、ただの紙切れですとも言えない。

 ミリスはアレクサンダーに訊いた。

「こういう時、これまでどうしていたんですの?」

 アレクサンダーは苦虫をかみつぶしたような顔で答える。

「カミヨが城の奥の斎場で、父上と母上だけを同席させて、何か神事をしていた。

 皇帝とその妃だけが臨席できるそうで、見た事は無いから知らん」

 ミリスと大司教は考えた。

「それらしく祈りを聖女が捧げて、待てばどうです?いくら何でもそろそろ雨だって止むでしょう」

「そうね。卒業式以来雨だものね」

 ミリスが窓の外を憂鬱そうな顔付きで眺め、それにつられてアレクサンダーと大司教も窓の外を見た。

 チラリと、

(卒業式の翌日に父上と母上の馬車も事故に遭うし、神が怒っているのでは)

とアレクサンダーは考え、その考えを急いで否定した。

 その時、慌ただしくアレクサンダーの側近が現れた。

「大変です。城下で暴動が起こりました」

 それに、アレクサンダーもミリスも大司教も顔色を無くして反射的に立ち上がった。

「何!?」

「護符が効かないと教会に詰めかける者もいますし、もっと護符を寄こせ、或いは免罪符を寄こせと教会から力づくで持ち出す者もいます。それから、免罪符があるのだからと、商店を襲う者もいますし、その……城の前で貴族や殿下へ不満を叫ぶ者もおります」

 ミリスはそれに対して怒ったが、アレクサンダーと大司教は、

(まずい)

と真っ青になった。

「緊急事態だ。商店に食べ物を出させろ」

「間に合いませんし、品物がありません」

「で、殿下。これは、あれです。カミヨ家が呪っているんです!」

 大司教が裏返った声をあげた。

 一瞬

「は?」

とアレクサンダーも側近も呆けたが、アレクサンダーは考えた。

「待てよ。そうか。そうだな。カミヨ家がインチキを暴かれたのを逆恨みして呪ったのだな!よし!

 カミヨ家の者を捕えろ!捕まえて来た者には報奨金を支払おう!その後公開処刑だ!」

(これでしばらく時間が稼げるぞ!処刑も1人ずつ日を置いて行えば、その間に雨も上がるに違いない)

 アレクサンダーはその考えを自画自賛し、側近にニヤリとした。

 側近はしばし迷ってから、忠実に命令に従うべく、部屋を出て行った。






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