第3話 図書館のニアミス

 カミヨ家は、国の祭祀を執り行ったりするほか、一般国民向けには、祈祷を行ったりお守りを作って販売したりしていりる。ライラとイミアもその補助や雑用をするが、イミアはまだ学校へ通う身であり、卒業まで1か月ほど残っていた。

 とは言え、単位も取り終えたイミアには登校の義務はない。なので思う存分図書館に入り浸る毎日だった。

 今日もイミアは、図書館で調べものをしていた。

 街から街、国から国へと移動するのも、この世界では時間もかかるし、命がけだ。小さな町から医者にかかるために街へ行こうにも、間に合わない事も多い。なのでイミアは、早く安全に移動する方法はないか、それを模索し続けているのだ。

 凝った肩と首をほぐすようにコキコキと鳴らし、軽く嘆息した。

(どうも、取り寄せないとないみたいね。科学といえば隣のカレンドルが力を入れてるから、カレンドルにはそういう本もたくさんありそうだし。

 輸入は、高いからうちには無理だしなあ。いっそ、カレンドルに卒業後は行く?殿下は好きにしていいって言ったし)

 本気で検討しながら、その本を閉じようとした時、やたらと香水のきつい匂いがして振り返った。

「ああら。誰かと思えばイミア・カミヨ様。相変わらず辛気臭い本をお読みなっているのね。流石は地味姫」

 ミリス・ハイデルとその取り巻きがイミアの背後に立っていた。

 学校へ来ているとは思えないほどにクルクルと巻かれたゴージャスな髪、はっきりくっきりとした化粧、服装は制服なのでその代わりなのか装飾品をこれでもかと付け、各々別の香水を付けているので頭が痛くなりそうだ。

 そしてイミアにとってはお馴染みの、バカにするような、蔑んだ目をしていた。

 確かにミリスの家は侯爵家で、取り巻きは下っ端でも伯爵家だ。一方イミアのカミヨ家は特殊で、爵位はない。「カミヨ」というのが爵位に代わる。

「誰かって……わかって来たんでしょうに……」

 鼻で呼吸をしないようにしながらイミアは呟いた。

「何か言いまして?」

「いえ、別に。おはようございます」

「ふん。地味だからそれをカバーしようと、頭のいいふりをなさっているのね?小賢しい」

 ミリスが鼻を鳴らして嗤うと、取り巻きがここぞと続く。

「まあ、無駄な事を」

「そうですわ。わかりもしないのは明らかですのに恥ずかしい事」

「そうよ。爵位も無いくせに」

 大きな声でオホホと笑う彼女らに、イミアはもう慣れているのでどうという事は無い。ただ、

「図書館ですのでお静かに」

と言う。

 周囲にいた学生たちは、ミリス達に関わってはいけないと遠巻きにしているが、「迷惑だ」と顔に描いてある。

「失礼ですわあ!ミリス様に向かって!」

「何様のつもりですの!?」

「何を言うの、恐ろしい!」

 彼女らはますます大声で騒ぎ立て、芝居がかった仕草で震えて見せる。

「いえ、図書館では静かにするのが常識ですよね」

 イミアは司書に目をやったが、目が合うのを恐れたのか、司書はそっぽを向いた。

(あ、逃げた)

「覚えていらっしゃい!」

 彼女達はそう言うと、踵を返して騒がしく出て行った。

「何がしたかったのか……」

 ぼそりと呟くイミアと周囲の学生たちは安堵の息をもらし、数人は鼻を抑えて換気のために窓を開けに行った。


 ミリス達は図書館から離れると、フフフと含み笑いをもらした。

「まずはひとつですわ」

「あともういくつか」

「はい、ミリス様」

 ミリス達はいそいそと、その場を去って行った。



 



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