第2話 地味で変わり者の姫

 イミアとアレクサンダーは婚約をかわしたが、誰がどう見ても、愛し合っているとは思えなかった。

 アレクサンダーは皇帝の一人息子で、身につける物全てが贅を凝らした一級品だった。それが似合う、美男子でもある。

 対するイミアは、上品ではあるが質素で、不細工ではないが絶世の美女とは言えない。

 そんな似た所の無い2人は、目も合わさなければ手をつなぐ事も無いし、言葉をかわす事も無い。関心すらないように見える。

 いや、その日初めてアレクサンダーがイミアに言った。

「これで私が皇太子か。

 おい。お前との婚約はしかたがないからしてやる。でも、私にはもっと美しい愛する女がいる。お前は邪魔をするな。形だけ婚約者であり、妻であれば、後は好きな事を勝手にしていろ。私の視界に入らなければなおいい」

 イミアは初めて、嬉し気に唇を吊り上げた。

「はい」

 それでお互いに反対を向いて歩き出した。


 ルイスは婚約証書にサインして馬車で家へ帰り、無事に済んだとライラに報告した。

「今日から離宮で暮らすのね」

「ああ。大丈夫かなぁ」

 揃って溜め息をついていると、イミアが戻って来た。

「え?何で?」

「ただいま。いやあ、殿下が、好きな人がいるし、形だけのものだから視界に入るな、邪魔するな。そうすれば好きにしていいって言ったから」

 ルイスもライラも、そう言うアレクサンダーもアレクサンダーだが、それで家に戻って来るイミアもイミアだと思った。

「案外、似た者同士かしら?」

 2人は呆然と呟いた。

 イミアの方は、これはこれで楽でいいと思ったが、面白いわけではない。こんな人を馬鹿にした話もないと思う。

 しかし、本当にこれでいいのかと確認したら「くどい」とうるさがられたので帰って来たのだが、本当にいいのだろうか。

「まあ、向こうがいいって言うんだし、その結果がどうなろうと私は知らない」

 イミアはゴミクズを見るような目を向けて来たアレクサンダーを思い出し、それを脳裏から追い出した。


 用意されていた離宮では、アレクサンダーとミリスがくつろいでいた。

「ここを使っていいの?」

 カミヨの娘のための離宮だ。建物も調度品も一級品だった。

「勿論だよ。あんな地味女にこれが似合うわけもないだろう?」

「嬉しい!」

 2人はソファでイチャイチャとし始めた。


  


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る