6

冒険者への荷運びの依頼は、サンレザー号が一番乗りだった。様子を見た他の船乗りたちも続々と依頼を出し、半日後にはユルヴの冒険者全員が駆り出される事態となった。様子を見かねた陸運業者たちが、市内の荷運びは引き受けると言い出して少々揉めたが、冒険者ギルドが荷運びを陸運ギルドに委託し、さらにその一部を冒険者ギルドが請け負うという、少々歪な状態で決着がついた。

「あなた方は、どこに行くんです?」新米と思しき冒険者のひとりが船長に聞いた。

「これだけ船が集まっていると行先は取り合いになるからな。中でも経験の長い我々は、難しい航路を選ぶつもりだ。」船長は答えた。

「具体的に決めるのは、もう少し積み荷や乗客が集まってからになる。行きたい場所があるなら、海運ギルドに伝えておくとスムーズだ。」と副長。

「そうですか。ではそこに行ってきます。」彼女は礼を述べると、足早に去って行った。

「さて……」副長が言う。「"例の貨物船"の航路を逆にたどることになるかな。誰も向こうへは行きたがらんだろう。」


四日後、副長は自分の予想が正しかったことを確信し、そしてため息をついた。冒険者たちは、貨物船がやって来た方角にあるかもしれない古代遺跡を攻略しようとサンレザー号に集まったのだ。もちろん、貨物船の航跡の方角から経由地──キレ市という場所だった──を割り出しただけで、古代遺跡に直行できるわけではない。だが古代遺跡に行けるかもしれないと聞いたウィントは、口では危ないと言いつつも内心では興奮を抑えきれずにいた。ちなみに、船尾に引っかかっていた遺物は荷物を積み込む際に邪魔になったので、冒険者の一人が取り除いて海へ投げ捨ててしまったらしい。


ユルヴ市を発ったサンレザー号は、いつもよりずっとにぎやかだった。再び船上生活が始まり、最初の数日は何事もなく過ぎていった。冒険者の中には、船酔いに悩まされる者もいたものの、それ以外の問題は特に起こらなかった。しかし、出港から十日ほど経ったころ、冒険者の間でちょっとした噂が囁かれるようになった。海の方へ耳を傾けると、奇妙な音が聞こえるのだという。それは人の悲鳴のような甲高い音が断続的に響き渡るというもので、冒険者の間では幽霊だとか、呪いだとかという噂でもちきりだった。そんなある日、突然の嵐に見舞われ、サンレザー号は揺れに揺れた。激しい波風なみかぜに晒されながらも何とか耐え忍んでいると、急に船体が右を向き始めた。総舵手は舵を取り戻そうと躍起になったが、為すすべがなかった。

そんな折、ひとりの船員が叫んだ。「右のパドルが外れてるぞ!」

見れば、輪の形をしていなければならないはずのパドルウィールは、一直線になって転輪から離れようとしていた。打ち付ける波の衝撃に耐えかねて千切れてしまったのだろう。

「機関停止!航陸術式もだ!」

航海の続行が不可能だと判断した船長が、そう叫んだ。すぐさま主機関が停止され、それから航陸術式が無効化された。術式が停止されたことで、船底で液体のように振舞っていた砂地は徐々に固さを取り戻していった。その日は脱落したパドルウィールを掘り出すこともできず、ただ嵐が過ぎ去るのを待つしかなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る