5
船の半分を吹き飛ばした超魔術以降、貨物船は鳴りを潜めていたが、誰一人近づこうとはしなかった。ついでにサンレザー号の船尾甲板、漂着した遺物が放置されている場所にも、人が寄り付かなくなっていた。
「陸運業者どころじゃなくなったな。」誰かが言った。「さっきの貨物船の乗員は、無事なんだろうか?」とウィント。
「知ったこっちゃない。」ローダーは首を振った。「あんなものを運んでいたんだ。何かしらウラがあるに決まってる。」当初の予定通り、ウィント、ローダー、それとセウを含む数名はユルヴ市へ向かう橋を渡っていた──橋の手前側にあった仮設市場は、騒ぎのせいでもぬけの殻になっていた──が、彼らはまだあの貨物船について考えていた。「あれだけの威力だ……きっと、相当な魔術師が絡んでいるに違いない。」ローダーが言った。「俺たちが考えているよりもずっと厄介な事件かもしれないぞ。」
「ああ。」ウィントは言った。「でも一体、どうやったんだろう。魔術式だけであの威力を出す方法なんて、聞いたことないよ。」専門家でもない彼らがいくら議論しようと、その答えが出ることはなかった──分かるのはただ、"不可解なことが起きている"ということだけだ。一刻も早くユルヴを離れたいという面持ちで、彼らは一直線に陸運
「副長に
「誰か、文を書ける奴はいるか?」提案した船員が聞いた。ウィントは少し迷ったが、他に誰も名乗り出なかったので手を挙げるしかなかった。
ウィントは飛信紙を広げ、当たり障りのない現状報告と指示を待つ旨を伝える文を書き綴ると、紙をまた二つ折りに戻した。それから、紙の裏面に印刷された魔法陣の空欄部分に、副長宛てのスタンプを押して……空に投げた。手紙はひとりでに風に乗り、橋の方へと消えていった。
飛信紙と飛手紙の技術は、現代の人々が使えるように、彼らが古代遺物から復元したものの一つだ。個人を指定するためのアドレスが埋め込まれたスタンプと、各地に配置された位置確認用のノード、それから受取人が身に着けるノードによって自動で手紙が届く……と、推測されている。
「これで大丈夫かな?」ウィントが言った。
「まあ、大丈夫だろう。」他の船員が答える。「それより、この後はどうするんだ?予定では陸運業者を案内しつつ船に戻るつもりだったけど……」
「うん……」ウィントは答えようとしたが、言葉が出てこなかった。
「どのみち、船には戻らなきゃならないんだ。」ローダーが言う。それからセウが提案した。「指示が返ってくるまで、冒険者ギルドにでも行ってみようか?面白い話が聞けるかもしれないよ。」
皆が同意して、全会一致でその場所へと向かうことになった。
「ここがそうなのか?」ローダーが言う。
「そうらしい。」ウイントが答えた。
そこは、ユルヴ市の東の端にある建物だった。どこにでもあるハーフティンバー造のそれに、『未開領域探査者組合』と書かれた看板が掲げられた、簡素なものだ。ウィントたちがギルドホールに立ち入ることはできないが、たいていの冒険者ギルドと同じように酒場が隣接され、そちらは誰にでも門戸を開いている。冒険者ギルドは名前もさることながら、他の
中に入ると、大勢の人がいて、それぞれ酒や食事を楽しんだり談笑したりしていた。何人かは革鎧や金属板などの装備に身を包み、武器を携えている。
「……随分と物騒なところだ。」ウィントが言った。
「鎧を着てるのは冒険者だと思う。」セウが言った。「傭兵とか探索者も中にはいると思うけど、兼業者がほとんどじゃないかな。」
「へえ……詳しいな。」ローダーが感心した。
「昔、いろいろ調べていた時期があったんだ。」セウは恥ずかしげに言う。
それから、二十分程かけてギルドを回り、いろいろな話を聞いた。件の貨物船のことを聞くと、手魔術師と呼ばれる、小規模な魔術を専門にする冒険者のひとりが興味深そうに話しかけてきた。
「それなら、俺たちも聞いたことがあるよ。」
「本当ですか!」ウィントが身を乗り出す。
「ああ。何でも、東の方で戦前のかなり古い遺跡が見つかったそうだ。それで、最近になってそこの調査に行った船が戻ってこないって話さ。」
「その船の名前は?」とローダー。
「知らん。」
「何隻くらいの船でしたか?」ウィントが聞く。
「俺の知る限りじゃ、一隻だけだ。もっとも、大きさまでは分からんがな。」「その船は、何か荷物を積んでいませんでしたか?」セウが質問を続ける。
「さあ……積み荷については俺も知りたいよ。」
「……積荷が問題なんだよな。」ウィントがつぶやく。「きっと、ただの遺跡調査じゃなかったんだ。」
「って、あれには関わらない方がいいって結論を出したじゃないか。こんなことを聞くために来たのか?」ローダーがふと思い出したように言う。
そのとき、ウィントのもとに封をされた飛手紙が飛んできた。
「副長からだ。」ウィントは急いで封を切り、中身を取り出した。「……『冒険者に頼んでみたらどうだ。』だって。」
「ちょうど良かったじゃん。」セウが嬉しそうに言った。
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