第6話新人研修

今日は侍女のお仕事はお休みですが、ゴリさんから召集がありました。


──これは、ゆっくりは出来そうにありませんね。


「おはようございます。マリー到着致しました」


「おお、マリー待ってたぞ!!」


いつものように、地下の扉を開けるとゴリさんと便利屋の仲間みなさんが待っておりました。


「皆さんお揃いで、どうしたんです?」


「ああ、今日は新人を紹介しようと思ってな」


ゴリさんが「おいっ」と呼ぶと、一人の男性がやって参りました。


──おや?どこかで見たような顔ですが……


「マリーは知っていると思うが、こいつはジェム・ブラッド。例の幽霊騒ぎの犯人だった奴だ」


あの時のご子息の方でしたか。

髪が短くなり、服装もちゃんとしていていたので誰だか分かりませんでした。


「おいおい、勘弁してくれよ。そいつが仲間か?」


そう言うのは、幽霊騒ぎで腰を抜かしたルイスさんです。

醜態を晒しているので、ジェムさんを見ると思い出すのでしょう。


「あら、私はいいと思うわよ。中々の美男子だし」


獲物を見るようにジェムさんを見つめるのは、お色気担当のシモーネさん。


「……………」


この無口な方はヤンさん。

ゴリさんに負けず劣らず怖い顔をしていますが、ゴリさんより数百倍優しい方です。


「……僕はどっちでもいいけど?マリーはどうなの?」


最後はティルさんです。

見た目は子供の様ですが、ちゃんと成人を迎えております。

因みに、「子供みたい」はティルさんの地雷です。


「私は邪魔にさえならなければ、どちらでも構いません」


足でまといは要りません。


「皆の意見は分かった。こいつは、親を殺した犯人を探しているらしい。それなら、ここで働いた方が情報は入りやすいと思ってな」


確かに、ここなら国に関わる様々な情報も入ってきますからね。


「──そこでだ、新人研修をしようと思う」


そうですね。私の時もありました。

私の時は、竜の鱗を取って来いでしたね。

鱗を剥ぐのは可哀想なので、竜をそのまま捕らえてきたらゴリさんに大目玉を喰らいました。


「……ジェムには、大蜘蛛の脚を取ってきてもらう」


「えっ!?大蜘蛛!?」


大蜘蛛と聞いて、ジェムさんの顔が青くなってます。

まあ、私の時より優しい研修内容ですね。


「安心しろ、研修と言ったろ?一人では行かせん」


するとゴリさんが、無言で私達を見渡しました。


──これは、誰が一緒に行くか選出してますね。


「俺はヤダね!!」


「私も嫌よ~。蜘蛛嫌いだもの」


ルイスさんとシモーネさんは抜けました。


「僕もパス」


「……………」


ティルさんも抜けました。

……ヤンさんは相変わらず喋りません。


「私も城の仕事がありますので……」


「──おかしいな。マリーは今日休みのはずだろ?」


……誰ですか?このゴリラに私の休みを喋ったのは。


「よしっ!マリーとヤン!!お前らが同伴だ」


「……休日手当出ます?」


「お前、ちゃっかりしてんなぁ」


当たり前です。折角の休みを棒にするんですよ?

それが嫌なら他を当たって下さい。


「はぁ~、分かった。手当付ける」


交渉成立ですね。


「じゃあ、ジェムさん。参りますよ」


「……本当に行くのか?」


「当たり前です。就職の為です!!頑張りましょう」


ブラッド侯爵家の事はお忘れなさい。

これはジェムさんの為です。


元とは言え、侯爵家の人間は就職するには大変です。

庶民の方の中には貴族を嫌う方が多くいます。

私も苦労しました。


ですから、どんなに蜘蛛が嫌いでも行かなければなりません。

今後の生活の為に……

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