第5話侍女の仕事

「マリー!!!」


「……何ですか?」


籠いっぱいの洗濯物を抱えながら城の廊下を歩いていると、侍女頭のテレザ様に呼び止められました。


「申し訳ないんだけど、今すぐ殿下の元へ行ってくれる?その洗濯物は私が他に頼んでおくから──」


「嫌です」


あの殿下の元に行くぐらいなら、一生洗濯物を洗っています。


「もぉ、何でそんなに殿下を嫌うのかしら。お優しくて素敵じゃない」


「では、テレザ様が行けばよろしいかと……」


そんなにあの殿下の事がお気に入りなら、お譲りしますので、どうぞ行ってやってください。


「私は今から王妃様の所へ行かなきゃ行けないのよ。とりあえず、マリー頼んだわよ!!」


それだけ言うと、私の持っていた洗濯物を奪い、走り去っていきました。


──仕方ありません。行きますか。


殿下は執務室にいるはずです。


コンコン


「──失礼します。殿下、お呼びでしょうか?」


「あら、マリアンネが来たの?嬉しいわぁ」


執務室を開けると、机の上には書類の山。

その山で殿下の顔すら見えません。


「急ぎの用があると聞き参ったのですが、ご用は何でしょうか?」


さっさと終わらせて、他の仕事に回りたいです。


「見ての通り、書類が山積みになって手も足も出ないのよ~。助けて?」


「……それは、私の仕事ではありません。殿下の自業自得です。これに懲りたらサボらず、一日中机に張り付いていて下さい」


私の仕事は雑用のみ。書類整理は契約に入っていません。


「そんな事言わないで、助けてよ~。……手当付けるわよ?しかも、通常の倍で……」


「やりましょう!!」


お給金を頂けるなら、話は別です。


「あはははは!!やっぱりマリアンネは面白いわぁ!!」


「……笑ってる暇があるなら手と頭を動かしてください」


……とは言え、この山は果てしないですね。

次からはこんなことが無いように、監視役を付けてもらうよう宰相様に頼んでおきましょう。


「……頼んでおいてなんだけど、マリアンネ。それ、ちゃんと確認してる?」


「ええ、こちらが今期財政に関する書類。こちらは近隣住民の嘆願書。こちらが──」


私は脳筋じゃありません。

こう見えて、書類整理もお手の物なんです。


「マリアンネ。貴方素晴らしいわ!!是非、私の専属侍女、いえ、秘書官に──」


「お断りします」


何故、殿下の秘書官に抜擢されなきゃいけないんですか。

そりゃ、秘書官になればお給金がグンと上がります。そこは魅力的ですが、この殿下と一緒というのは私には耐えられません。


「マリアンネはなんで私をそんなに避けるの?そんなに嫌い?この口調?」


何故、口調が嫌われる原因だと決めつけるんですかね?


「その喋り方のせいではありませんよ」


「じゃあ何が原因なの?」


貴方のその粘着質な所です。


「……別に、嫌ってなどおりませんよ。まあ、強いて言うなら殿下に会うのは週に一度、短時間程度が丁度いいですね」


「それ、嫌ってないって言いきれる?」


毎日こんなの相手してたら仕事になりません。


「さて、私のノルマは完了致しました。残りは殿下お願いしします」


「えっ!?もう!?」


机の上の書類は全て確認し、分別しておきました。

ここからは、殿下の仕事です。


「では、お給金のお支払い宜しくお願いします」


「そうね。約束ですもの。──はい。これで足りる?」


ずっしり重い袋を渡されました。

充分な重さです。


「それでは、頂くもの頂きましたので、私は失礼します」


深々頭を下げてから執務室を後にしました。

出ていく時に「また手伝ってねぇ~」と聞こえたような気がしますが、きっと空耳でしょう。



本日のお給金……殿下の書類整理20000ピール(手当込み)


借金返済まで残り5億7千997万2100ピール

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