第七話:機械VS幻想獣➁

「スタートフェイズ。ドローフェイズ!」


 ツルギ:手札1枚→2枚


 ドローしたカードを確認する。

 よし、これなら。


「メインフェイズ。俺は〈コボルト・ウォリアー〉を召喚!」


 狼のような頭を持つ、モフモフコボルトの剣士が召喚された。


 〈コボルト・ウォリアー〉P3000 ヒット2


「そんでこれが本命。魔法カード〈逆転の一手!〉を発動!」


 前のターンからずっと握っていたとっておきだ。


「このカードは自分のライフが4以下の時にのみ発動できる。その効果で、俺は手札が3枚になるようにドローする!」

「お前、まさかそのカードの為に〈メカゴブリン〉を利用したのか!?」

「そういうこと。ライフ調節にご協力ありがとうございます」


 自分のプレイが利用されたと気づいて、財前ざいぜんは顔を茹で蛸みたいにする。


 ツルギ;手札0枚→3枚


「おっ、いいカードがきた。俺は〈コボルト・ウィザード〉を召喚」


 今度は三角帽子を被った、モフモフのコボルト魔法使いが召喚された。


 〈コボルト・ウィザード〉P2000 ヒット1


「〈コボルト・ウィザード〉の召喚時効果を発動! デッキからカードを1枚ドローする」


 ツルギ;手札2枚→3枚


 よし、欲しかったカードが手札にきた。

 そのカードが手札にきた瞬間、仮想モニターにルール説明が表示される。


『進化モンスターは、条件に合ったモンスターを素材にして召喚するカードです。素材になったモンスターは墓地へは行かず、進化元となります。使いますか?』

「当然使うさ! 俺は場のパワー3000以下のモンスター〈コボルト・ウィザード〉を素材にして、〈ファブニール〉を進化召喚!」


 〈コボルト・ウィザード〉の足元に巨大な魔法陣が現れ、〈コボルト・ウィザード〉を呑み込む。

 強く光輝く魔法陣から、今度は黒く巨大な竜が姿を現した。


 〈ファブニール〉P10000 ヒット?


「ヒット数が決まっていないだと?」

「こうやって決めるのさ。〈ファブニール〉の召喚時効果発動! 相手モンスター1体を破壊する。〈ダブルランサーロボ〉を破壊だ!」


 〈ファブニール〉は口から炎のブレスを吐き、〈ダブルランサーロボ〉を破壊した。

 だがそれだけでは終わらない。


「〈ファブニール〉の更なる効果。このカードのヒット数は、破壊したモンスターのヒット数と同じになる」


 〈ダブルランサーロボ〉のヒット数は2。よって〈ファブニール〉のヒット数は。


 〈ファブニール〉ヒット?→2


「これで今度はそっちのフィールドががら空きだな。アタックフェイズ! 〈コボルト・ウォリアー〉で攻撃だ!」


 剣を抜き、〈コボルト・ウォリアー〉財前に向かって駆け出す。


「攻撃時に〈コボルト・ウォリアー〉の効果発動! このカードのパワーは、俺の墓地に眠る系統 :〈幻想獣〉を持つモンスターの数だけ+1000される」


 墓地にあるモンスターは3枚の〈トリオ・スライム〉。

 全て系統は〈幻想獣〉だ。


 〈コボルト・ウォリアー〉P3000→6000


 パワーアップする〈コボルト・ウォリアー〉。

 まぁ直接攻撃の今は、あまり意味のない効果だけど。

 〈コボルト・ウォリアー〉は勢いよく財前に剣を振り下ろそうとする。

 しかし……


「魔法カード発動 〈シェルターウォール〉」


 突如現れた防壁によって、攻撃を跳ね返されてしまった。

 〈シェルターウォール〉、機械デッキ専用の防御魔法。

 その効果は二つあり、一つはこのターン受ける全てのダメージを1点減らすこと。

 もう一つは


「君達のくだらない攻撃には付き合ってられない。〈シェルターウォール〉の効果で、君のアタックフェイズを強制終了させるよ」


 これでもう攻撃は出来なくなった。


「……ターンエンド」


 ツルギ:ライフ4 手札2枚

 場:〈コボルト・ウォリアー〉〈ファブニール〉


「僕のターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ」


 財前:手札2枚→3枚


「メインフェイズ。僕は2枚目の〈ディフェンダー・マンモス〉を召喚」


 再び巨大な機械マンモスが降臨する。


「召喚コストでデッキを8枚除外……さらに僕は2枚目の〈ダブルランサーロボ〉を召喚!」


 2回攻撃を付与する強力レアカードが再び召喚される。

 それが出た瞬間、後ろのギャラリーも悲鳴に近い声を上げた。


「そして機械モンスターが2体になった事で、魔法カード〈オイルチャージ〉を発動する」

「そっちも2枚目かよ」

「デッキから2枚ドローだ」


 財前:手札1枚→3枚


 財前の手札が増える。だけど同時に、俺はある事に気がついた。


「【オーバーロード】を使わない?」


 【オーバーロード】は召喚時に発動する能力だ。

 パワーが倍化していない〈ダブルランサーロボ〉は2回攻撃ができない筈。

 いやまて、考えるんだ。

 この状況で【オーバーロード】を使わない理由。

 ただのうっかりなんて考えられない。しかも相手はレアカードを大量に使うファイター。

 だとすればこの後奴が使うのは、【オーバーロード】をサポートするあのカードか!?


「さぁ、そろそろ終わらせようか」

「来るかッ!?」

「僕はパワー10000以上のモンスター〈ディフェンダー・マンモス〉を素材にして、〈【重装将軍じゅうそうしょうぐん】アヴァランチ〉を進化召喚!」


 〈ディフェンダー・マンモス〉が魔法陣に吞み込まれ、大地が割れる。

 割れた大地からは、巨大な人型ロボットが姿を現した。

 【重装将軍】その名に恥じない重装備のロボットにして、【オーバーロード】デッキの切り札。


 〈【重装将軍】アヴァランチ〉P15000 ヒット4


 出たなSRカード。またの名を二つ名持ち。


「見たか! これが僕の切り札にして、二つ名持ちのSRカード〈【重装将軍】アヴァランチ〉だ!」

「はは、ちょっと不味いかも」


 パワーは15000という並のモンスターなら戦闘で勝てない数値。

 更にヒット数も4と大きい。

 分かりやすく強力なステータスを見て、後ろのギャラリーたちは完全に戦意喪失状態になっていた。


「パワー……15000」

「なによアレ、あんなの勝てるわけないじゃん」

「ここまでか」


 いや皆さん、驚くのは分かるけど、せめて俺の勝利は信じてよ。

 あっ、俺初心者だと思われてるんだった。


「どうだ初心者君。今なら君の投了を認めてやってもいいぞ?」

「バーカ。するわけないだろ」

「なに?」

「まだ俺のライフは残ってる。ライフが残ってたら、まだゲームは続いているんだ」

「そうかそうか……君はそんなに死にたいんだね」


 思うようにいかなかったからか、財前は俺をキッと睨みつける。


「ならお望み通り、グチャグチャにしてあげるよ! 2体目の〈メカゴブリン〉を召喚!」


 あの厄介なゴブリンが再びフィールドに召喚される。


「アタックフェイズ! 〈【重装将軍】アヴァランチ〉の効果発動!」

「来るか!」

「手札を1枚捨てる事で、僕の場の機械モンスターを全て【オーバーロード】状態にする!」


 要するに手札1枚で3枚分のコスト支払い。

 よくよく考えたら強烈なことしてるな、アヴァランチ。


 財前:手札1枚→0枚

 〈メカゴブリン〉P6000→12000 ヒット1→2

 〈ダブルランサーロボ〉P6500→13000 ヒット2→4

 〈【重装将軍】アヴァランチ〉P15000→30000 ヒット4→8


 ヒット数8の大型モンスター。最早初期ライフが10点だという事を忘れてそうな、数字の暴力。

 東校側のギャラリーはそれを見て歓声を上げ、西校の方は完全に言葉をうしなっていた。


 だがその中、俺はある事を見逃さなかった。

 財前が捨てた最後の手札。それが〈シェルターウォール〉であった事を。


「蹂躙開始だぁ! まずは〈メカゴブリン〉で攻撃!」

「〈ファブニール〉でブロック!」


 パワーは12000対10000。ファブニールの負けだ。

 だがそれでは終わらない。


「〈ファブニール〉の【ライフガード】を発動! 〈ファブニール〉は破壊されても、一度だけ回復状態で戻る!」

「だけど破壊の判定は下る。2点のダメージを喰らえ!」


 ゴブリンの投げた爆弾が、俺に直撃する。


 ツルギ:ライフ4→2


「〈ダブルランサーロボ〉の効果で、全員2回攻撃持ちだ! もう一度 〈メカゴブリン〉で攻撃!」

「それも〈ファブニール〉でブロック!」

「効果ダメージでお前はお終いだ!」

「それはゴブリンに破壊されたらだ。ブロック宣言後に魔法カード〈ギャンビットドロー〉を発動!」


 ゴブリンに攻撃されるよりも早く、〈ファブニール〉は爆散した。


「〈ギャンビットドロー〉は自分のモンスター1体を破壊して、カードを2枚ドローする魔法だ。更にブロック宣言には成功しているから、〈メカゴブリン〉の攻撃はもう俺には届かない」

「ど、どういう事だ。何が起きたんだ!?」

「サクリファイスエスケープを見るのは初めてだったか?」

「サ、サクリファイスエスケープだと!?」


 ツルギ:手札1枚→3枚


 周りのギャラリーがざわつき始めている。

 聞き耳を立てると、どうやらこの世界ではサクリファイスエスケープは高等テクニックという扱いらしい。

 そこまでの事かな?


「お、お前。本当に初心者なのか!」

「召喚器を使うのは初めてだけど、サモンは十年近くやってるよ」

「ふざけるな。認めてたまるか……こんな、こんな雑魚にィィィ!」


 財前が何か叫んでいるがよく分からない。

 だが何かしらのプライドを刺激したという事だけは分かった。


「潰せェ! 〈ダブルランサーロボ〉!」


 攻撃宣言された〈ダブルランサーロボ〉がこちらに襲い掛かってくる。

 だが通すわけにはいかない!


「魔法カード〈リブート!〉を発動! 〈コボルト・ウォリアー〉を回復状態にする」


 これでブロックが可能になった。


「〈コボルト・ウォリアー〉でブロック! 更に魔法カード発動!」

「まだ抵抗するのか!」

「するに決まってるだろ。魔法カード〈トリックボックス〉発動! その効果でデッキからカードを1枚ドローして、〈コボルト・ウォリアー〉を手札に戻す!」


 ツルギ:手札1枚→3枚 (内1枚 〈コボルト・ウォリアー〉)


「更にその後、戻したモンスターとはカード名が異なるモンスターを手札から召喚する!」


 〈トリックボックス〉の最初のドローで最高のカードが来た。


「そっちが二つ名持ちでくるってんなら、俺も二つ名持ちで対抗する!」

「何!? お前も二つ名持ちのカードを!?」

「さぁ来い、俺の相棒!」


 仮想モニターに、デッキのエースカードを投げ込む。


「奇跡を起こすは紅き宝玉。一緒に戦おうぜ、俺の相棒! 〈【紅玉獣こうぎょくじゅう】カーバンクル〉を召喚!」


 フィールドに巨大なルビーが出現する。

 そのルビーが砕け、中から緑色の体毛をした、小さなウサギ型モンスターが召喚された。


『キュップイ!』


 〈【紅玉獣】カーバンクル〉P500 ヒット1


「えっ?」


 財前が間抜けな声を漏らす。

 それもそうだろう。だってカーバンクルのステータスは滅茶苦茶……


「「「よ……弱い」」」


 弱いのである。


「えっ、どういうこと? あれ本当にSRカードなの?」

「パワーって1000が最低じゃなかったのかよ」

「あのステータスでSR? 何か持っているのか?」


 多種多様なリアクションありがとうございます。

 まぁ実際戦闘には向いてないように見えるからね~。

 そんな事を考えていると、財前がプルプルと震えだした。


「お、お前……ふざけているのか」

「ふざけてないさ。コイツが俺のデッキのエース〈【紅玉獣】カーバンクル〉だ」

「そんな無意味な雑魚で僕を邪魔しやがってェェェ!」

「凄い激怒。まぁいいや。〈トリックボックス〉の効果で、カーバンクルは〈ダブルランサーロボ〉をブロックする」

「血祭りに上げろ! 〈ダブルランサーロボ〉!」


 〈ダブルランサーロボ〉とカーバンクルが対峙する。

 このまま戦闘すれば、カーバンクルが普通に負けてしまう。

 だが当然、そんな事はさせない。


「バトル開始時に魔法カード〈バックキャンセル〉を発動!」

「〈バックキャンセル〉?」

「ライフを1点払うことで、このターンの間、フィールドから俺の手札に戻る系統 :〈幻想獣〉を持つモンスターは全て再召喚される」


 ツルギ:ライフ2→1


「またそんな無意味なカードをォォォ!」

「無意味かどうかは見ていればいいさ」


 パワー13000対パワー500

 当然カーバンクルが負けてしまう。

 カーバンクルは〈ダブルランサーロボ〉の槍によって、いとも容易く破壊されてしまった。


「これでお前の場はがら空きだ! いい加減沈めェェェ!」

「悪いけど、俺はまだ生き延びる」

「ブロッカーも居ないお前のフィールドで何ができるんだ! あの雑魚SRの力にでも頼るのか?」

「その通りだとしたら?」

「なんだと!?」


 その瞬間、財前も異変に気がついた。

 俺の手札が1枚増えている事に。


「〈【紅玉獣】カーバンクル〉は、フィールドで破壊されても墓地へは行かず、手札に戻る」

「手札に……戻るだと」

「そうだ。そしてカーバンクルの系統は〈幻想獣〉! 〈バックキャンセル〉の効果で再召喚だ!」


 即座にフィールドへと戻るカーバンクル。


『キュップイ!』

「クソっ! だったらアヴァランチで攻撃だ!」

「勿論カーバンクルでブロック」


 超巨大ロボが大量のミサイルを放ってくる。

 カーバンクルはそれに巻き込まれてしまうが、なんら問題はない。


「破壊されたカーバンクルは手札に戻る。そして〈バックキャンセル〉の効果が適用されて、再召喚される」


 再びフィールドに戻るカーバンクル。

 ここでようやく財前は、俺が何をしているのか悟った。


「む、無限ブロックコンボ」

「その通りだ。どうする? まだ続けるか?」


 分かりやすく歯軋りをし、俺を睨みつけてくる財前。

 そうとう癪に障ったのだろう。

 だがこちらも勝つために必死なのだ。許して欲しい。


「ターンエンドォ!」


 財前:ライフ6 手札0枚

 場:〈ダブルランサーロボ〉〈メカゴブリン〉〈【重装将軍】アヴァランチ〉


 さて、生き延びたまではいいのだけど。

 このまま防戦一方では勝てない。

 そろそろ何かアクションを起こしたいところだ。


「俺のターン。2ターン目のスタートフェイズなので〈フューチャードロー〉の効果発動! 俺はカードを2枚ドローする」


 ツルギ:手札2枚→4枚(内1枚 〈コボルト・ウォリアー〉)


「そしてドローフェイズ」


 ツルギ:手札4枚→5枚(内1枚 〈コボルト・ウォリアー〉)


 ドローしたカードは……よし。


「メインフェイズ。俺は魔法カード〈デストロイ・ポーション〉を発動。自分のデッキを上から5枚破棄して、その中にあるモンスターカード1枚につき、ライフを1点回復する」


 デッキを上から5枚掴んで、墓地に送る。

 墓地に送られたモンスターカードは〈コボルト・ウィザード〉。

 そして〈ケリュケイオン〉だった。


「よし! 2枚墓地に行ったので2点回復だ」


 ツルギ:ライフ1→3


「たかが2点の回復。僕の機械モンスターの前じゃ0に等しい」

「どうかな? ライフがある限り逆転劇はいくらでも起こる。それがサモンの面白いところだろ」

「ありえないね。君程度が操るモンスターじゃ、僕に勝てない。潔く投了したらどうなんだ」

「やだよ。だって俺――勝つもん」


 俺の勝利宣言を聞いて、周囲がざわつき始める。

 財前に至っては完全に怒り心頭といった様子だ。


「誰が、勝つって?」

「俺だよ。このターンで勝ってやる」

「妄想ばかり吐きやがって。ならやってみせろ!」

「あぁやってやるよ。必要なパーツは全て揃った」


 俺は自分の手札に視線を落とす。

 これなら確実に、このターンで勝てる。


 さぁ、派手にいこうか!


「まずは魔法カード〈エルダー・サイン〉を発動。手札を1枚捨てて、墓地のモンスター1体を復活させる」

「〈ファブニール〉でも復活させる気か?」

「違うな。俺が復活させるのはこいつだ! 来い〈ケリュケイオン〉!」


 俺の墓地から、二つの頭を持つ蛇が召喚される。


 〈ケリュケイオン〉P3000 ヒット1


「また雑魚モンスターをッ!」

「勝利に必要なピースだ。更に俺は魔法カード〈ファブニールの呪い〉を発動。このカードは、フィールドのモンスター1体を選んで破壊する」


 発動コストとして、系統: 〈幻想獣〉を持つカード〈コボルト・ウォリアー〉を手札から捨てる。


「モンスターの破壊? 僕のアヴァランチを破壊する気か!」

「悪いけど、もうお前のモンスターは眼中にないんだ」

「なに!?」

「俺が破壊するのは、俺の場の〈【紅玉獣】カーバンクル〉だ!」


 あっけなく破壊されるカーバンクル。

 そして効果で俺の手札に戻ってくる。


「な、何故自分のモンスターを!?」

「カーバンクルが手札にある必要があったんだよ」


 財前だけではなく、周りのギャラリーも意味不明といったリアクションをとっている。

 まぁだからこそ、この後のコンボが映えるんだけどな。


「さぁ仕上げに行くか! これが必殺の魔法カード! 〈召喚爆撃〉を発動!」

「な、なんだそのカードは」

「このカードは次の自分のアタックフェイズを放棄する代わりに、このターン召喚された系統 :〈幻想獣〉を持つモンスターを全て破壊し続ける」

「自分のモンスターを破壊し続けるだと!?」

「その代わり、召喚したモンスターが破壊される度に、お互いに1点のダメージを与えるんだ」


 さぁ始めよう、技のフィニッシュを。

 俺がカーバンクルを召喚しようとした次の瞬間、後方から速水はやみが叫んできた。


「ダメだ天川てんかわ! そのカードでは勝てない!」

「どうした速水?」

「〈召喚爆撃〉はお互いにダメージを受ける。カーバンクルを無限召喚したとしても、先にライフが尽きるのは天川の方だぞ!」

「あぁ、なんだそんな事か。大丈夫なんとかなるから」

「しかし」

「大丈夫だって。俺を信じてくれ」


 その言葉が届いたのか、速水はそれ以上何も言ってこなかった。

 さぁ気を取り直して、ゲーム再開だ。


「俺は〈【紅玉獣】カーバンクル〉を召喚!」


 またもフィールドに戻ってくるカーバンクル。

 しかし〈召喚爆撃〉の効果で、すぐに破壊されてしまった。


「〈召喚爆撃〉によってカーバンクルを破壊。お互いに1点のダメージを受ける」

「馬鹿が。先に倒れるのはお前の方だろ」

「……それはどうかな?」


 〈召喚爆撃〉の効果によって、お互いに小さな衝撃波が走る。


 財前:ライフ6→5

 ツルギ:ライフ3→3


「な、なんだって!?」


 仮想モニターに表示されたライフ変動を見て、財前は驚愕の表情を浮かべる。

 よく見れば、俺の周りには身を守るように薄い膜ができていた。


「お前、なんでダメージを受けてないんだ!」

「〈ケリュケイオン〉のおかげさ。コイツは魔法カードの効果で俺が受けるダメージを1点減らしてくれるんだ」


 〈召喚爆撃〉で受けるダメージは1点ずつ。俺だけちょうどプラマイゼロである。


「そして破壊されたカーバンクルは手札に戻る」

「なるほど、そうやって僕にだけ無限ダメージを与えるって訳かい。だけど残念。僕には防御魔法の〈シェルターウォール〉がある」

「へぇ……」

「こいつは僕が受けるダメージをターン中だけ1点減らしてくれるんだ。そうすれば無限ダメージも怖くない。次のターンで僕の勝ちだ!」

「じゃあ一つ質問な。お前、手札何枚ある?」

「何枚って……っ!?」


 一気に顔から余裕が消える財前。

 そう、現在の財前の手札は0枚なのだ。


「な、なんで!? 確かに手札に〈シェルターウォール〉があった筈!?」

「お前、その〈シェルターウォール〉をアヴァランチのコストで捨ててただろ?」

「ッ!? しまった」

「俺を派手に倒したかったのかは知らないけどさぁ、手札管理はもう少ししっかりした方がいいぜ」

「僕が……負ける? こんな、屑に?」


 顔を青ざめさせて絶望すり財前。

 だけど勝負はしっかりつけさせてもらう。


「さぁフィナーレだ! カーバンクルを召喚!」

「嘘だ、僕が負けるなんて……嘘だぁぁぁぁぁぁ!」


 何か叫んでいるが関係ない。

 学校の皆の為にも、ここは勝たせてもらう。


 カーバンクルを召喚、破壊、ダメージ。

 カーバンクルを召喚、破壊、ダメージ。

 カーバンクルを召喚、破壊、ダメージ。


 一切の慈悲なく、爆撃が財前のライフを刈り取っていった。


 財前:ライフ5→4→3→2→1→0


 財前のライフが0になると同時に、仮想モニターにメッセージが表示される。


 ツルギ:WIN


 どうやら無事に勝てたようだ。

 俺は一気に、肩が軽くなるのを感じた。

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