第六話:機械VS幻想獣①

 色々なものを賭けた西校と東校のサモンファイト。

 その対戦者として選ばれたのは、俺でした。


「……ちょっと胃が痛い」


 責任重大すぎて胃痛がする気がする。

 というかさっきから後ろの野次馬達がうるさい。


「なぁ、お前天川てんかわのデッキって知ってるか?」

「知らない。委員長は?」

「すまない。俺も知らないんだ」

「と言いますか、誰か天川君が戦ってるところ見た事ありますか?」

「ないな」「俺もない」「私もない」


 まぁ、言いたい事は分かる。

 俺昨日この世界に来たばっかだし、そりゃ戦闘記録なんてないよな。

 だがやる事になった以上、全力は出そう。

 というか単純にあの柄悪い奴らの奴隷になりたくない。


「よろしく頼むよ、雑魚君」

「まぁその、対戦お願いします」


 とりあえず挨拶はカードゲーマーの嗜みだ。

 対戦相手の財前ざいぜんとかいう奴は完全に俺を舐め切っているけど……まぁいいだろう。


「(絶対勝ってやる)」

「さぁ、距離を取ろうか」


 そう言って俺と財前は校庭に移動して、五メートル程距離をとる。

 召喚器を使う場合は距離をとる事。それは説明書にも書いてあった。


 準備が整うと、財前は召喚器をこちらに向けてきた。


「ターゲットロック」


 その掛け声と共に、俺と財前の召喚器が通信を始める。

 そして俺達の目の前には、立体映像で作られた仮想フィールドが出現した。


「おぉ、スゲー」


 驚くのもつかの間、個人的に嬉しい事が起きた。


『初回対戦を確認しました。チュートリアルモードを起動します』


 チュートリアルモード。なるほど、初心者に優しい仕様なんだな。

 流石はサモン至上主義世界。

 だが、チュートリアルモードの音声ガイダンスが聞こえた瞬間、周囲は阿鼻叫喚の渦に巻き込まれた。


「ギャハハハ! マジかよアイツ!」

「チュートリアルモードすらっやってないのかよ!」

「そんなもん小学生で終わらせるもんだぜ!」


「キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

「お、終わった」

「委員長、俺ジャージ用意してくる」

「すまない、俺の分も頼む」


 敵側から馬鹿にされるのはともかく、味方から完全に諦められている。

 仕方ないだろ、今日が初めてなんだから!


「ハハハ、これは勝負あったね」

「……なんでさ」

「初心者が僕に勝てるわけないだろ」


 さも当たり前かのように言う財前。

 なるほど、チュートリアルモードは初心者の証みたいなものなのか。

 だけど……


「勝ち負けなんか、やってみなくちゃ分からないだろ」

「分かるさ。西校の雑魚が僕に勝てない」

「よし分かった。絶対勝ってやる」

「……減らず口を」


 絶対にその天狗っ鼻へし折ってやる。

 俺はチュートリアルモードのガイダンスを聴きながら、そう決意した。

 対戦相手に敬意を柄得ない奴はカードゲーマーじゃありません!


 召喚器の中でオートシャッフルされたデッキから、俺は初期手札五枚を引く。

 仮想モニターには初期ライフである10の数字が表示された。

 これで準備完了。


「早々に潰してあげるよ、初心者君」

「負けても泣かないでくれよ」


 どうやら彼方も準備完了したらしい。

 双方の準備完了を確認したシステムが、今度はジャッジシステムへとアクセスする。


『公式ジャッジシステムへと繋がりました』

『対戦可能です』


 仮想モニターにそう表示される。

 さぁ、初陣だ。


「「サモンファイト! レディー、ゴー!」」


 財前:ライフ10 手札5枚

 ツルギ:ライフ10 手札5枚


 仮想モニターに先攻後攻の表示が出る。

 先攻は財前だ。


「じゃあ先攻を貰うとしよう。僕のターン! スタートフェイズ」


 財前のターンが始まる。


「メインフェイズ。〈ディフェンダー・マンモス〉を召喚!」

『バオォォォォォォン!』


 財前のフィールドに巨大な機械のマンモスが召喚される。


 〈ディフェンダー・マンモス〉P10000 ヒット0


「召喚コストとして、ボクはデッキを上から8枚除外するね」


 いきなり出て来たレアカード。

 と言ってもパワーが高いだけの大型ブロッカーなのだが。

 しかし素のパワーが高いレアカードという事実は、野次馬に大きな衝撃を与えたようだ。


「い、いきなりパワー10000だと!?」

「あんなの勝てるのかよ」

「終わった。今度こそ終わった」


 いやお前ら、あのマンモスパワーが高いだけで耐性とか何も持ってないぞ。

 そんなに驚かないでくれ。

 そして財前君よ、ドヤ顔をやめてくれ。俺が吹き出しそうになる。


「どうだ。これが財前家が誇るレアカードだ!」

「へーそうなんだー。すごいねー」

「驚いてまともに思考も出来ないか。僕はこれでターンエンド!」


 財前:ライフ10 手札4枚


 先攻1ターン目はドローと攻撃ができない。

 だから財前はそのままターンを終了した。

 さぁ、俺の番だ


「俺のターン! スタートフェイズ! ドローフェイズ!」


 腰に下げている召喚器からカードを1枚ドローする。

 これで手札は6枚だ。


「メインフェイズ!」

『メインフェイズではモンスターの召喚ができます。手札からモンスターを召喚してみましょう。ただし場に存在できるモンスターは3体までです』

「言われなくても知ってるさ。俺は〈トリオ・スライム〉を召喚!」


 召喚するモンスターカードを仮想モニターに投げ込むと、俺のフィールドに小さくて可愛いスライムが召喚された。


『スララー!』


 〈トリオ・スライム〉P1000 ヒット1


 召喚されたスライムを見た瞬間、財前は笑い声を上げ始めた。


「ハハハハハ、パワー1000だって? とんでもない雑魚モンスターじゃないか」

「勝手に言ってろ。俺は〈トリオ・スライム〉の召喚時効果発動! デッキから2体目の〈トリオ・スライム〉を手札に加える」


 デッキから自動でカードが出てくる。

 本当に科学の力ってすごい。


『モンスターの召喚は1ターンに何度でもできます』

「知ってる。俺は2体目の〈トリオ・スライム〉を召喚!」

『スララー!』


 《トリオ・スライム(B)》P1000 ヒット1


「そして2体目の〈トリオ・スライム〉の効果で、3体目の〈トリオ・スライム〉を手札に加える。そしてそのまま3体目も召喚だ!」

『スララー!』


 〈トリオ・スライム(C)〉P1000 ヒット1


「そんな雑魚を3体も並べたところで、僕の〈ディフェンダー・マンモス〉の敵じゃない」

「確かに、今のスライムは弱い。だけどこれはカードゲームだぜ」

「なに?」

「カードはモンスターだけじゃないんだよ! 俺は手札から魔法カード〈トリニティオーラ〉を発動!」

『発動タイミングが適切であれば、魔法カードはいつでも発動できます』


 俺が魔法カードを発動すると、3体の〈トリオ・スライム〉はオーラを纏い始めた。


「〈トリニティオーラ〉は、俺の場のモンスターが3体の時、そのパワーを+4000する魔法カードだ」

「だけど強化されたところで、パワーは5000。パワー10000の〈ディフェンダー・マンモス〉には敵わない」

「それはどうかな? 〈トリニティオーラ〉のもう一つの効果。それは俺の場のモンスターが全て同名カードであった場合、追加でパワーを+5000するんだ!」

「なんだって!?」


 合計9000のパワープラス。それにより貧弱だったスライム達のパワーは――


 〈トリオ・スライム(A)〉P1000→P10000

 〈トリオ・スライム(B)〉P1000→P10000

 〈トリオ・スライム(C)〉P1000→P10000


「馬鹿な! 〈ディフェンダー・マンモス〉に並んだだと!?」


 後方から歓声が上がる。コモンカードがレアカードに匹敵するパワー得た事が湧かせたのだろう。

 でもこんな簡単コンボで驚かれても正直困るのだがなぁ。


「俺は更に魔法カード〈フューチャードロー〉を発動。ライフを2点払って、2ターン後のスタートフェイズにカードを2枚ドローする」


 ツルギ:ライフ10→8


「さぁ行くぜ、アタックフェイズ! まずは〈トリオ・スライム(A)〉で攻撃!」

「くっ。ライフで受ける」


 ブロック宣言をしなかった事で、一体目の〈トリオ・スライム〉が、財前に体当たりをする。

 すると財前のライフは〈トリオ・スライム〉のヒット数、1のダメージを受けた。


 財前:ライフ10→9


「続いて〈トリオ・スライム(B)〉で攻撃!」

「それもライフだ」


 財前:ライフ9→8


「最後! 〈トリオ・スライム(C)〉で攻撃」

「その攻撃は〈ディフェンダー・マンモス〉でブロックする」


 スライムの前に立ち塞がる巨大な機械マンモス。

 だが現在のパワーが互角。

 スライムがマンモスに体当たりすると、双方大爆発を起こして破壊された。


「相打ちか。だけど〈ディフェンダー・マンモス〉には」

「どうやら知ってるようだな。破壊された〈ディフェンダー・マンモス〉の効果発動! 僕はカードを1枚ドローする!」


 財前:手札4枚→5枚


『攻撃可能なモンスターがいません。ターンエンドをしましょう』

「ターンエンド」


 ツルギ:ライフ8 手札3枚

 場:〈トリオ・スライム〉〈トリオ・スライム〉


「どうやら少し君を侮りすぎてたみたいだ。僕のターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ!」


 財前:手札5枚→6枚


「メインフェイズ。喜べ初心者君。君に僕のデッキの本領というものを見せてあげよう」

「まぁ、そうこなくっちゃな」


 でも〈ディフェンダー・マンモス〉が見えた時点で、なんとなく相手のデッキ読めちゃったんだよなぁ。

 口には出さないけど。


「僕は〈メカゴブリン〉を召喚!」


 財前の場に、鉄の棍棒を持った機械ゴブリンが召喚される。


 〈メカゴブリン〉P6000 ヒット1


「(やっぱり【機械】のデッキだったか)」


 【機械】デッキ。

 系統:〈機械〉のカードでまとめた、パワー型のデッキだ。

 最大の売りは高い素のパワーと、攻撃的な能力。

 そして系統が持つ固有能力だ。


「さぁ見るがいい! 〈メカゴブリン〉の召喚時に手札を1枚捨てる事で【オーバーロード】を発動!」

「やっぱり使ってきたか」

「初心者君の為に説明してやるよ。【オーバーロード】は機械モンスターだけが持つ固有能力。その効果は召喚時に手札を1枚捨てる事で、このターンの間パワーとヒットを2倍にする!」


 財前:手札5枚→4枚

 〈メカゴブリン〉P6000→12000 ヒット1→2


「パワー12000だと!?」

「あんな強力な能力を持ってたなんて」

「ダメだ負けた。勝てるわけない」


 だからギャラリーうるさい。

 確かに【オーバーロード】は強力だが、分かりやすい弱点もある。


「(まぁ流石にこのターンすぐには何も出来ないんだけどな)」

「更に僕は〈ダブルランサーロボ〉を召喚! こいつも【オーバーロード】持ちだ。手札を1枚捨てさせてもらおう!」


 財前のフィールドに二本の槍を持った人型ロボットが召喚される。


 財前:手札3枚→2枚

 〈ダブルランサーロボ〉P6500→13000 ヒット2→4


 また厄介なモンスターが召喚された。

 だけど同時に、財前は【オーバーロード】の弱点にもハマった。

 【オーバーロード】は手札消費が激しすぎるんだ。


「フフフ。僕の手札が心配かい?」

「一応ね。大丈夫なのかなーとは思うよ」

「心配は無用だ。機械デッキにはこういうカードもある。魔法カード〈オイルチャージ〉を発動!」

「機械デッキ専用のドローカードか」

「その通りだ。このカードは僕の場に系統:〈機械〉を持つモンスターが2体以上存在する時、カードを2枚ドローできる」


 財前:手札1枚→3枚


 手札補充をする財前。だがそれでも手札は3枚だ。


「これで終わりじゃないよ。僕は更に魔法カード《スペルコピー》を発動。ライフを2点払って、墓地の魔法カード《オイルチャージ》の効果をコピーするよ」


 ドロー効果がコピーされて発動。財前の手札が更に増える。

 上手いプレイングだな。


 財前:手札2枚→4枚


「へぇ。やるじゃん」

「これでも未来のプロなんでね」

「へいへい(自意識高いなコイツ)」


 しかし機械デッキで手札を増やされるのは少し厄介だな。

 考えてプレイしないと負けてしまうかもしれない。


「まだまだ僕の進撃は止まらないよ。魔法カード〈追尾ミサイル〉を発動!」

「げっ、そのカードは」

「〈追尾ミサイル〉の効果で、このターンの間、僕の機械モンスターは【指定アタック】を得る」


 【指定アタック】。その名の通り、相手モンスターを指定して攻撃する能力だ。

 何が厄介って、モンスターを殲滅される事もだが、奴の〈メカゴブリン〉との相性が良すぎるんだ。


「アタックフェイズ。〈メカゴブリン〉で〈トリオ・スライム〉に指定アタックだ!」


 鉄の棍棒を構えて、スライムに攻撃を仕掛けるゴブリン。

 今の手札と、先のターンの事も考えれば……ここはライフ調節に徹するか。


「すまない、スライム」


 ゴブリンの振り下ろした棍棒によって潰される〈トリオ・スライム〉の一体。

 だがゴブリンの攻撃はこれで終わらなかった。


「〈メカゴブリン〉の効果発動! このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した時、僕の場にパワー10000以上のモンスターがいれば、相手に2点のダメージを与える!」


 効果が発動すると、ゴブリンは此方に向けて爆弾を投げてきた。


「うわッ!?」


 爆風と衝撃波が実際に伝わってくる。


 ツルギ:ライフ8→6


「ひゃあ、スゲーな召喚器システム。本当に衝撃波がきた」

「のんびりしている暇なんてあるのかい? ここで〈ダブルランサーロボ〉の効果発動! このカードのパワーが13000以上の時、僕の【オーバーロード】を持つモンスターは全て【2回攻撃】を得る!」

「つまり〈メカゴブリン〉はもう一度攻撃できると」

「そういうことだ。行け〈メカゴブリン〉! 最後の〈トリオ・スライム〉を攻撃しろ!」


 最後のスライムに襲い掛かるゴブリン。

 ここで防御をしたい気持ちがあるが、ここはあえてゴブリンの効果ダメージを受けよう。


 棍棒で潰されるスライム。

 そしてゴブリンは再び爆弾を俺に投げてきた。


「ぐッ!」


 ツルギ;ライフ6→4


「これでもう君の場にモンスターはいない。〈ダブルランサーロボ〉で止めだ!」


 ヒット数4の〈ダブルランサーロボ〉が俺を直接攻撃してこようとする。

 これを受ければ敗北する。

 後ろのギャラリーもそれを悟ったのか、悲鳴を上げているが……


「ここで終わらせるわけないだろ! 魔法カード〈トリックゲート〉を発動!」


 俺に攻撃を仕掛けていた〈ダブルランサーロボ〉は、突如開いたゲートにその身体が飲み込まれた。


「〈トリックゲート〉は、モンスターの攻撃対象を移し替える。お前が攻撃するのは〈メカゴブリン〉だ!」


 再びゲートが開く。ただしそれは〈メカゴブリン〉の目の前であった。

 ゲートから出てきた〈ダブルランサーロボ〉は、そのまま〈メカゴブリン〉を戦闘破壊してしまった。


「くっ、雑魚の分際で。だけど〈ダブルランサーロボ〉は【2回攻撃】の効果で回復する! 今度こそ止めだ!」

「魔法カード〈グラビトントラップ〉を発動。回復した〈ダブルランサーロボ〉を疲労させる」


 凄まじい重力エネルギーが発生し、〈ダブルランサーロボ〉は押しつぶされてしまう。


「疲労状態になったモンスターは攻撃できない。だろ? ベテランファイターさん?」

「こ、この野郎……ターンエンドだ!」


 財前;ライフ6 手札3枚

 場:〈ダブルランサーロボ〉


 素早く止めを刺せなかったのが相当悔しいのか、財前は顔を真っ赤にしてターン終了の宣言をした。

 さて、機械モンスターの猛攻から生き残ったは良いが、これからどうしようか?


「まぁドローしてから考えるか。俺のターン!」

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