第三話「自由」

 フラマー子爵が去った後、僕は魔力について考えていた。

 もちろん今見えているこの靄が魔力だというのは仮定にすぎない。

 魔法に関わる他の要素かもしれないし、はたまた魔法で動かされただけの何か違う物質かもしれない。

 現状分かっていることはこれが魔法によって動くものだということのみだ。


 フラマー子爵は魔法の仕組みはほとんどわかっていないと言っていた。

 実際僕の中にある記憶でも、魔法の教本には仕組みは説明されておらず、魔力の集め方や詠唱の仕方が書いてあるのみだったので、その通りなのだろう。

 つまり、魔力とよばれているものはまだちゃんと定義されておらず、この靄が魔法の強さを数値化できる可能性を持っているなら、魔力としてしまってもいいのかもしれないということだ。


 しかし、ここまで考えて気づく。

 どうやら自分は、いまだに受験勉強をしていたころに引っ張られているようだ。


「転生のことよりも魔法のことを先に考えている上に、その魔法も定義とか数値化とか勉強のことか」


 思わず苦笑してしまう。

 まあ魔法が使えなくて仕方がない面もある。

 それに受験がまだ終わり切っていないときに死んだのだ。思考がそっちの方向に行ってしまうのも無理ないだろう。

 それでも、嬉々としてそういったことに取り組もうとする自分がいたことが、少し意外だった。


「これが研究と勉強の違いかー」


 もちろん、自分には高校生に毛が生えた程度までの知識しかない。今考えていることが本当に研究と言えるものなのかは分からない。

 けれど、何か知りたいものがあって、それを知る手段に今まで学習してきたことを使うということはすごく面白そうに感じたのだ。

 良い大学に入るために早く正確に問題を解く能力を磨くことを目的とするのではないという違いが自分には合っているように思えた。


「ほんとだったら転生した理由を探るのを最優先にするべきなんだろうけどなあ」


 確かに元の世界に変える方法だとか、誰かに転生させられたのかどうかとかそういったことを探る必要はあるのだろう。

 だが、それを考えるにはあまりにも大きな障害があった。


「どうやってそれを調べろというんだよ……」


 神様みたいな存在とはあったことは無いし、そもそもこの世界にいるのかは分からない。

 一応神話は存在するし、この国の帝は宗教の首長も兼ねている。

 だが、神に会えるなんて話は聞いたことがない。

 そして他に転生について聞けそうな人物に心当たりは無かった。


「他にも転生者はいるのかな?」


 自分一人だけが転生していると決め切ってはいけないようにも思える。

 もしかしたら他にも転生している人はいるかもしれない。

 そういう人がいるのだとしたら、何か手がかりを持っているかもしれない。


「とはいえ、見つけるのは難しそうだな」


 自分の身分は帝子だ。

 簡単に外出などできないし、そもそも探し方が分からない。


「なら見つけてもらうのはどうだ?」


 これならある程度の効果は期待できるのかもしれない。

 今の僕は身分的にはいわゆる内政チートをできそうな状況だ。

 現代日本で培った知識を大いに振るって国を発展させられれば、転生者なら何かおかしいと気付くことはできるだろう。

 だが、それは自ら争いの中に突っ込みに行くことも意味していた。


「次期帝位を目指しますと宣言しているようなものだからなあ……」


 内政に口を出すということは、次の帝として政治に興味を持っていますと言っているようなものだ。

 宰相止まりでいいですと言ったところで信じてもらえる訳も無いし、発展させられれば、周囲は絶対に次の帝にと推すことは目に見えていた。

 いるのかも分からないような人間と話しをするためだけに、やりたいくもないことをやって自分の身を危険に晒す気には到底なれそうにない。


「せっかく手に入れた人生だし、やっぱり好きなことをするに限るな」


 そうだ。せっかく魔力視なんていう特殊な能力を得たのだ。

 まさに魔法を研究しろと言っているような能力なのだから、しない方がもったいない。


「それこそが自由って感じがするよな」


 好きなことをして生きていく。

 なんて良い響きの言葉だろうか。

 若干、前世でよく見たうさんくさいブログを思い出したが、それでもやっぱり良い言葉だと思う。

 やりたいことも無く、ただ勉強に時間を費やす日々と今は違うのだ。


「今度こそ自由に生きてやる」


 未来が明るく見えた。

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