第3話 決戦の商店街

 子供の頃とは違い、リーサとイザナギの関係は徐々に変化して行った。


 昔はイザナギがお父さんの様な関係だったが、今ではリーサが何かとイザナギの面倒を見ていることが多い。


 仕方なくイザナギの分のコーンスープも作る。しかし自分のものほど、良く混ぜはしなかった。


 コーンスープを飲みながらTwitterを見る。DMでやり取りをしている依頼人の過去の内容を遡る。探偵の仕事は、鋭い洞察力のリーサと、不思議な力を持つイザナギにとってピッタリの仕事だった。


 これまでも数々の依頼をこなしてきたが、初めはリーサのアイドルの様な容姿に、依頼人は信用出来ず全く仕事が無かった。


 身長152センチのとても小さな体系に、人気アイドルの様な大きくてパッチリとした瞳。少し厚い唇は時にセクシーな一面も醸し出す。前髪はぱっつんで全体的に艶のある髪質である。ちょっとフリフリとした服装を着ようものなら、途端にアイドルのそれにしか見えない。


 リーサ自身、特にアイドルを目指しているわけでもなく、意識しているわけでもない。ただ自分が好きな服装とヘアメイクをしているだけであった。


 少し視力が悪く、普段から黒縁眼鏡をかけている。そのせいで余計に幼く見えるのであったが、そんなことは本人は気にしたことはない。


「ねぇリーサ。今日は商店街に何か買いに行くの? このところよく行くね」


 イザナギはコーンスープを美味しそうに飲みながら聞いた。


「今日はね、商店街で開催している福引の最終日なの」

「福引?」

「商店街で買い物をして、1000円で一回引けるの」

「ふーん、だからよく行っていたんだね」

「そうよ! 通い詰めて溜まった福引回数はなんと!」

「なんと!?」

「28回!」

「けっこう溜まったね」

「最後に今日買い物をして、合計30回引くつもりよ」

「なるほどね。何か欲しい商品があるの?」

「あるわよ」

「なになに!?」

「3泊4日南国リゾートペアチケットよ!」

「旅行!? それは僕と一緒に行きたいってこと!?」

「別にあんたと一緒に行きたいわけじゃなないわよ」

「どうして!」

「ただ単に私がそこへ行きたいだけ。だから別に誰かと行こうとも思ってない」

「でもせっかくペアチケットなんだから僕も連れて行ってよ!」

「あんたは私にくっついてんだからどうせ行くことになるでしょ」

「あ、そっか! やったー!」


 まだ福引を当てたわけでも無いのに、リーサと旅行へ行けることに歓喜し、激しく喜びの舞を踊っているイザナギであった。


 それをシラケた目で見ているリーサは、最後の一口を飲み干すと同時に、ノートパソコンを閉じた。


「あんたまだチケット当たったわけじゃないんだから」

「いーや! リーサはきっと引き当てるよ! 僕には分かるんだ」

「どうしてそんなこと分かるのよバッカじゃない」

「だって僕、神だも~ん!」


 リーサはまたシラケた目でイザナギを見た後、外出の準備を始めた。


 現在、探偵の仕事は落ち着いている。つい最近大きな依頼が無事に終わったところだ。次の依頼に取り掛かるまで多少の時間がある。ちょうどそこへ舞い降りた福引チャンス。この機会を逃しまいと、リーサの眼光は鋭く光る。


 準備が整うと、これまで溜めたレシートを確認し、決戦の商店街へと勢いよく家を出た。


 外は暑い。


 これから本格的に始まる夏。


 期待膨らむ南国のバカンス。


 福引チャンスは30回。


 リーサは商店街の場所を睨みつけ、力強く歩き出した。


 一方のイザナギは、相変わらずふわふわと空中を漂い、リーサのあとをのんびりとついて行く。


 イザナギの姿は、リーサにしか見えていない。イザナギの声も他の人間には聞こえていない。しかしリーサの声は当然聞こえるので、外でイザナギと話していると、一人で会話している痛い女の子として周りから認識されてしまう。


 リーサから見えるイザナギの姿は、いつも地味な着物を着ていて、少し上に長い黒い帽子を被っていた。例えて言うなら、陰陽師の安倍晴明が映画やゲームで描かれるそれに近い。


 顔はとても若く、好青年の様である。リーサと出会った時からその全ては何も変わっていない。


 実体のない、それこそゲームのキャラクターが目の前に映し出されている様な感覚のイザナギ。何故かリーサはそれを受け入れていた。


 商店街の入り口に着いたリーサは立ち止まり、大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。


 そう。これが正真正銘の深呼吸であるかのように。

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