第10話











「本当に、大丈夫なの?ねぇ」

不安が混じった声でそう尋ねた

日当たり抜群で遮るものが無い学校の屋上に俺は立っていた

てか風が強くてあったかいところに帰りたい

魂の~ルフはいやめときますねえへへ

半分くらい得意の現実逃避をしていると、通話相手の人物がめんどくさいという感情を隠さずに返答してくれる

『えー?なにー?』

「…本当に大丈夫かなーって鶴思っちゃってぇー」

『うん?風が強くて聞こえなーい』

「……だから!本当にこんな作戦で大丈夫なのか聞いてるの!」

『うるせぇな』

「ひぇしゅみましぇん」

『チッ……まぁいいや。大丈夫、俺を信じてくれたまえ』

それが一番信用ならないとは怖くて言えなかった

俺って臆病者ぴえん

世の中の厳しさと憂いを感じ、社会の荒波を耐え抜く事が自分にはできるのかと自問自答しまたその思考の中で自分の成長に期待する希望を抱くきっかけにも『アホなこと考えてないでちゃんと聞いてよ泣かすぞ』「ごめんなさい」


手厳しいなと思いつつも大人しく聞く

『だからそのまま待機しててね』

「え?このままいればいいんですか?」

『そうそう。アホ面で待ってて』

「アホな要素要らなくない?」

『それもご愛嬌。とりま事態が動いたらわかるから。よろしく~』

「ええ?説明する気ゼロ?獅子の子落とし感覚でやらないで不安しかないよ」

『大丈夫大丈夫!お前ならできる!できる!できる!』

「ひぃ!?やめて熱血系こわい!!」

芝浜君の巧みな精神攻撃に俺は翻弄されていた

うぅ策士め…


そんな他愛無い会話という虐めをされているとガゴンと重い音が背後からした

スマホを耳に当てたまま振り返る

そこには柄の悪い、典型的な不良三人組がいた


「お!いたいた!へぇーこのチビちゃんがお相手?」

「モサくね?深様も厳しいこと言うよな」

「俺はイケる」

「「マジかよ」」


……あまり理解したく無いワードが聞こえたけど

俺のBL脳が勝手に理解してしまう

これは不良にアレされてしまう展開のでは!?

なぜに俺!?ジーザス!!なんて神は無慈悲なんだ!!

跪き天を仰ぎ泣いている俺に不良の皆さんはドン引きしていた



「やべーよこえーよ俺。無理無理」

「薬やっちまってる系なのか?ホラー苦手なんだよ」

「俺はイケる」

「「マジかよ」」


さっきからなんなの!?イケるイケるうるさい!

へんな髪型しちゃって!(リーゼント)

そう思って睨むとリーゼントさんは頬を染めて少し顔を背けて横目で俺を見ている

鳥肌が立った


『合流できたかな?じゃあ頑張ってねー』


「な、何を頑張れっていうんだよバカァーー!!深君のバカァーー!!」

脱兎の如く俺は逃げ出した

奴らをかわして屋上唯一の出口に突進した

「あれ逃げちゃったけど?どうする?」

「てか足はえーな。深様が好きにしろって言ってるし好きにしていいんじゃね」

「俺はイく」

「「マジで?」」


鶴が逃げて走り去った出口に向かって金髪リーゼント不良が大股で走って追いかけたのを後の二人が慌てながら追いかけていった

無人となった屋上で冷たい風が吹き抜けていった





「ひょえええぇぇぇぇえ!!!こないでぇーー!」


「待ちやがれゴラァ!?」

強面リーゼント不良が血筋を浮かべて追いかけてくる

止まったらそのままアウトだと本能が告げている

階段を数段飛ばして走りコーナーを曲がる

するとリーゼントもなんと壁を蹴って無理やり方向転換しさらに階段はジャンプで降りるまるでゴールデンゴリラの如くの勢いで、正直殺されるかと思った

鼻息荒いし



何度か人とぶつかりそうになりながらも躱して廊下を走る

教室から出てきたらしい教師に大声で何か言われたが全力でスルーをした

注意とかするなら後ろの迫力スゴい不良をどうにかしてください

ヤル気満々で泣きそうです先生…


燦々と輝く西陽を浴びながら駆け抜ける

バコッ!

後方からプラスチックでできたゴミ箱を蹴飛ばした音がした


や、やばい!!

目の前は階段のない音楽室前だった

闇雲に走ったせいで逃げ場がなかった

音楽室から合奏の練習なのか教師の指示が聞こえる

廊下の騒ぎにはまだ気付いてないらしいが、ゴミ箱が近くの壁に当たりザワザワとした音が聞こえ内心自分は悪くありませんと誰に言うわけでもなく呟く


「観念しろコラァ!?!?」

「ヒィッ!?」


不良のリーゼント担当の彼は当初の目的である御子柴鶴と一方的な仲良くなる(意味深)行為のために奔走していたが不良の性で、追いかけているうちに狩猟本能なのか定かではないが頭の中から目的より獲物を追いかけて捕まえることしか残っていなかった。つまり馬鹿だった


「ハァハァ……もう逃げ場はねぇぜ子ウサギちゃん」

「うぅ……普通にキモいよぉ」

地味で平凡で影の薄いという自己評価の外面が今目の前にいる息の荒い変質者ビジュアルの不良に本音で気持ち悪がった御子柴であった


「不良受け萌えとか言ってごめんなさい!オラオラ受け最高だけど、リアルではお断り!」

「意味がわからないが、イケる」

「マジでぇ……貞操危し。だ、誰か…」

話の通じない色々なやる気が溢れた相手にリアル耐性のない鶴は瀕死だった

涙目になりながら目を逸らし、目に映った人物に大きく目を開いた

ドクン!と胸が高鳴った

これは、危機的状況による興奮なのか

それとも彼の中で何かが芽生えた瞬間だったのかもしれない



ガシッ

窓枠につかまり、身を乗り出す

下で彼が見上げたかもしれないと思った

きっと気のせい

なのに御子柴鶴は飛び降りた

情けない声を発し、震えながらもしっかりと乗り上げた足で蹴り上げ宙に飛ぶ

このまま落ちたらきっとただじゃ済まない大怪我をするだろう

だけど止まらなかった

後ろで御子柴の様子に慌てたように手を伸ばしたが空を切る

さらに後ろでダルそうに追いかけてきた二人が目の前の光景に驚愕していた


スローモーションの様に景色が流れる

窓から飛ぶ人影に驚いてそばにあった木の枝から数羽の鳥が逃げる様に羽ばたく


下で慌てた様子で反射的に位置を調節して腕を伸ばした彼が見えた



「あーいきゃーーん、ふらぁーい!!」


ムササビのように手足を伸ばして飛ぶ

正確には落ちているが、飛んでいるのである


「ば、ばかやろう!!」


ドカン!ごろごろ…


んむっ!?



飛んだ御子柴鶴を芝崎尊が受け止め、衝撃によって転がりながらも腕を離さず互いに抱きしめたまま転がって止まった

芝生が生い茂る場所で痛みを感じながらも一瞬、柔らかい感触が唇に残っていたのを二人は感じていた

互いに黙って見つめ合う


「‥‥…お前、危ねえだろ」

「うん……」

ぎゅっと、強く抱きしめられた

怖かったのは俺のはずなのに相手の鼓動が早くて胸が切なくなった

そっけないような言い方だがなんだかほっとしたような優しさを背中を撫でられながら感じた


「なんでこんな事したんだよお前…」

「それはいろいろありまして」

主にお前の友達のせいだけどなとは流石に言えなかった



「ッ…」

「え?あ!ごめん痛かったよね!今どくから」

グイッ

「………えっと…」

焦って跨ったままだったから退けようとしたが腰に添えられた腕で強く引き寄せられた

その時フワッと芝崎から甘くスッキリしたコロンの香りがした

「……」


変なやつ

勝手に距離を取って離れたりしたくせにいざ直撃してみると離れたくないと駄々をこねるように抱きつく姿に

御子柴は胸が熱くなった

自然と日に照らされ透けた金色の髪を優しく頭を撫でた

芝崎は最初ビクッと体が揺れたが、抵抗はしなかった



「このままでいいから、聞いてほしいんだけど…」

小さく頷かれた

「……あの、えと」

いざとなるとなんて言っていいかわからなかった

たくさんたくさん、考えて悩んできたのにいざとなると言葉がなかなか出なかった

その間じっと芝崎は大人しくしていた

肌を撫でる風が冷えていて心地よかった


「………俺のこと、嫌い…になった?」

声が震えてしまった

「……」

ぐりぐりと頭が肩の付け根に押しつけれる地味に痛かった

そんな仕草がなんとなく面白くて笑ってしまう

違うと伝えているようで嬉しくなった

笑ってしまったことに気を悪くしたのか、抵抗として抱きしめる強さが強くなった



「じゃあ、なんでかな。やっぱりウザかったとか…」

多少なり自覚があったんだなと思った芝崎だった



「それもあるけど…」

「あるのね」

聞き流しつつ話す

「俺は、俺のせいでお前が嫌な目にあってることに腹が立った」

「それは….」

「わかってる。深にも言われたがあんなのやる奴が悪い。俺もそう思う」

それなら、と思った

「だけど、それでも鶴が俺の知らないところで嫌めにあったり傷ついたりするのが耐えられなかった。今更、怖くなった。今まではいくら周りが五月蝿かろうとどうでもよかった。けどお前は」

顔を上げたその顔はやっぱり整っていて、ムカつくほど綺麗だった

それが泣きそうな子供のような表情であっても

「お前が傷つくのは、嫌だ」

シルプルな答えに、不思議と胸が苦しく甘い衝動が迸る

こちらまで泣きたくなった

でも泣いちゃダメだ。まだ何も伝えてない


「いいよ。別に」

「はぁっ!?」

表情で制す

「傷つくことだって、なんだって。俺がそれを選んだことだから。勝手にさ決めつけてほしくないんだ。………はぁ…ふぅ………えっと、だから芝崎君がいいなら、い、い、一緒にいてほしい、です。あは、あはは」

恥ずかしくて逃げ出したい

でも、もう逃げるのは嫌なんだ

誰かと競うことが怖くなったのも

親がもう陸上はやらないと告げた時わかったと言ってくれたけどがっかりしたような顔をされたときも

走ることが好きなのに、一生懸命走る陸上選手を見るたびに顔を俯かせたときも

あそこから抜け出せたのは親友のおかげ

でもそれでも澱のように沈んだ黒い感情は消えなかった



だけど!

「楽しかったんだ………。俺みたいな地味平凡お淑やか系男子と「おい」…明るくて誰よりも自分に正直で、人の目なんか気にしない君が、カッコよかったんだ! 」

彷徨わせた目を真っ直ぐにして芝崎君を見る

恥ずかしい、恥ずかしておかしくなりそうだ

いや、既におかしくなったのかもしれない

日陰者の俺

反射した眼鏡から、みたくない現実を映さなかった瞳

気づけば誰かに助けてもらっていた


「もう後悔とか、飽きたでしょ?遊ぼうぜ」

なんてことがないように引きこもっていた俺を

開けていた窓から侵入して普段通りに言った親友を思い出した



恐れて手を伸ばさず悔やむか

伸ばして全力でぶつかって泣くか


なら、ぶつかりたい!


その話をしたら深様は全力で砕け散った方が、かっこいいよね

なんて遠くを見ながら言っていたっけな


見ると…固まっていた芝崎君が、真っ赤になった

泣きそうな時と違って、まるで照れているようだった


「み、見んな!くそ、お、俺様が、うぅ」

自分でも気付いたのかオロオロと慌てた後、観念したように止まる

そして

「鶴」

真剣みを帯びた声で呼ばれた

その声に、ドキッとした


「うん。なぁに?」

「俺と、俺の、そばに居てくれないか?」

懇願するような、甘えるような声音とセリフに自分まで赤くなる


「……えへへ。うん。いいよ。俺も、一緒にいたい…」

照れて俯きながら見上げる

上目遣いで言った

「尊と、一緒にいたい」

「鶴!!」


ぎゅっと抱きしめた

愛しさで、切なさで胸が苦しくてたまらなかった

それがとてつもなく幸せだった


好きだ


自然にそう思う

人を好きになると、改めて知った

この気持ちを、この痛みを


細く、でもしっかりとした体の鶴を抱きしめる

恐ろしほどしっくりときてまるでやっと一つになれた半身と会えたようだと感じたが、きっと話すと笑われそうで言わない

鶴の体から香る柔軟剤の香りと優しい鶴の香り、そして体温が伝わってくる

ずっとこうしていたいと思った



「なんだか、気持ちよくて眠たくなってきちゃった」

そんなことを言うから

俺に抱きしめられて気を許すような態度にさらに嬉しくなった


「鶴、鶴、鶴」

「あは、なんだよもう、尊」

互いに呼び合い気持ちを交わす


じっと見つめる

鶴の澄んだ瞳に夕焼けの色が映っていた

きっと自分もそうなんだろう

キスをしたい


顔を寄せる

丸い瞳が俺を見つめる


「俺、嬉しい」

「……え?」

息が当たる距離だ


見ると鶴は世界一可愛い笑顔で俺は見惚れる


「………ねぇ、これからは言ってもいいんだよね?」

「……な、何を?」

改めて恋人呼びだろうか

そう思いつくとまた動悸が早くなった



「尊が、友達って!」

「…………………はぁ?」

俺は固まった。友達?ともだち?トモダチ?TOMODACHI?

友達がゲシュタルト崩壊していた


「いやぁ~!照れるって言うか、嬉しいけどさ!ガチ陽キャの友達なんて天だけだし正直言って容量オーバー?みたいな?感じだけどさぁ尊が距離取ってからなんか違うなとか嫌な事しちゃったとか寂しいなとか思って考えたらもう訳わかんなくなっちゃって、ならもうぶつかって、それでダメなら納得できると思って。でも良かった…やっぱり俺は尊が好きだ…」

「え、や、あの」

「あ!!好きとか言うとリアルBLみたいだよね!ノーマルの人に対して調子に乗り過ぎたかも!でも俺、自制とか得意だから安心して!でもでも、やっぱりBL観察とか色々するからそれでもいいなら、お友達でいてくれる?」

不安そうに尋ねる姿がやっぱり可愛くて

突っ込みたいところが山ほどあったが納得した


「はぁ…」

「え?やっぱあかん感じ?お断り案件?ねぇ?」

「うっせぇ!この馬鹿オタクが!」

「ば、オタクを馬鹿にするな!」

「俺はお前を馬鹿にしたんだ!くそ……もういい」

ぎゅっと抱きしめる

苦しそうに暴れるが無視をした

「鶴」

「ふぁ、ふぁい!」

肩を掴んで距離を離す


俺は本気でキメ顔をして言った

「本気でぜっったい落とすからな鶴。逃がさない」

「ぼ、暴力反対!」

違う!と言いながら互いに暴れる


「いたぁー!イチャついんてじゃねぇぞごらぁ!?」

「ひぃ!?」

走り回ったのか、荒い息をしながらリーゼント不良とついてきた二人がやってくるのが見えた


「や、やばば!」

「おい!」

飛び上がるように立ち上がった鶴に手を掴まれて立ち上がる

そのまま走る鶴に引っ張られた

その後ろ姿にあの懐かしい思い出が重なった

キラキラと鶴の涙が、やっぱり綺麗だった


「に、逃げるよぉ!!不良は怖い!危ない生き物なんだ!」

「…たくしゃーねぇーな!」

俺も全力で走った

隣で驚いたような顔をした鶴はすぐに笑顔になった


夕暮れに染まる景色の空に一番星が光っている



恋とは一筋縄ではいかない

だけど、だからこそ本気で向き合うことが恋をすると

人は知った



繋がれた手は何よりも確かなものだった






-END-








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