第9話







季節が巡る

当たり前のように時間の経過とともに景色は移り変わっていく

どこか浮き立つ気持ちと過ぎ去っていく

斜陽に照らされた校舎から外の景色を瞳に映して芝崎尊は

黄昏ていた


最初にあいつを意識してみた時もこんな景色だった

茂みの間から丸いキラキラとした目を知ってから俺は変わってしまったのかもしれない



俺は物心ついた時から人に注目されていた

俺が何か言えば人は喜んで従うし嫌な顔をされたことがない

いつも誰かに囲まれていて寂しいなんて思わなかった


たとえ映画監督の父親が他所に女を作って家族を顧みなくなった時も

母親が仕事で忙しく会っても会話がまともになく金がテーブルに置いてあるぐらいしか接点はなかった

授業参観も運動会も発表会も

いつも注目される俺も家族が集まるイベントでは孤立していた

隣で教師が中身のない言葉で慰めてくる


そんな時クラスに殆ど現れなかった芝浜深と一悶着あり、なんだかんだあって親友となった



別に平気だ

だって俺は可哀想じゃない

誰よりも優れているし俺は〇されている

何も、間違ってなんかいない



「あの、尊君が好きです!付き合ってください!」


ランドセルを背負って下校しようと外に出た時

呼び止められて人気のないところでそう言われた

その日深は撮影だといって休んでいた

好き?俺を?

視界の端にはこいつの友人のとりまきらしき奴らが見ている

頬を赤く染めてはにかみながら言ったこいつは確か、

隣のクラスと一番人気の女子らしい

クラスのモブがやかましく騒いでいたからなんとなく覚えていた


「何お前?」

接点はないしそう言うと奴は一瞬ビクッと震えた

「え、えっと尊君と仲良くなりたくて。ずっとかっこいいなって思っててほら、私たちみんなからお似合いとか言われてるしそうかなって思って…」

モジモジとしながら言った


「興味ない」

「え?」

不思議そうな顔をされた

自意識過剰なんじゃないか?と思ったがこの時のことを話すと特大ブーメランだと深に言われた

後で知ったが、この女は他の男と付き合っていたが俺を知って俺にアタックしたらしい

なかなかにふてぶてしい女だ


「で、もういいか?帰りたい」

「ま、待ってよ告白したんだから返事、ほしいな」

近寄ってくっついてきた。俺は離れる

告白されたら返事

一方的に告白して求めるなんて図々しい奴だ

誰に言ってると思ってるんだ?

こいつは自分に自信があるようだ

断られることを想定していない

そんな顔をしていた

そして思い出した。以前掃除の時間に階段の横でサボっていた女子がいてずっと男の悪口を言っていた

隣で俺が階段を掃除している事に気づかないまま

この媚びたような笑い声が印象的でこいつだとわかった


真面目で堅物だった父親が、母を裏切って女に媚びている事実に重なり言いようの無い不快感をその時感じた


「帰る」

振り返って校門に歩く

「ま、待ってよ!」

腕を掴まれた。咄嗟に振り払う

女は地面に尻餅をついた

背後からワラワラととりまきが現れた

各々が何かを喚いている

うるさくて堪らなかった


「なんでそんな酷いことができるの?」

自分を棚に上げてよく言うな

俺を見せものにして、自慢したいだけのくせに


「うるさい女嫌いだから」

「ッ!最低!」


それを既に後ろを向いて下校している俺の意識に奴らはもういなかった

後日

様々な噂が飛び交ったようだ



ドン!

「ウッ!….」

俺は地面に突き飛ばされた

目の前では図体のでかい子供とその後ろにあの女どもが困っていそうな顔をしつつ、口元には笑みを浮かべている


「よくもお前ミナミちゃんを泣かせたな!俺の彼女を泣かしやがって!」

そう言って俺を責め立てる

「そこの、ブスが俺にしつこかったからだ。お前、すぐ触ってくるから気持ち悪いらしいぞ」

確かそんなことを言っていた

「い、言ってないわよ!」

「て、テメェ嘘つきやがって!!」

拳を振り上げて俺の顔を殴ろうとしてきた

きっと顔を怪我しても俺を心から心配してくれる奴はいない。顔に怪我をして可哀想と、きっと思うはずだ

痛いのは嫌だ

だけど、こんな、こんな奴らに屈したくはなかった


「俺は嘘はついていない!」

「うるせー!」

鼻息を荒くした男子が俺を蹴飛ばす

そして馬乗りになって今度こそ殴り飛ばそうとしてきた

俺は痛みを覚悟して目を瞑る


ポキッ


踏折る音がした

音をする方を向くと青いランドセルを背負った小さな男がいた

「なんだよお前!!」

図体のでかい男子生徒がチビな男にそう言った


「い、いじめはダメ!」

いじめ?いじめられてる?俺が?

その言葉に俺がイラついた


「はぁ?いじめてねぇし!こいつが悪いんだよ」

「わ、悪くても暴力はダメ!ちゃんと話し合おうよ」

ガクガクと震えながらデカくて丸いダサい眼鏡をしたチビがそう言う

図体のでかい奴は目標を変えてチビを睨みつける

「邪魔すんな!」

チビを突き飛ばそうとした奴の手を俺は何故か掴んだ

そのまま掴み合いとなって暴れるが体格差があって俺は不利で何発か殴られる

痛くて泣きそうだったが死んでも泣きたくなかった

こんな奴に負けてたまるか!

俺はすごいんだ。こいつらと違う!普通の奴らと一緒にするな!俺は特別だから偉くて、親なんかいなくても寂しくない。可哀想なんかじゃない!



「あ、あーいきゃん、ふらぁ〜い!」

弱々しく間伸びした声がした後

目の前の奴は吹っ飛んだ

外に置いてあるゴミ箱に乗ってそこから飛び降りたらしい



「いたぁーい。うぅ、君大丈夫?」

「だっ…」

大丈夫だから関わるな!そう言いたかったのに言えなかった

殴られてた俺より大泣きしていたチビがいたからだ

丸いキラキラした目が俺を映す

「うわっ」

「に、逃げよう!」

腕を掴まれて走るチビに俺は転けそうになりながらも

ついて行く

ふわふわと揺れる黒髪がオレンジの夕日に照らされている


「待ちやがれー!」

後ろから大声で呼びかけられたが無視をして走り続けた

俺は必死に走る

足の速いチビについてくのが精一杯で

俺を掴む手が震えていて、不思議な気持ちになった


そこから先は覚えていない

気づいたら俺は校長の車の上で寝ており事務員に見つかって起こされて帰った

後日俺をリンチしようとしていた奴らはボコボコになっていて

俺を見つけると逃げていった

女どもは深が何かしたらしい


探しても奴はいなかった

俺の都合のいい妄想だったのか

もやは今の俺は記憶もあやふやで、ただ夕陽に照らされた涙がひどく綺麗だと思ったことだけは確かだった



何故唐突に、回想しているかというと

デジャブを感じたからだった




「あ、あ、あーいきゃん、ふら〜い!!」


二階の突き当たりの音楽室前の窓から

情けない声を発しながら目の上で涙目の御子柴鶴が

落ちてきたからであった




≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫





「!?……計ったな」


「うん。まさか紙パックジュース並べてたら引っかかるとは思わなかった」

目の前で悔しそうにジュースを抱え、片手でストローを刺したジュースを飲みながらこちらを見つめる芝浜深君がいた

ここは人の来ない物理室だ

そう、BL界ではよく逢瀬で使われれいやらしい部屋だ

きっとここでは男子たちが人目を忍んであんなことやこんなことをするはずだ!

「帰らないで!」

部屋から退出しかけていた芝浜君を呼び止める

チラッと俺をみた後躊躇いもなく出て行こうとした

うークールびゅーてぃー…


「確保ー!」

俺はそう叫んだ

「ッ!?」

ズゴコッと音を出して吸っていた紙パックジュースが潰れる

逃げ出そうとしていた芝浜君をメンヘラ疑惑の太陽系幼馴染をけしかけた

カーテンに隠れていた三日月は素早く芝浜君を猫のように持ち上げ確保する

そのままぬいぐるみのように抱きしめて拘束する



「ひ、卑怯な」

「手段は選ばないんだ。さぁ吐いてもらうよ」

「ジュースしか出ないよ?」

「それは勘弁して」

「……」

「黙秘権か…」

「……」

「あんなに美味しそうにジュースを飲んでおいて、今のうちに吐いておいた方がいいよ芝浜君」

「俺を、脅すの?いい度胸だね」

ぷらんぷらんとしながら俺を睨む

「ひぃこわぃ。美形の睨み怖い」

俺がビビっていると三日月が爽やかな笑みを浮かべて話しかけた

「なぁ深。俺からも頼むよ」

明らかに動揺した顔をした芝浜君。もしかして三日月が苦手なのか?わかるぞその気持ち

「か、勝手に下の名前呼び捨てにしないで。悪いけど何も喋らないよ。友達を売ったりなんかするもんか」

とても友達思いのいいセリフだ

「どうしても?」

「どうしても!」

離せとぷらんぷらんと揺れるが体格差があって虚しい抵抗だった可愛いな

俺は歩み寄った

ガチン!と噛みつかれそうになって肝が冷えたが

懐から例のものを取り出す

「……こちらをどうぞ」

「き、貴様!?」

珍しく慌てた芝浜君

俺を見つめて、そして頷いた

「なんでも話そう。尊は抱き枕がないと眠れないし精通は「そこは尊厳的な意味でストップ」」

そうして俺たちの計画は始まった







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