第2話





「ふーん……それはそれは…」


「…ちゃんと聞いてる?」


「聞いてる聞いてる」


「じゃあなんて言った?」


「………襲い受けは尊い?」


「尊いけど…ちがう」

にへへと笑いながらまったく気にした素振りもなく

俺の紺色のベッドの上で長い足を組みヘラヘラ笑いながら漫画を読んでいるこいつはお隣の幼馴染三日月天

低学年の小学生が習う漢字で書ける名前のくせに

無駄にスペックの高い男だ

陸上部で焼けて小麦色の肌と白い歯がチャームポイントだと自己申告していた

「にっははは」

「何その笑い方」

「ははっ、なんか言った?」

「なーんでもございませーん」

カチカチッ

PCでBLゲームに目を戻す

ふぃ~天龍寺様俺様たまらねぇー

こんななのにツンデレで隠れスチルでは受けシーンもあるっていうのが驚きだ

新しい扉が開いちまうぜ

危うく涎を垂らすところだった



そんな中身のない休日を過ごしたのが日曜日


そして月曜日昼



……

ピチャッ

汚い


俺の机にケチャップが落ちた

急いでポケットティッシュで拭く

うー油の跡が不愉快ー不愉快でござるー

そう思って一心不乱にゴシゴシ擦る

当の本人はポカンとハンバーガーを頬張ったまま丸い目を開いて固まっていた


ピチャッ

「おい!また溢した!おこ!おこだぞ!」

必死にゴシゴシ

ピカピカに擦る

俺は汚れが嫌いだ

気になって仕方がない

学校なんて自分の管轄エリア以外仕方ないし

無視したけど、机にダイレクトアタックはダメ!絶対!

言った側からまた落ちた

いくら温厚な俺でも堪忍袋の尾が切れちまったぜ

熱い拳が火をふくぜ!

と思って見上げると違和感を感じた

ん?教室が静かだ

我が物顔で他人の椅子に座っている三日月が注目されているのか

でも今更だし、お母さん曰く天ちゃんはイケメンらしいのでそれなりに騒がれるらしいけど蚊帳の外なので、てかどうでもいいから気にしていなかった


なら、この静寂は何?

時止め系恋愛BL!?あれなんか違う

いや…見てないからね!そんなジャンル健全だからね!

誰に言い訳してるのかそんな内心と違って教室は静けさが支配していた

ピチャッ

いい加減にしろゴラァ!?鬼畜BLに出演させるぞ!!

と思って見上げた

するとやっと、理由がわかった


「……おい」

「……」

「お前だよ御子柴」

「…?」

「なんで自分の名前疑ってんだよ。御子柴鶴!」

あ、俺ですね

え?混乱で思考がブレる

「はぁ。ったく。いいから、ツラ貸せ」

「あっ、うん?」

よくわからないまま腕を掴まれて立たされ教室の出口に向かう

振り返った先では動き出した三日月がハンバーガーを食べ終え手を軽く振っている

貴様!机ちゃんと拭いておけよ!

そう内心叫びながら静寂の教室を出ていった




ついたのは中庭

中庭かぁよくBLではある展開だよね!

告白とか、草むらでイチャコラしたりとか

王子様系とか眠り姫とか呼ばれる男子がいたりして

そこから接点ができてさ

お前、また来たのか

とか言われて内緒の逢瀬重ねちゃったり君がいると…よく眠れるんだ

とか言って膝枕しちゃったりね!

ピュアラブ最高!!あっは!


「なに一人でニヤついんだよ変なやつ」

「なっ!?そ、そんな事ないし」

慌てて俯く

なぜだ。今までバレた事ないのに

どんな妄想しても、死んだ魚みたいな顔してるねって三日月に言われた(目じゃないのね)ことがあって自信があったのに

こいつ、何やつ…


疑うように横目で見つめる

なんだ?このイケメン?

そんな可愛い受けちゃんが群れで襲いかかってきそうなビジュアルは?

神様キャラクリ頑張りすぎ…って前もこんな事あったような


「あのさお前、いちいちトリップするの癖なのか?」

「ドリップ?」

「いちいちドリップってなんだよコーヒーなのかお前」

呆れたように言われた

確かに

俺を抽出してもBL愛と残念な搾りかすしか残らないぞ☆

あっすみません調子乗りましたへへ平凡(自称)がすみませんねぇ

コーヒー飲めないんだけどね甘めのカフェオレならいける

コーヒー×ミルク….なんか新しい扉が

「おい!」

「ひゃい!」

肩をガシッと掴まれる

その振動で共鳴して一メートルほど離れた石が落ちた

振動数が一緒なんだね。運命的



すぐ現実逃避していると

視界に琥珀色の光が差し込む

「うわぁ…綺麗」

「……何が?」

「ん?これ」

無意識でイケメンの頬に手を添えてこちらに顔を向けさせる

するとイケメンは目を丸く開き驚いているが

俺は気づいていなかった

「綺麗…」

「うっ…ふぅ…やめろ」

「……あっごめん」

現実に帰ってきて手を離す

奴は俯いて腕で顔を隠している

馴れ馴れしすぎたかな

それとも平凡(自称)アレルギー持ちとか?通院してる?

イケメンは潔癖って相場で決まってるからね

それを攻めが俺の手で汚してやるよ。までがセット

「……おい」

「はい」

しゅんとする

これ以上逸れると良くないことが起きそうだ

俺は野生の感でそう思った

野生じゃないけど


イケメンくんはなおも顔に赤みが残ったままこちらを睨んでいる

悪かったよ勝手に触って

イケメンに睨まれると迫力パない



「ごめんなさい」

「……別に、いい」

うわぁ生BL台詞…はいすみません自重します


「それで、なんでしょうか?あ消しゴム?教室にあるから戻ろう」

「なんで消しゴム借りんのに中庭にくんだよ寝ぼけてんのか?」

確かに!でも優しく言って!赤ちゃんに愛を囁くように!平凡な俺は泣いちゃうからね

グスッ

「な、泣いてんのか!?なんでだよ?どこに泣かされる要素あった!?」

律儀にツッコんでくれるしいい人かも

あれ、このキレのあるツッコミ

そして微かにコクのあるフレーバーと後味の爽快感

以前もどこかで

「しつけぇ。ビールみたいな食レポすんな」

「あっはいっス」

口に出していたようだおそろしす〜


「話が進まねぇ聞かれたことだけ答えろ」

「…」

「返事ぐらいはしろよな」

「プハッ」

「おい呼吸止める馬鹿どこにいんだよ!?ここにいたか」

残念な奴を見るような目で見やる

ひぇゾクゾクしちゃう…受けちゃんならね☆


「先週、の話だ」

「先週…」

玉の輿BL即売会だったかな

睨まれた

なぜだ!?

「くだらないこと考えやがって。まぁいい。あの、例の件だよ」


「零の剣?」

「無駄にかっこいいなおい。違うわ!」

またため息

心労で倒れないようにね

「こ、告白だよ」

「kokuhaku?」

「なんでイントネーションがカタコトなんだよ。だから、なんで俺に告白、しねぇんだよ?理由聞かせろ」

凄まれる

何を言ってるんだね君

「告白…告白。あっ!」

「やっと伝わったか!?」

なんで泣きそうな顔をしてるの?失礼じゃね?

「お昼代忘れたとか?」

「俺をなんだと思ってんだ!」

パコン!

わー暴力!全く痛くなかったけど

君は半分は優しさでできているんだね


「何を告白すればいいの?」

「こっちが聞きてーわ!」

腕を組んで不機嫌そうだ

これだからキレやすい若者は

俺は考える

「あー告白と言えば、恋愛?」

「そ、そうだ!」

まさか、腐バレ!?今まで隠していたのに!

幼馴染の三日月は勝手に部屋に入って本棚の後ろのBL本を見つけられ

さらにパソコンの中身までセキュリティを突破されて見つかってしまった

こいつもそういう輩なのか?イケメンのくせに

必殺腹パン殺法でいけるか?失敗した場合確実に死ぬだろうけどね


「お前が俺を、すぅ……す、すー」

寝た?


「好き、なんだろ?」


すき?好きってなに?

「好きって何?」

「そこから?」

互いにキョトンとする


「好き、なんだろ?」

「何が?」

「俺を…」

「誰が?」

「お前が?」

「はぁ?」

「なんでそこでガチギレすんだよ」

突然の様相に引かれた

だが仕方ないだろう

なにをふざけた事を


「なんでそう、思ったんですか?」

尋ねる

俺にそんな要素はなかったはずだ

「だってお前、いつも俺を見てるだろ?」

「見てる?」

「……」

「……」

「え?」

唖然とされる

こっちが唖然としたいんだが?だが?

「じゃあ朝下駄箱前で待機して見つめてたり教室で教科書の隙間から除いてたり昼休みスマホのカメラで盗撮してたり図書室で俺の絵描いてたり「うわぁー!!!」」

叫んで止めた

な、なななななんで、どうして

俺の日課のBLウォッチングが、ば、バレてたなんて

….あれ、でもこやつ。俺を見てるって言って

そして見上げる

すると思い出した

いつもウォッチングで一際参考になった金ピカ頭の男

身長が高く確かに、目立っていたかもしれない

このイケメンは知らないが、創作キャラのモチーフと妄想キャラとしてお世話になった

「ああー」

「なんの納得なんだ?」

今更だった

へーこんな顔してたんだー

見つめると顔を逸らされる

有料でござるかぁ?


「えっとわかりました」

「なにがだ?」

「はい。大変ご立腹?でしょう」

「確かにお前の話の聞かなさとその態度にはご立腹だな」

「ははっ」

「なんの笑いだ」

「ひぃ」

手厳しい

カルシウムとれよな


「今後、気をつけますんで、はい。もうあの、やりませんので…」

「お前なにを言って」

キーンコーンカーン

よっしゃ!

タイミングよく鐘が鳴った

「ではばいちゃ!」

「ふるっ…てちょ待てよ!」

某木村のような事を言っているが構わず全力疾走する


もう関わりません勝つまでは

なにに?と思うでしょ?

自分に決まってんだろ!?


八つ当たりをしながら教室に戻る

机には乾いて張り付いたケチャップソースと

遅れながら超不機嫌そうな顔のイケメンくんが俺を射殺さんばかりに凝視している


窓から見える空は青かった

ねむ


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