正当性恋愛の錯誤






自惚れイケメン×腐男子平凡







「おいお前!聞いているのか?」


どうしてこうなった?

派手な金髪で長身の男を見つめる

これが他者で自分が第三者であれば

喜んで見るが(観察)

当事者だと全く良くない

むしろ悪いイケメン陽キャだと俺の脳内が観測結果を告げる

苛立ったように眉根を寄せて綺麗な顔を険しくしている

それでもイケメンでついつい見てしまう


「なぁ無視するなよ…」

どこか懇願するような声に意識を戻す



あれ?誰だっけ

また思考がループしそうになるのを止めた

偉い


そうだった…

放課後もたついていたら担任に校舎裏のゴミ捨て場にゴミを持っていくのを押し付けられ

仕方なく捨てに行った戻り道の途中に突然

横からバスケットボールのボールを攫うように大きな手に捕まり

この人気のない場所に連れ込まれたのだった




「えっと、あなた誰ですか?」


俺は驚愕して固まってしまう

こいつ、なんて言った?

さっきこいつを人気のない場所に腕を掴んだ際ボールのように体を跳ねさせたが、もしやその際に記憶が飛んでいってしまったのか

そんな飛躍した突拍子もない考えがよぎる

俺の困惑した表情に反応したのかビクッと肩が揺れる

落ち着け俺大丈夫だ完璧なんだ俺は…

入学してから早々、俺はモテてモテて仕方がなかった

幼い頃からモデルとして活躍してきたが

学校なんかでも目立つのはしかない

庶民の目の保養にぐらいならなってやってもいい

そう思いながら生活していた

ある日、俺は視線を感じていた

いつも熱っぽい視線やら妬む視線を感じていたが

それとは違く感じていた

だがその正体が掴めなかった

気になって気になって仕方がなかった俺は

周りを観察し始めた

そのせいで余計告白されたり誘われたりしたがうざったいばかりで進歩はなく苛立ちが増すばかりだった


そして唐突に出来事は起きた

昼休み廊下を歩いていると馬鹿をやっている生徒が足を滑らして階段から落ちてきた

仕方なく受け止め安否確認をすると強い、ものすごく強い視線を感じた

受け止めた姿勢のまま振り返ると

積み重ねた図書室の本を落としながらもこちらを熱く、そう熱心に光に反射して見えない眼鏡の奥からその視線は注がれていた

俺はこいつだ!と確信した

その日から俺は奴を観察した

名前は御子柴鶴

同じクラスだったらしい知らなかった

地味で暗くていつもカバーをした本を読むかスマホをいじって何かをイヤホンで聴いている

昼休みは隣のクラスから日焼けした男と共にどこかに消える

そんなどこにでもいる普通な男だった

正直落胆した

こいつかと

それでも俺は、奴を意識した

視線を感じるたびに奴はいて

俺を見ている

あの薄ガラスを隔てて俺を強く、見ている

そのことが俺はどうやら、嬉しいらしい

気に食わないが事実なのだから仕方ない、認めよう

そもそもなんでこんなに俺を見るんだ?

奴は男だ

女ならわかりやすい

羨望やストレートな欲求、付き合ってほしいだとか連絡先が知りたいだとか山ほどあった

全部断ったがな

見るぐらいは許すが立ち入るのは許さない

それが俺だった

なのに、俺は御子柴が気になって仕方ない

あいつは嫉妬の感情でもないようだ

ステータスとして俺と関わりたい様子でもない

………もしかして、俺に惚れてるのか?

男なのに……

男同士というワードに身の毛がよだつ

だが、あいつ

御子柴が顔を赤くして俺を見上げながら好きなんて言ってきたら、悪くない、なんて思ってしまったんだ

それからさらに、俺は御子柴を観察していた

そう、はやく俺に告白しろと念じながら


頭を振って思考を払う

そんな俺を長い前髪の奥の眼鏡のガラス越しに丸い瞳で見て目ているこいつはもじもじとしていて、

こんな時なのに可愛いと思ってしまった自分に嫌気が差す

こんなはずではなかった

苛立つもこの感情が何かなんて、認めたくない


「もう一度聞く。なんで俺に告白しない?」

その言葉に奴は憎らしくも

こてんと可愛らしくて首を傾げた

馬鹿なのか?

俺がわざわざ、告白しやすいように人気のないところまで連れてきてやったのにとぼけるなんて

くそ可愛いな….じゃないふざけるな!

意味もなく奴を壁に押し付ける

こういうのが好きなんだろ?知ってるんだぜ

壁ドン?っていうんだろ?

検索したら何故か壁をバットで突いている画像が出たがあれは違うと一目で分かった

あれで喜ぶ女子はいないだろ…いないよな?




「あの…」

俺に覆われたこいつが上目遣いでみつめてくる

今更そんなウルついた小動物みたいな目で見つめたって許さないからな

可愛いつもりかよアホ

今撮るから動くなよ

そう思ってポケットから新しく買い替えたばかりのスマホを取り出そうとすると壁に背をくっつけたままのあいつは

強く震えた

寒いのか?




「どうした?」

「あの、俺…」

「お、おう…」

なんだよそんな神妙な顔で…告白か?やっとだな

てかなんで学校一のイケメンモデルの俺様がお前みたいな

ちんちくりんを相手にしなきゃならないんだ?

いっつもいっつも見つめてきやがって…

健気かよ…


芝崎尊こと俺は

こいつ、御子柴鶴を逃すまいと校舎裏で待ち伏せしていたのだ




どうしてこう…

ドンッ

あっはいすみません思考放棄はやめます、はい…

まじまじと、見つめる

誰だ?こんなイケメンの知り合いはいない

いたらすぐにネタにして薄い本を厚くするために邁進しているはずだ

でもどこかで見たような…考えていると前からため息がこぼれる

えぇー…こっちがため息つきたいですけどもぉ

イケメンはため息すら様になってますね!

なんて言えないことを内心呟く

こんな人気のないとこでなんて…

あれしかないよな…

はぁ、初めてなのに、グスッ

痛いのやだなぁ

そんなことを考えながらチャックを引く


「お、お前何してんだよ!」


「え?何ってお金ですよね」

あまりないですけど、先週新刊買ってBL CD買ったばかりだからなぁ…あっ、三百円しかない…

日曜なら給料日で払えるけど、不幸中の幸い?それともヤバめな感じ?

変な混乱の仕方をしながら震える手でカチャカチャと手の中で三枚の硬貨が擦れ合いながら差し出される


「は?なんだよ」

「えっ?」

足りない?やっぱり?

コンビニでアイスぐらいなら買えるよ?

相手が小学生ならワンチャンいけるかも知れないが

このイケメンは訝しむように交互に俺と硬貨を見つめる

「意味わからねー。しまえ」

「あ、うん」

よかったー帰りにパピコ買お

安心して財布にお金を戻す

「では…」

「待てよ」

すり抜けるように脱出しようとしたが

肩を掴まれた


「もうなんなの!?お金ないって言ってるじゃないか!」

「誰も金を寄越せなんて言ってないだろ!お前より持っとるわ!」

証拠に長財布を後ろポケットから取り出し中身を見せる

おわぁ……しゅごい

つい昨夜見たエロBL同人誌のセリフが出てしまった

もちろん、口に出してはいない

何ていったって俺は隠れ腐男子だからね!


「じゃあ、なんなの?」

もう呆れたようにそう尋ねる

早く帰ってVtuberの読み聞かせBL配信を堪能しなければならないのだ


俺がそう言って悔しくも見上げるとイケメンは途端に表情を歪めた

なんなの?ほんと

イケメンだからってなんでも許されると思うなよ

ちょっと用務員さんのお兄さんといちゃついてくれたら許すし、全然ね!


「…だ」

「はい?聞こえませんよ?」

なぜか気が大きくなってしまった俺


「だから!なんで告白しないんだよ!おかしいだろ!」

……はい?

「告白?」

「おう」

「稲作?」

「耕すなよ。違う」

「…告白、誰に?何を?」

「そ、それは、決まってんだろ」

何が決まっているのかさっぱりだった

……もしかしてあれか

「もしかして好きなの?」

「す、好き?んなわけねーだろ!」

ツンデレかよ過食気味だわ

まーいーけど

あれかな?素直になれなくて好きな子に告白もできずその子がとられそうになって焦ってる系とか

または幼馴染にいつしか恋愛感情を抱いてしまい

苦悩しながらも側にいれればいいとか甘いこと考えてたらあいつに好きな人ができたとか言われ、自分の中の醜い感情を知る…的な

大好物だよありがとう

心の中で拍手した


「何ニヤついんだよ」

「な、なんでもない」

いけないいけない…俺は紳士なオタク

リアルではおくびにも出さない所存だ 

しかしイケメンが頬を染めながら照れてるのは

確かにキュンとくるな

次のイベントではそのネタにするか

ありがとう陽キャのイケメンくん

じゃあね

「どこに行くんだよ」

苛ついた声を出し両肩を掴まれた

ひぃすみましぇん

内弁慶ウケる!と幼馴染の悪友が言っている通りなのかもしれないな俺は


「あー……うん、わかった。わかりましたとも」

「おっ、そうか。へへ、最初からそうしとけよ全く」

気分が良くなったのか優しく肩を撫でられた


切長の眉が凛々しく整った顔のパーツがこの男の美形を作り上げている

神様キャラクリ頑張りすぎ


「つまり、好き、なんだよね」

「そ、それはお前が、まぁ、嫌いじゃねーよ」

明後日の方を見ながら後頭部をかいている

テンプレかよ

「わかったよ」

「わかったのかよ」

頷く

わかるさ。恋愛したことないけど知識だけは山の如く!!


「恋愛相談だよね?」

「違うわ!」


校舎裏に美声のツッコミが響き渡っていたとかいないとか










続くかもしれない?



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