第24話:トロピカルパラダイス!10

「キョウハオマツリダ。フルーツタクサンダス。タノシンデイケ」

長老が言うとエルフたちも嬉しそうに踊り始めた。


すっかり暗くなった島だったが、今日はたくさんの炎の灯りで明るくなっている。

タタンを討伐した記念のお祭りだ。

神殿は取り壊され、島に実るフルーツは中央の広場に山のようにつまれていた。

広場の真ん中にはキャンプファイヤーのように一段と大きな炎がそびえ立っている。

それを囲んでフルーツの仮面を被ったエルフたちが踊っていた。

太鼓やらウクレレやら、訳のわからない楽器まであったが、皆陽気に演奏し、リズムにのっている。


「みんな楽しそうね」

「そうだな。こんなひょうきんな奴らだったとは思わなかったぜ」

特等席の木で編まれた豪華な椅子に座り、ビターとメルトたちはフルーツを頬張っていた。

メロンにパイナップル、リンゴにマンゴー、マスカットなど、贅沢なフルーツが目の前にたくさん並んでいる。

「なんか、ここまでVIP待遇だと申し訳ないような」

ビターが言うと、桃にかぶりついているメルトがん、と顎で方向をさす。

そこには美人なエルフたちに囲まれ武勇伝を語るおっさん。豪華な椅子にのけぞり、首にはハイビスカスをかけられ、ココナッツミルクを優雅に飲んでいる。

「あんたはアレを見習った方がいいわよ」

「……後でシメてやる」

「ビター様メルト様っ。このメロンとても美味しいです!」

満面の笑みを浮かべながらメロンを食べるフィナンシェを見たら怒りも忘れてしまった。


「たのしんでる?」

双子たちがやって来た。

二人の頭にはハイビスカスが乗っかっていて可愛らしい。おっさんとは大違いだ。

「ああ。美味いフルーツ貰ってるぜ」

「それなんだが」

「たのみがある」

「? 何だ、まだ何かあるのか?」

ジュレとジャムはキラキラと期待の眼差しでビターを見つめ言った。

「あれつくって」




「ナンダコレハ!」

長老が細い目を皿のように丸くして叫んだ。

他のエルフたちも同じような反応をしてビターを見ている。

広場の真ん中で、ビターは鼈甲飴を作っていた。

初めて見る琥珀色の液体にエルフたちは固唾をのむ。

「ソレハクエルノカ」

一人のエルフがビターに問いかけると、ビターは言った。

「ああ。だが、こっからがスペシャルだ!」

ビターは側に置いてあったイチゴやリンゴに木の枝を刺し、持ち手を作ると、鼈甲飴を垂らした。

フルーツに琥珀色が絡みつく。

『オオー!!』

光沢を放つ果実にエルフたちは大興奮。

ビターは完成したフルーツを持って言った。

「名付けて“フルーツ飴”だ!」

『フルーツアメ!』

またもエルフたちは大興奮。

ビターは「並んで並んで」とフルーツ飴を配った。

「コレハカクメイダ……!」

長老もフルーツ飴片手に小さく震える。

隣でおっさんが揉み手をして長老に呟く。

「どうです? フルーツ飴の屋台、島にあれば観光客も喜ぶし、大陸との絆が深まるかも」

「イイ!」

「じゃあここにサインを……」

「あんたは商売に興じてんじゃないわよ!」

メルトはおっさんの頭を思いきり叩いた。



楽しいお祭りを終え、次の日の朝、ビターたちはフルーツアイランドを旅立つことにした。

行きに来た船は海の藻屑となってしまったことを長老に告げると、「ソンナコトカ」と長老はどこにあったのか立派な船を用意してくれた。

「いやぁ、この船なら観光客がどれだけ運べるか……」

「おっさんは本当にここに残るのか?」

「へい、観光客にも安全でエルフの方とも交流のできる島にしてみせます。それにフルーツ飴なんて開発もしてもらったし、こんなに儲かる話滅多にありやせんよ」

「お前……」

指でドルマークを作るおっさんに「ナンカヨカラヌコト、イッタカ?」

と長老が細い目で睨んでくる。

おっさんは慌てて「いえ、素敵な島にしやしょうね!」と誤魔化した。


「やんきーありがとう」

「またあえる?」

双子たちが背中にぶら下がり離れない。

「あー来るっての! だから離れろ」

「ビターったら、すっかりなつかれちゃったわね」

メルトがフィナンシェに話しかける。

「って、どうしたのそれ!」

フィナンシェの頭にはフルーツの被り物がはめられていた。ご丁寧に角のコーンの部分はちゃんと出るようにくり貫かれている。

「自分は“神風”から人々を守った英雄らしいです」

「ああ、あなた吸い込んでたものね」

その後で盛大にぶちまけていたけれど……とは今さら言えない。

島のエルフたちにとって、彼の英雄譚を汚すことになるので。


「イツデモクルトイイ」

「おう、長老も元気でな」

もう一度握手をする。

「ジュレとジャムも、島の人たちと仲良くやれよ」

『やんき~!』

今までどんなに怖い目にあっても泣かなかった双子たちはこの日初めて涙を流した。


こうして、常夏の島の冒険は幕を閉じたのだ。




「ビター、あんた肌ツヤツヤしてない?」

「そう言うメルトもモチモチしてるぞ」

「やーねーもとから私はモチモチしてるわよ」

「見てください。自分も毛がフサフサしています」

「いやロバはちょっとわからない……」

どっさりお土産に貰ったフルーツの袋を抱え、ビターたちはそんな会話をしていた。

「もしかして、このフルーツにアンチエイジングの効能とかあったりするのかしら」

「そういえば、長老を除いた島の皆さん、若々しい容姿をしていられましたね」

「不老不死ってか」

「なんか魔女みたいね」


メルトの台詞に全員が黙りこむ。

魔女。

タタンはそう言っていた。

あれほど強い魔物モンスターを従える魔女とは一体何者なのか。

そして集めたフルーツを使って何をしようとしているのか。

今回の島の一件でたくさんの謎が残った。

そして、一つだけわかることがある。


自分たちはこの件に足を突っ込んでしまったということ。


「ま、考えても仕方ないよな」

ビターが言うと、フィナンシェも頷いた。

「なるようになる、です」

「……おい、メルトなに袋を見つめてんだ」

「これ全部食べたら私も不老の赤ちゃん肌になれるかな」

恐ろしいことを言うメルトにビターは走り出した。

「ちょっ! なんで逃げるのよ」

「これは次のスイーツ作りの材料に使うんだよ。それよかお前ダイエット中だろ!」

「フルーツはヘルシーなのよ~!」

「じゃあ俺に追いついてみろってんだ」

メルトは袋を持って走るビターを追いかけた。

先を行く二人に、フィナンシェも軽い足取りでついていった。

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