第19話:トロピカルパラダイス!5

「これでだいじょうぶ」


ジュレとジャムはビターたちを縛っている蔓をほどいてくれた。

「久々の自由っ!」

「手足が動かせることがこんなにありがたいなんて」

メルトもフィナンシェも心なしか表情が生気が戻ったように見える。

「こんな場所はこりごりでさぁ」

ビターたちより早く捕まっていたこともあるせいか、おっさんはまだゲッソリしていた。


「帰るぞ帰る! こんなところ今すぐ出るぞ!!」

身体の自由を取り戻したビターたちが真っ先考えたことはここから出ることだった。

フルーツをたらふく食べられる観光のつもりが、捕まって縛られてこの仕打ち。理不尽なことこの上ない。

今更になって怒りがこみ上げてくる。

「もーうんざりだこんな島!」

「二度と来るかバーカ!」

ビターとメルトはありったけの悪態を吐きかけた。

そのままずかずかとがに股で最初に着いた海辺を目指す。二人とも血管が浮き出ていた。

「だんだん似てきたなこの人たち」

フィナンシェがため息を吐いた。


「……ん?」そこでフィナンシェがあることに気付く。


「というか、どうやって帰るんです?」

「あぁ!? どうやってって、船で来たんだから船に決まってんだろ」

「当然でしょ!? 泳いで帰れると思ってんのあんたは」

キレ気味に二人が答える。

その気迫に「ひぇ」とおっさんが震える。


それでもフィナンシェは臆さずに言った。

だって、二人は大切なことを忘れている。

「自分たち、破損した船から流れ着いてここに来たじゃないですか」

「……」

「……」

「……」


「「?」」


(経緯を知らない双子を除き)全員が黙った。


「本当だ! 帰れねェェェッ!!」

「どどどど、どうすんのよ!?」

海辺に向かっていた足をユーターン。

早足で砂を蹴り、捕まっていた原っぱまで戻ってくるビターとメルト。どうやら本当に船で帰るつもりだったらしい。

「船がないんじゃどうやって帰るってんだよ!」

「お、落ち着いて下さいビター様。とりあえず、島のエルフの方々は船を持っていると思います」

「でも、あんな殺意丸出しのエルフたちが船を貸してくれるとは思えやせんぜ……」


あの時のエルフたちの敵意溢れる視線が甦る。

あの目は、マジだった。


「わ、私たち、一生ここで暮らすの?」

先程とはうってかわって弱気になってしまったメルトは泣きそうな顔でそう言った。

「お前、急に悲観的になるなよ」

小さい頭を優しく叩くように撫でる。

「けれど、どうします? 帰る手段としては実質それしかないと思いますけど」

「はぁ~っ。こんな島来なければよかったぁ」

「おっさんも考えろよ」

「考えるも何も、あの野蛮なですエルフたちと仲良くする方法なんてありやせんぜ」

「だよなぁ」


ぐうぅぅぅ……


誰かの腹の音が聞こえた。


「おなかすいた」

「おなかぺこぺこ」


ジュレとジャムがお腹を押さえながら言った。


「われらおまえらたすけた」

「おれいになにかたべものくれ」


そういえば、この双子が現れた時も同じ音がした。

あれは、この兄弟の腹の音だったのか。

「何か作ってやりたいのはやまやまだけど」

「次フルーツを勝手に採ったらどうなることやら……」

「おなかすいた」

「うえてしにそう」

双子たちは大きな瞳に涙を浮かべ懇願する。

「ヴっ」と息詰まる。子供に泣かれるのは困る。


「何かないか……」

フルーツは駄目。しかし食べられるもの。

ビターはくまなく周辺の草木を見る。


「……これは!」


目に入ったのは筒のような茎が真っ直ぐに伸びた植物だった。

「おい双子。これは採っちゃいけないものに入るか?」

ジュレとジャムはふるふると首を横に振る。

「それただのざっそう」

「われわれたべぬ」

「おっし、じゃあ大丈夫だな」

ビターはそれを根本から引き抜くと、固い茎を力任せに真っ二つに割った。

すると、割られた断面から白い粉状のものがパラパラと出てきた。

「何これ? 茎の中から小麦粉が」

「これはシュガーウッドだ」

「シュガーウッド?」

「一見ただの植物に見えるが、食べることが可能な植物で、砂糖の代用品にもなる。双子によると、この島のエルフたちもそれに気付いてないようだし、宝の持ち腐れだな」

ビターは所持していた鉄の器を取り出し、白い粉状のもの、シュガーウッドを器の中に入れる。

「後は火だが……」

「ひをおこしたいの?」

ビターが唸ると、双子の左に立っている方……ジャムが問いかける。

「ああ」

「ちょっとまってて」

それを聞いた右の方、ジュレがとてとてと草原の少し先にある森の方へ入っていくと、いくつか太い木の板と枝を持ってきた。

それを見て察する。

「やっぱサバイバルだよな~……」

「「? われら、いつもこれ」」

「ああ、そう……」

まさかの火起こし体験をさせられるビターであった。



やっとの思いで火が着くと、その上に鉄の器を置く。

器に乗っていたシュガーウッドは白い粉状のものから、こんがりと琥珀色の液体に変化した。

「すごい! 液体になった!」

メルトがキラキラと目を輝かせる。隣の双子も興味深そうに見つめている。

「これを少しずつ皿に垂らして……」

数滴ずつ皿に液体を垂らし、時間をおくと、琥珀色の液体は固まり、固体に変わった。


「完成。鼈甲飴べっこうあめだ!」


「べっこうあめ?」

「なあにそれ?」

「古くから伝わるキャンディーみたいなものだよ。食ってみればわかる」

「「いただきまーす」」

双子は一粒を掴み口に入れる。

「! おいしい」

「あまーいっ」

初めて食べる鼈甲飴にご満悦のジュレとジャム。

「ほんと美味しい!」

「いくらでもいけますね」

「この植物取り放題なら、この飴も売り放題……」

いつの間にか他の三人もご相伴に預かっている。

即席のシュガーウッドの鼈甲飴はあっという間に完売した。当たり前のようにビターの分はなかった。



時間は経過し夜になった。

火起こしも二度目となればコツも掴める。

ジュレに拾ってきて貰った余りの木の枝で焚き火を囲む。

夜になってもこの島は蒸し暑い。

湿度も高く、流れた汗がべたべたと肌に張りついて不快だ。

風呂に入りたい。切実に思った。

そんなビターたちとは反対に、ジュレとジャムの双子兄弟は鼈甲飴を食べてご機嫌だった。


「ひさびさのかんみ」

「おいしかった!」

「……そりゃよかったな」

双子の笑顔にビターも頬を緩める。


「われらふるーつきんしのため」

「あまいものたべられぬから」


「え?」


この発言に違和感を感じた。


「自分たちの島なんだからお前らはフルーツ食ってもいいんじゃないの?」

「「……」」


ジュレとジャムは顔を曇らせた。


「そうゆうの」

「だめになった」

「駄目になったって……」

「どうゆう意味?」

双子たちは顔を見合せ、やがて決意したかのようにビターたちに言った。


「「“たたんさま”がくるから」」

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